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第一話
村の時計は、いつからかずっと午後六時で止まっていた。
某県にある山あいの小さな集落では、それを誰も不思議がらない。赤い鳥居の奥にある社で祈りを捧げる者も、畑を耕す者も、夕方になると同じ顔で家に戻り、同じ話をして、同じ沈黙を守る。村の外のことを口にする人間は、ほとんどいなかった。
社の裏手、古い井戸のそばで、白衣に緋袴の少女が小さく息をついた。
「また、見張られてる」
巫女の白羽は、石段の下を見ずに言った。
その背後で、買い出し帰りの紙袋を抱えた従者の千鶴が足を止める。「三人。さっきから交代で。いつもの顔です」
「数えなくていいのに」
「数えないと、守れませんから」
淡々とした声だった。けれど白羽は知っている。千鶴が本当に守りたいものは、社でも掟でもなく、自分なのだと。
白羽は振り返って、少しだけ笑った。
「あなた、そういうところ、ずるい」
「どこがですか」
「平気な顔して、平気じゃないことするところ」
千鶴は答えず、紙袋から缶コーヒーを一本取り出して差し出した。
白羽の好きな、缶コーヒーだった。
村では巫女が外から持ち込まれた物を飲むのは品がないとされている。
でも千鶴は、そんなことを気にしない。
気にしないふりをして、いつも白羽にだけこっそり渡してくれる。
「冷えてませんけど」
「いい。今日はそれで」




