表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

儂、覚醒の第一歩

「ふむ……こういう時は……こうじゃ!!」


 ホタルはカッと目を見開き、リュエルを起こさぬ程度に張った声を放つと、バッチーンと目を閉じた。


 空いている右手の人差し指をぺろりと舐め、こめかみで円を描く。


「ポクポクポクポク……」


「何を始めたんだ、お前……」


「し~っ……どうすればいいか考えとるんじゃ……ポクポクポクポク……」


「だから、なんだよ、そのポクポクって。木魚か、お前は」


「チーンッ!! 閃いた!!」


 ホタルはカッと目を見開いた。

 リュエルが起きぬよう、張った声を上げて。


「ドローンとパソコンがあればいいんじゃ」


「そんなもん、この世界にあるのか? 火薬の存在も怪しいのに」


「じゃが、リュエルさんは金属製のサイコロのようなものでランプに火をつけてたぞ。あれはマッチ……火薬を利用したのではないのか?」


「あの中には火をつける魔力が込められてるんだと。焔種(ほむらくさ)って道具だ。俺達にとっちゃマッチみたいなもんだから、こっちは魔力も変わりに魔法が発達してるんだろうな」


「そうか……パラメーターに魔力があるから、そうかもとは思っておったが……儂らのいた世界と違うのじゃな。では、魔力……魔法でなんとか作れんかのぅ。ドローンとパソコン」


「お前くらいの魔力があれば、それっぽいモンを作るのが可能だろうな」


「おお、そうなのか……! どうすればいいんじゃ? プニはその姿になるのに魔法を使ったのなら方法を知っとるのか?」


「魔法は自分の魔力を使って、思いでコントロールするんだ。使う魔法によって必要な魔力が違う。俺は本性を隠したうえ、躰も小さくしてっから、膨大な魔力が必要になる。しかも、この姿を維持するのにも魔力が必要でな」


「それじゃあ、魔力はいつか枯渇してしまうんじゃないかのぅ?」


「それがよぉ、どういう理屈かわかんねえけど、使った魔力は供給つーか、元に戻るんだ。だもんで、この姿を維持するのに魔力を使っても枯渇することはねえ」


「それは皆そうなのか?」


「いんや。焔種に魔力を詰める店の奴は、三日に一度しか店をやってねえ。魔力の回復に時間が取られるタイプなんだろうな。中には魔力が戻らねえで、枯渇したままになっちまって、引退する奴もいるんだそうだ」


「なんか、クリエイターの創作意欲のようじゃのう」


「その比喩、よくわかんねえ。つーか、今の説明でわかったか?」


「うむ。プニの説明が上手だから、よぅくわかった。で……儂の魔力はどうじゃろう……枯渇するかのぅ?」


「使ってみなきゃわかんねえ」


「むむ、そうじゃのう。ではやってみるとするかの……思いでコントロールか……ということは、想像したものが稼働するよう思ってみるのがええかのぅ……ドローン……空を飛ぶだけでは駄目か。ここから鉱山がどのくらい離れてるかわからんし……遠隔操作するのはええが、携帯電話のようなことがあれば、データを送る中継機能も欲しいの……鉱山に入れば、飛行タイプだと支障が出るかもしれん。とすれば、地を這うこともできるようになった方がええのぅ……何種類も作るのは操作がややこしくなりそうだから、一つでなんとかするには……ん~……んん~~…………」


 ぶつぶつと言いながらイメージを固めていたホタルは、カッと目を開いた。


「変身……!」


「なんだかよくわかんねえけど、イメージが固まったみてえだな。次は具現化だ。魔力を使え。そうだなぁ……お前の魔力は髪に集中してっから、もみあげの髪の一本くらいで充分だろ。そんくらいを使うつもりで、今、イメージしたもんが具現化するよう念じるんだ」


「ん~~……ん、ん~~~……なんだか難しいのぅ……集中するほどイメージが崩れる感じがぁ~……」


「だったら、イメージに近い呪文でも唱えて集中するんだな」


「じゅっ、呪文……わからん……!」


「俺だって知らねえよ。集中ができんなら、好きなようにすりゃいんじゃね?」


「……ん、んん~~……へ、変身……? そうじゃ、変身……空を飛んで、地を駆ける……玩具!!」


 ホタルの全身がカッと輝いた!!


「おっし、いいぞ、いいぞ。その調子だ。いけ、ホタル!」


「……シャッ、シャッ……シャ○ドゥ○タァァッ○ヘー○シー○! シャ○ドゥ○タァァッ○ヘー○シーン! おっ、おお……おお~……イメージが固定された! よし……いける、いけるぞ……来い、来い、来ぉぉい、変形玩具系ペット、小鉄(コテツ)見参!!」


 リュエルを起こさぬ程度にホタルは声を張る。

 全身を包む光がぎゅるんと渦を巻いて凝縮し、ぽんっと弾けた。


「キュイッ!」


 甲高い声で短く鳴いたものは、鳩ほどの大きさの鳥だった。

 鳥といっても羽毛はない。

 薄い灰色のスケルトンの素材と鈍色の歯車でできた鳥の姿をしたものだった。

 それが薄灰のスケルトンと歯車の翼を音もなく羽ばたかせ、ホタルの目の前で浮いている。


「やったぞ、プニ! これであとはパソコンを作ればOKじゃ!」


「うわ~……俺、これ買ったことあるわ。付き合ってた女の孫に欲しいって頼まれてよぉ」


「そうなのか。儂は自分の為に買ったぞい。もちろん、ケンジとは別にな」


「お前んち、物すげえ多かったもんなぁ。まあ、今は全部ケンジのものになってんだろうけどよぉ……おい、般若みたいな顔になってんぞ。欲しけりゃ、魔法で作りゃいいじゃねえか。その前に今はパソコンだろ、パソコン。さっさと作れっての」


「くそう……お宝のことを思い出させたのはプニのくせにのう。パソコンか……できればパッチパネルが使えるタイプがいいのぅ。音声入力も必須じゃ……だとしたら、スマホ……は、画面が小さいしのぅ……ということは……よし、よしよしよし……来た来た来たぁ……! 高性能で黒くて四角くて薄いのぉ!」


 再び、ホタルの全身がカッと輝いた!!

 リュエルを起こさぬ程度にホタルは声を張る。

 全身を包む光がぎゅるんと渦を巻いて凝縮し、ぽんっと弾けた。


 小鉄の横に、三十センチの正方形に近い長方形の薄く黒い板が浮いていた。


「あ~……こりゃ、パソコンっちゅーより、タブレットか?」


「うむ。これだと、片手でも操作できるじゃろ? キーボードが必要になったらまた作りゃええ。これにも名前をつけてやらんとな……ふ~む……こっちが小鉄なら、アントニオかな。よし、アントニオ起動!」


 ホタルの声に従い、アントニオの画面に光が灯った。


「うっわ……壁紙、オタクくせえ……そこまで作れんのかよ……引くわ……」


「可愛いじゃろう? 主人公に付き従う自称剣のケモ娘ちゃんじゃ。アプリも入れたイメージで作ったが……おお、小鉄のアイコンがあるぞい。これかの。よし、起動」


 ホタルの声にアントニオが反応し、小鉄のアプリが起動した。

 画面は壁紙から小鉄が見ているものに変わる。


「おっ、俺とホタルが映ってるじゃねえか、成功したな」


「うむ……うむ、うむ、すごいな、魔法って! よし、小鉄。この町の近くにある鉱山へ行っておくれ。それで中の様子を儂らに見せて欲しいんじゃ。中にいる者達に見つからんように……できるかの?」


 小鉄はこくりと頷くと、飛び去った。


「ん? あいつ、鳥の形なのに、扉はどうすんだけ? 開けらんねえだろ」


「こんなこともあろうかと、小鉄は自在に変形できるようになっておる。見てみい」


 ホタルとプニは揃って画面を覗いた。

 玄関が映っている。

 歯車が動く音が小さく重なった。

 次に画面に映ったのは薄灰のスケルトンと鈍色の歯車で象られた人の手だった。

 手は器用に扉を開く。

 開いただけでなくきちんと閉じた。


「……これ、鳩の躰のまま、手だけ人になってるのか……?」


「わからん……そこまで考えて作っとらんから……ひょっとしたら、そうかも……」


「なんだそれ、こっわ……おっ、外に出たな。おう、小鉄。俺の声が聞こえるか?」


 映像が上下した。


「聞こえてるみてえだな。俺が鉱山までの道を教えてやる。お前はそのとおりに移動しろ。その道をずっと辿れ」


 また画像が上下すると、プニの命令に従い、道を進み出した。


「……なあ、なんで小鉄なんだ?」


「儂が初めて飼った犬の名前じゃ。アントニオは……」


「なんとなく想像ついたから別に説明しなくていいぜ。おっ……小鉄、その左の森に入れ。よし……その調子だ。見えてきた。その山だ」


 画面に映る山は星空を背に、漆黒に(そび)え立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ