Part91 立ち話もなんですし
本日二話目
さて、それから更に数体の切り株を撃破し、鉢合わせてしまった化け狐なんかも倒しつつ歩いていると、開けた場所に人が二人転がっているのが目に入った。
「死んでるっぽいな……」
遠目に見ても、二人共微動だにしていないことがわかる。死んだフリをするメリットも無いだろうし、一度周囲の安全を確認してから俺は死体のもとへと駆け寄った。
狙いは彼らが持っているかもしれないアイテムだ。
このゲームでは、死体は五分で消滅する。
消えるまでの五分間であれば、プレイヤーは死体からアイテムを盗むことが可能だ。
ただ、死んでいるからと言って全てのアイテムを盗めるわけではない。
死体がインベントリ内に所持しているアイテムからランダムに選ばれたいくつかのものが、盗めるアイテムとして表示されるのである。
選ばれる個数に関しては、死体のカルマ値というのが影響している。カルマ値とは悪行を働く度に溜まっていく罪のパラメーターであり、簡単に言うと『PKを繰り返している人間ほど死んだ時にアイテムを大量に持っていかれやすい』ということだ。
例外として絶対に盗めないアイテムもある。ユニークアイテムなんかがそれだ。
『死んだら確実に窃盗可能状態になる』というユニーク武器もあるにはあるらしいが、そういうのが書かれていない限りユニークアイテムが他人の手に渡ることはない。
「さて、盗めるのは……おっ」
死体のインベントリを開いてみると、目的のものは意外にも早く手に入った。
・カクタラキの巡茸 回復アイテム/料理素材
『碧き森ナヴィル』に生えるキノコ。
体内を循環するエネルギーに働きかけ、自己修復能力を高める力を持つ。
生で食べた場合、三十秒間再生効果が付与される。
見ての通り、回復アイテムだ。
そこらにキノコや果物が生えていたのでどれかしらが回復アイテムなのだろうとは思っていたのだが、鑑定スキルを何一つ持っていない状態で食べるのは自殺行為だろう。
見落としたら死に直結するようなオブジェクトが多数存在するような森だ。適当に食べたもので即死する可能性も十分に考えられる。
ならば、他人のものを盗めばいい。
この試験が始まる前に老人が言っていた通りであれば、この試験を受けているプレイヤーの大半は経験者ということになる。
それなら、過去の経験からどれが回復アイテムなのかを知っている可能性が高いと判断したのである。
そんなわけで、実際に回復アイテムをゲットすることができた。
同じようなキノコなら既に何度か見たので、今後困ることはないだろう。
まあ、あのキノコ熊を見た後にキノコを生食するというのは若干抵抗を感じなくもないのだが……迷っていても仕方ない。
キノコを口に放り込んで咀嚼すると、かすかな甘味が口内に広がり、次いで「再生効果」が付与された。
半分近く減っていたHPが徐々に回復していく。
回復薬のように一瞬で回復するものではないが、その分効果は高めだ。
とは言え、一つで全回復とは行かなかったので、二つ目をインベントリから取り出して——
「やあ」
——急に声をかけられた。
……なんか今日は気配の無いヤツに背後に立たれる日だな。ゴルゴだったらぶん殴ってるぞ。
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
長い髪を後ろで結ぶ、いわゆるポニーテールのような髪型にした中性的な男だ。
「君が殺ったのかい?」
「いや、俺がここに来た時にはもう死んでた」
「そっか。君、試験は初めて?」
「ああ」
「なるほど……キノコはそうやって見つけたのか。賢いね」
状況から、俺が何をしたのか察したらしい。
「あ、自己紹介がまだだったね。僕はもちのすけ。君は?」
「俺は……あー、ナツレン」
「ナツレン……ああ、君が例の!」
やはり俺の名は知れ渡ってしまっているらしい。
あれ程大々的にアナウンスされてしまえば、それも当然か。
「アルカナシリーズに挑んだ君に言うことじゃないかもしれないけど……一人で行動するなら気をつけた方がいいよ。合格者を減らすためにプレイヤーを殺して回ってるやつもいるみたいだから」
「なるほど……忠告ありがとう。意識してるだけでだいぶ違うだろうし」
厄介なプレイヤーもいたものだ。
ハンター試験の新人潰しみたいなやつか?
どちらかというとピエロの方が近いかも知れないけど。
「じゃあ、俺はもう行くから」
「うん。何時間か後にまた会おうね」
何時間か後にまた……って、合格する気満々なんだな。まあそれは俺も同じか。
一先ずはキノコを収穫しつつ、安全に試験の終了を待とう。
そう考えながら歩く俺を、背後からもちのすけが呼び止めた。
「あ、そうだ。言い忘れてたけど……」
「ん?」
「……ここ、蛇出るんだよね」
——瞬間、殺気が辺りを満たした。
「!!」
咄嗟に刀を抜いて振り返る。
同様にもちのすけも刀を構え、周囲を一瞬静寂が支配し——やがて、それは現れた。
蛇の頭、獣の前脚、猛禽の後脚、蠍の尾。
合成獣とも呼ぶべきそのモンスターの名は[蛇頭蠍尾 ムシュフシュ]。
古代メソポタミアの伝承にその姿を残す、原初のドラゴンであった。
「……これ蛇じゃなくね?」
「顔は蛇だよ?」
「滅茶苦茶だな」
さて、こうなってしまった以上、逃げる事はできないだろう。
もちのすけもやる気のようだ。
一瞬、こいつを囮にして逃げればいいんじゃないかとも思ったのだが、それはそれで後が怖いので、観念して俺はムシュフシュと戦う道を選んだのだった。




