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38話. 解呪の光と記憶の棘(トゲ)──魔法が導いた、過去への扉

マインドコントロール?悪役令嬢モード?ちょっと待って、話が重いんですけど!?

でも大丈夫、うちのリンダが光ってます。あとアリアナも、なんかいます。

さあ、今回も全力で!心と記憶の大掃除、始めます!

「ルキア・ノーヴァ・エクス・メンタリス──束縛されし心よ、真実の声へ還れ……!」


 リンダが両手を広げると、その掌からまばゆい光が放たれ、セシリアの身体へと降り注いでいく。


 彼女のベッドサイドに立ったまま、リンダは謎めいた呪文を繰り返し、静かに紡ぎ続けた。やがて、セシリアは苦悶の表情を浮かべ、全身を激しくよじらせる。


「だ、大丈夫ですか!?お嬢様!!」


「侍女長……この苦しみを乗り越えないと、解呪はできません。どうか、耐えさせてあげてください」


「は、はい……!」


 リンダの額に汗が滲む。その目は真剣そのもので、どこか神々しさすら感じる。


「……うーん。これは、かなり強力ですね。エリザベスお嬢の力だけじゃありません。もっと上の……おそらく、特等魔物クラスのマインドコントロールがかかっています」


 すごっ!?なんかリンダ、本格的じゃん!……いやでも、あたしの中ではまだ〝鈍感ヒーラー〟って呼び名には異議ありなんだけど!


「……はっ!?」

「えっ、どうしたの、リンダ?」

「こ、これは……セシリア嬢の記憶……!?」


 彼女が苦しむその姿と重なるように、リンダの脳内に光景が次々と焼き付いていく。

 ──それは、半年前の出来事だった。


 

 *セシリア視点


 ──体が、動かない。


 目を開けても、視界はぼんやりと霞んでいた。重たい瞼の裏に焼き付いているのは、王女殿下──セリーナの、最後の姿。


 あの人は、私をかばって……。


 ギリ、と奥歯を噛む。胸が焼けつくように痛む。けれどそれよりも、もっと深い場所から何かが侵食してくる。


「くっ……やめ……ろ……っ!」


 頭の中に響く声がある。私のものじゃない。誰か別の、冷たく、狂気を孕んだ意志が、私の思考に土足で踏み込んでくる。指一本動かすことさえ困難で、まるで精神の奥底に鎖を巻かれているようだった。


「う、あああ……っ!」


 叫びともつかない声を上げて、ベッドの上で身をよじる。治療院の天井がゆがんで見える。誰か、誰か助けて。私が私でなくなってしまう──!


 そして、ぷつりと意識の糸が切れた。


 次に目を開けたとき、私はもう、別の何かになっていた。


 長く伸びた髪が、視界の端で揺れる。鏡に映る自分の姿は、見慣れた黒ではなく、艶やかなピンク色。まるで血と毒を滲ませたような、不穏な色彩。


「……あら、似合うじゃない」


 口が、勝手に笑った。ドレスの裾を裂く音が響く。次々と剥がれ落ちていく、従順で穏やかだった〝私〟の象徴。かわりに纏うのは、鋭く、豪奢で、他人を拒絶するような衣装。


 侍女たちが戸口で言葉を失っている。侍女長の眉が微かに震えているのが見えた。でも、誰も何も言わない。口出しできないほどに、私は〝変わって〟しまったのだ。


 ……そう、変えられてしまったのだ。


 それでも。

 それでも、ふと──

 窓辺に咲く薄紫の花を見た瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。


「……セリーナ……」


 気づけば、頬を涙が伝っていた。熱くて、静かな涙だった。

 この涙だけは、まだ私のものだと思いたかった。


 そして──

 ヒールの音が、石畳の廊下に高らかに響く。


 私の後ろにはソフィアをはじめとした数人の仲間たち。無理に従わせているわけじゃない。皆、自分の意志で私の隣を歩いてくれる、心強い友人たち。


 けれどこの学園では──私たちは常に〝見られている〟。だからこそ、私は前を向いて堂々と歩く。悪役令嬢の仮面をかぶってでも。


 そこへ現れたのは、あの女。


 ミルクティーベージュのロングヘアが揺れ、透き通るような薄ピンクの瞳が、こちらを射抜く。着こなしも隙がなく、気品に満ちた完璧な姿。ラングレー公爵家の令嬢にして、セリーナ王女を裏切った者。


 私の目の前で立ち止まり、互いに視線がぶつかった瞬間、空気が凍る。


「……相変わらず、ご立派な態度ね」


「ふふ、貴女こそ。ご自慢の策略は最近どうかしら?ああ、そうそう──ジョン様とのご婚約、おめでとうございます」


 私はわざとらしく微笑んで、彼女の薄い感情を逆なでする。


「ええ、ありがとう。あなたには、関係のないことだけど」


「いえ、関係あるわ。なぜなら──私が彼を奪うから」


 ピクリとエリザベスの眉が動く。


「ほほほ……王都評議会でジョン様が王太子候補に選ばれた今、私の立場はすでに〝次期王妃〟。貴女のその尊大な態度……楽しめるのは今のうちだけよ」


「ええ、そう言うと思った。でも残念ね。私は……気に入らないの。だから、奪わせてもらうわ」


「ふふ……奪えるものなら、奪ってごらんなさい。貴女は私には勝てない」


「面白いわね。それなら、やってみせるわ」


 睨み合いは数秒続き、やがて二人とも何も言わずに歩み去った。


 ──この学園における静かな戦争の、ほんの一幕。


 その日の朝。学園の門をくぐった瞬間、妙な気配を感じて馬車を止めた。遅刻ギリギリで駆け込んできた二人の女生徒。ボサボサの髪にリュックを抱え、息を切らせながら階段を駆け上がっていく。


 ……あの子たち、確か……庶民枠の、リンダと、アリアナ?


 目を細めた瞬間、アリアナの胸元で揺れる何かが目に入った。


 ──ブローチ。


 小さな宝石が、光を受けてきらりと輝く。

 瞬間、心の奥で何かが揺れた。ざらりとした記憶の断片。ひび割れたような感覚。なぜか、分からない。だけど、確かに何かを思い出しかけたような──


 ……どうして、涙が出そうになるの?


 気づけば、私は二人の背中を見送っていた。



涙あり、仮面あり、腹黒ライバルあり。そして今日も、解呪ヒーラーは汗だくでがんばりました。

……なのに誰もリンダを褒めてくれないって、どういうこと!?

次回、まだまだ続く静かな戦争、ご期待ください!

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