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死神の犯行による二人目の犠牲者が出た。その可能性の是非について、高校生による疑似捜査会議で話し合いが進められた。サトリがスマホの操作を終えて説明する。
「昨日知り合った刑事さんに連絡を入れて調べてもらうようにお願いしてみた。何か判ったら折り返し連絡をくれるって」
続けて話を整理する。
「現時点では自殺か事故か判っていない。でも健康な中学生が、しかも友達同士の二人が二日連続で自然死するとは考えにくい。後追い自殺の可能性が高いけど、死神の殺害予告がある以上、他殺の線で考えてみよう」
そこで疑似捜査官らに意見を求める。
「犯行の手口や現場の状況は情報が入り次第検証するとして、現時点でどのような犯人像をイメージしている?」
こういう時に率先して口を開くのが仁太だ。
「確実に言えるのは、『デスノート』のセリフをパクるくらいの愛読者ってことだな」
富彦が付け加える。
「さらに言うと、キラの信奉者で間違いないね」
レンが反論する。
「冗談じゃない。原作に対して愛があるならパクるわけないだろう。リスペクトを欠いた行為だ。想像力の欠片もない」
珍しく感情的になり、怒りを滲ませて続ける。
「原作を模倣して現実世界で事件を起こせばどうなると思う? 関係ないのに作品や原作者や読者が批判され、最悪、関連作品の公開が自主規制されるかもしれないんだ。とんでもなく知能の低いヤツだよ」
嫌悪しながらも続ける。
「死神が使っている『デスボード』という和製英語だが、個人的に、これがとにかく気持ち悪い。ボードには確かに掲示板という訳も広義に含まれている。でもデス・サイス、つまり死神の鎌のように、デス・ボードならネイティブに直訳すると死神の板、つまり物理的な板の凶器をイメージするはずだ」
Lの後継者を目指す少年が続ける。
「物理的な凶器になりえないノートをタイトルにした原作者のセンスは秀逸だ。だが模倣犯のセンスは遠く及ばない。これなら探偵Lじゃなくても、犯人は和製英語を粗製濫造する日本人だと推理できる」
仁太が豪快に笑う。
「ハハッ、おれたちが相手するのは、おバカで残念なライトってことか」
富彦が付け加える。
「でも本家のキラよりも持ってる力は強大だ。知能が足りない分、厄介かもしれないよ」
レンが首肯する。
「探偵Lを敬愛するオレたちとは思考や発想が違うのは確かだな」
マイミィが率直な感想を口にする。
「みんなは夜神月をイメージしてるけど、ワタシは違うと思う。『デスノート』って二十年くらい前に連載が終了してるんだよ? だったらその当時のファン層から考えて三十代以上で間違いないよ」
天使が反論する。
「イジメに関係しているから、わたしは子供だと思うけど」
仁太が首を傾げる。
「やってることが幼稚だからといって子供とは限らないぞ? ミステリーなら、妹が殺された復讐で兄や姉が犯人になるパターンだ」
富彦が付け加える。
「親や先生というパターンもあるよね」
レンがさらに付け加える。
「ミステリーマニアを驚かせるなら小学生の弟か妹、または子供の犯行に見せ掛けた祖父母のパターンだってあるさ」
サトリが話に加わる。
「犯人がホンモノの死神だったら読者から批判されるよな」
マイミィが反論する。
「でもそれが事実なら仕方ないよね」
天使が否定する。
「死神なんていません」
「それなら天使もいないことになるけど?」
「天使は心の中にいます」
「だったら天使って名乗らないで」
「自分で名付けたわけじゃない」
「チャンネル名にしてるでしょ?」
「動画は、わたしの心の中そのものだから」
「うそくさい」
「見えない人には見えないんです」
「投げ銭でトラブルになる未来しか見えないよ」
「そんなことにはなりません」
「猫を被っているようにしか見えないからね」
「猫が猫を被っても、それは猫でしかないから」
「中身は化け猫かもしれないでしょう」
「スフィンクスだってネコ科ですものね」
「自分が神聖だと言いたいの?」
「あなたがわたしを猫だと言ったんです」
「違う。自分のことを猫だと言ったのはノリコだよ」
「言ってません」
「ワタシは猫の皮を被った人間っていう意味で言ったの」
「それは猫を被っているように錯覚した、あなたが悪い」
そこで議長のサトリが割って入る。
「一旦、落ち着こうか。それと動画で互いに言及するのはやめておこう。コメント欄で視聴者がバトルを始める可能性がある。一般人に誹謗中傷の書き込みをさせないのも配信者に必要な技術だ」
マイミィが同意する。
「ワタシたちなら大丈夫だから心配しないで。小さい頃から言いたいことを言い合ってきたから今さら変えられないけど、陰で悪く言ったことは一度もないから」
天使がボソッと呟く。
「表でも言ってほしくない」
「ワタシしか言ってあげる人がいないでしょ」
「それは言う必要がないから」
「誰も本音をぶつけてないだけ」
「本音は必要な時だけでいい」
「望んで手に入るものじゃないよ」
「わたしはたくさんのコメントをもらってる」
「気に入らないのは消すくせに」
「それは視聴者を守るため」
「ワタシは自分を守るために消してるよ」
「本音が免罪符にならない何よりの証拠ね」
「もう、言ってあげないんだから」
「それは、ただのいじわる」
天使が拗ねたところでサトリが割って入る。
「コメント欄の管理はこれからD4と共同で行うようにしよう。何がヒントになるか分からないからね。編集も富彦のチームにお願いしたことだし、みんなで責任を持とう」
続けて注意事項を確認する。
「ここで話したことをそのまま動画の中で語るのも危険だ。関係者を疑うだけでも冤罪を生んでしまう。警察の真似事をしているが、捜査権がないのは心に留めておこう」
それには行動的な仁太も慎重になる。
「おれたちが犯罪者になるなんて笑えないもんな」
富彦がお手上げと言わんばかりに頬杖をつく。
「それでどうやって死神を炙り出すんだって話でもあるけど。探偵Lのように命を捨てる覚悟を持つというのも酷だよね」
Lに憧れているレンが思案する。
「犯人は子供、または中年以上。いずれにしても殺人だと認められた場合に限る。死神のメッセージが子供のイタズラに過ぎないのなら、オレたちが出しゃばる必要はない。それは警察の仕事、いや、親の責任だからな」
少年探偵が続ける。
「しかし十五年前の犯人と同一人物の場合、手掛かりはそこあるはずなんだ。一応の解決を見たわけだから、DB事件を調べれば犯人と出くわす可能性があるし、その死神とやらを今回も封印させることだってできるだろう」
そこでマイミィチームにお願いする。
「そっちの動画でDB事件を話題にしてくれないか? ネットの一部で盛り上がったという話だから、当時を知る視聴者がコメントを残すかもしれない。こっちはしばらく様子を見る」
そこで疑似捜査会議は終了し、動画制作チームが個別に打ち合わせを行うのだった。
※
帰宅後、サトリは死神少女と会うために家を出た。近くのコンビニで買い物を済ませた後、そのまま自宅の地下にあるシアタールームへと向かった。
十六畳の部屋にはスクリーンの前にリクライニングチェアがあり、ミニバーにはキッチンがあり、カウンターで食事を摂ることもできた。
隣は寝室になっていて、緊急時はシェルターとして利用できるのだが、すべては用心深い性格の最上裕一郎が希望した設備だった。
「初めて女の子を家に連れてきたというのに、母さんは何も言ってこなかった。俺にしか死神が見えていないというのは本当だったんだ」
誰にも見られてはいけないということで、色々と考えたみたが、自宅で会うのが一番安全であることから、近くのコンビニで待ち合わせをして、サトリがヨミを自宅へ招いたのだった。
「緊張した」
黒いフード付きのマントを羽織ったヨミは、死神になっても俯きがちなクセは直らないみたいだ。
「飲み物は用意できない。職業柄、コップを使っただけで客がいたってバレちゃうからね」
「大丈夫」
防音壁になっているので小声になることはなかった。
「とりあえず座って、いま音楽をかけるから」
サトリがオーディオを再生させると室内にクラシックが流れた。
「シューベルトの『弦楽四重奏曲14番』だけど、『死と乙女』という愛称で呼ばれているんだ。有名だから知ってたかな?」
ヨミが首を振ったので、サトリが隣に座って音楽を聴きながら解説する。
「死に怯える乙女の前に死神が現れて拒絶するんだけど、死神は『友であり、罰しにきたのではない。安らぎを与えにきた』と言うんだ」
それを死神に向かって説明した。
「短い詩だから様々な解釈ができるけど、『魔王』の詩を併せて読むと、やはり若くして死に直面した少年少女に対して安らぎを与えたいと願ったんじゃないかと思う」
作曲家シューベルトは世界三大『アヴェ・マリア』の一人でもある。
「いや、作詞家がどう考えていたかは分からない。俺がそう考えてるだけなんだ。悪人だから若くして死ぬんじゃないんだよって」
そこで死神少女の目を見る。
「君は悪くない」
ヨミは視線に気がついているものの、恥ずかしそうにして顔の向きを変えられないでいた。
「死神は悪くないんだ。存在自体に罪はない。罪を犯した人だけが罪人になる」
そこで天井を見上げる。
「そんなこと言ったら、死神を殺人の罪に問えるのかって話になるけど」
人類史上最大の難事件に挑んでいるのがD4だった。




