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Part92 森の怪物



 大きく開かれた口から放たれた火球をどうにか寸前で避け、その熱気を間近で感じつつ攻めに転じる。

 と言っても、スキルが使えない以上、こちらに許された行動は走り寄ってちまちまと攻撃することだけなのだが。


 一応、刀のステータスそのものはかなり強いので、攻撃自体は弾かれることなくムシュフシュに通っている。

 しかしそれでもスキルが使えない以上、あまり大きなダメージは通っていないはずだ。



「シュォォアア!!」



 甲高く吸い込むような音が上がる。ブレスの予備動作だ。

 スキルが使えなくなるというフィールド特性を考慮してくれているのか、ムシュフシュの予備動作はヴォックソにしては分かりやすい。

 余裕を持って……とはいかないが、それでも十分無傷で回避することは可能だった。


 しかしそれでも一度死ねばクエストごと失敗になるというプレッシャーは重い。

 ダメージがどの程度通っているのかわからないというのも、精神的には結構キツかったりする。先が見えない感じだ。



 まあ、ムシュフシュは伝承によっては羽が生えてたりするので、そのバージョンだったら争う間も無く瞬殺されていただろうな。

 そう考えるといくらか気が楽に……なるわけがない。羽が生えてようが生えてなかろうが明確に強敵だ。



「ねえ、君。ちょっと作戦の提案があるんだけど」


「ん?」


「次のブレスの予備動作、口の中に攻撃出来たりするかい?」


「あー……出来なくはない」



 だいぶ難しいが、やれないこともないだろう。

 ブレスも火球も隙の大きさ的には変わらないが、火球が高い位置で溜めるのに対し、ブレスは普通の跳躍でも届くような位置で溜める。

 それなら問題はない。



「よし……行くか」



 三連続の火球を斜め方向に走って避け、ムシュフシュが近接攻撃を行わないギリギリのラインに立って待機する。



「シュォォアア!」



 位置が高い。これも火球だ。

 距離を意識して回避。もう一度間合いを測って待機する。


 もちのすけ狙いの火球を放った後、ムシュフシュはその蛇の頭を下げた。正真正銘、ブレスの高さだった。



「シュォ——」



 今だ。

 全速力で走り、跳躍。そのままムシュフシュの口内に刃を突き立て、横方向へ強く引き裂く。


 この攻撃にどんな意図があるのかはわからない。そこまでの作戦は聞いていないからだ。

 しかし、現状できることは全てできた筈。

 恐らくはこの後もちのすけが何かをするのだろう。


 俺はそう思いながら横を向いて——極めて近い距離でムシュフシュと目があった。

 雰囲気でわかる。これめっちゃ怒ってるわ。


 慌てて回避に出るが、恐らくはもう遅い。

 そのままムシュフシュは大きく口を広げ——



「次は僕の番だよ」



 頭の上に飛び乗ったもちのすけが、ムシュフシュの頭を串刺しにした。

 刃は恐らく下顎にまで到達しており、口を無理矢理閉ざした形になっている。


 次の瞬間、バグン! と爆発音が響き、ムシュフシュが大きく仰け反った。

 閉じた口の中で炎が暴走したようだ。


 その隙に、俺は急いで間合いの外へと駆け出した。

 そのまま刀を引き抜いてきたもちのすけと合流。次の行動を決めるために言葉を交わす。



「うーん、逃げよっか」


「ああ!」



 こんな化け物とマトモにやりあえる筈がない。

 元から逃げるのが賢い選択なわけで、一度怯ませることができた以上、逃げ出す以外の選択肢などなかった。

 ムシュフシュを倒さずとも、生き残れば試験は通過でき——


「シュォォァアアア——」


「は!?」


「やばっ」



 辺りに響き渡る吸収音に、俺は反射的に回避行動をとる。

 瞬間、俺の真横を今までで一番強い炎が通った。


 慌てて振り向くと、そこには怒り狂ったムシュフシュ。口の損傷など気にすることもなく、むしろ今までよりも強い火力を宿していた。



「……これ勝てるのか?」


「いやあ……無理かな」


「マジかよ……」


「ムシュフシュは茸熊、黒猿、棘猪に並ぶ、この森の四天王の一角だからね。普通は目をつけられた時点で詰みだよ」



 茸熊、黒猿……心当たりのある名前があるな。アイツらと同じ枠なのかよ。



「棘猪っていうのもいるんだな」


「その名の通り、全身から棘が生えている猪だよ。丁度あんな感じにね」



 もちのすけが指差した先には、こちらに駆け寄ってくる全長数メートルの大猪がいた。

 その表面からは大量の棘が飛び出していて、猪というよりもハリネズミのようだ。



「棘猪ってアレよりデカイのか?」


「いや、あれくらいの大きさだね」


「……じゃあアレじゃん!」


「確かに!」



 何なんだマジで。

 ヤバい奴とエンカウントしすぎだろ。


 先ほどのブレスで焼けた道を走る棘猪は、恐ろしいスピードでこちらに走ってくる。

 一度避けるならともかく、二体を相手に逃げ切るのは無理だろう。



「詰んだな……」



 そう考えた俺だったが、しかし、状況は思わぬ方向に進み出す。


 棘猪が俺たちをスルーして走り抜けていったのだ。



「……え、なんで?」



 呆然とする俺達の前で猪が突撃した相手。それはムシュフシュだった。

 虚を衝かれたムシュフシュは勢いよく突き飛ばされ、その身体を強かに打ち付ける。

 しかし当然やられっぱなしで終わるはずもなく、即座に身体を起こしたムシュフシュは猪に向けて炎を放った。



 これは……縄張り争いか?



「まあいいや、逃げるぞ!」



 背後で巻き起こる怪獣大戦争から逃げるように、俺たちは一目散に逃げ出したのだった。

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