第3話
天は夏休みを向かえ、平日よりは平穏な日常を送っていた。夏休みの宿題も一通り終わり、残りは自由研究だけだった。・・・・・自由研究、何にしようかな・・・・・・天も他の生徒と同じように自由研究で悩んでいた。
そんなある日、ニュースで、「中学生 いじめにより自殺」というのがやっていた。天はやはり、自分だけがこんな辛い目に遭っているわけじゃないんだと確信した。
「よし、これだ・・・!!」
天は今日、社会問題になりつつあるいじめを取り扱う事にした。着々と準備を進め、一冊のノートにそれをまとめた。 ―イジメノセカイ― ノート二冊分一杯にこめられた天の気持が形になった。
始業式。まだまだ残暑の続く中、天は夏休みの宿題、自由研究を手に学校へ行った。式は何の滞りなく執り行われた。各クラスに戻り、自由研究の発表会になった。教室に戻り、天はかばんを探ると、
「あ・・・・!!」
と思わず声が出てしまった。ノート二冊分の天の気持は無残に切り刻まれていた。いったい誰が・・・・。犯人はすぐにわかった。クラスでもいじめの中心にいる健太だ。式の途中でおなかが痛いと訴え、一度抜けたのだ。健太しかいなかった。
順番は迫っていた。健太はニヤニヤと笑いながら、天のことを見ていた。
「次!・・・・・・天君」
先生はそう言った。天があくせくしていると、健太が、
「あっれー。もしかして、忘れてきたの?」
と言った。天は歯を食いしばり、切り刻まれた二冊分のそれを教卓の上にたたきつけた。教室にはざわざわとしたどよめきが起こり、健太もまさかあれを提出するとは思っても見なかった。先生も、驚きを隠せなかった。天は、
「これが、僕の自由研究です。・・・みんなが見てわかるように、切られています。ここには、僕の考えたいじめについての事が一杯に書かれていたんだ・・・・・・」
と言った。先生は、
「い、いじめ?どういうこと?」
と聞いた。
「先生。先生は知っていましたか?僕がいじめられてたって。知らなかったでしょ?・・・そんな事言って、悲劇のヒロインになるつもりはない。ただ、ただ僕は今いじめられている人の心が一番わかるんだ。僕がいじめられているから。どれだけ辛いか、苦しいか。耐えて耐えて耐え抜いた。それでも無理だったときは死のうかと思った。・・・でも、それじゃあ何も変わらないんだ。ただ楽な方に逃げてるだけなんだ。・・・・今、自分は関係ないって思ってる人も関係あるんだよ。見てみぬ振りをするのも同じなんだよ。いじめられている人は何でもいいから手を差し出してくれる人がいればそれだけですっごく救われるんだよ。どうしてわかってくれないいんだ・・・!!」
と、天は教室にいる全員に問いかけた。教室には沈黙が響いた。教室にいる全員が天の言葉を重く受け止めた。天は、
「これで僕の発表を終わります」
と席へ戻った。