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世界を断つ光


「遅い!さっきまでの言葉は全て虚勢だったようだな!」

「グッ……」


 俺とクラリスは月明かりが差し込む円形の建物の中で剣を混じえていた。

 超高速で放たれる斬撃の応酬に俺は開始早々窮地に立たされる。

 スピードもパワーも全てにおいて劣っている、圧倒的劣勢状態だ。


「皆が俺のために戦っている!負けるわけにはいかない!」


 刃が触れた瞬間、腕ごと押し返される。

 重い。速い。――受け止めるだけで精一杯だ。

 相手の剣は嵐のように降り注ぎ、俺の膝はそのたびに軋んだ。

 防いだはずなのに、衝撃が肩まで痺れさせる。

 次の一撃が来る……そう分かっていても体が追いつかない。

 もう根気と運だけで食らいついている状態だ。


――防戦一方……それでも、剣を下ろすわけにはいかなかった。


 食らいつけ……まだ……まだ倒れるな!

 ()()()()を実行するチャンスが来るまでは!

 それだけを胸の奥で叫び、俺はようやく見つけた隙をついて剣を大きく天へとかざし、袈裟に斬ろうとする。

 ここで決める!

 だが、その瞬間――なんとクラリスが何故か剣を逆手に持ち替え、俺の懐に滑るように侵入する。


「あまり長くは戦いたくないんだ」


 瞬間――腹の中で何かが爆ぜたような感覚が走る。


「ガッ!?」


 俺は後方へと一直線に吹き飛んだ後、無様に地面をコロコロと転がる。

 正確には見えなかったが、おそらく剣の持ち手の先端部分で腹を突かれたのだろう。


「グフッ……」


 俺は口から血を吐きながらも立ってみせる。

 そんな中、俺は今の一撃にある違和感を覚えていた。


「今、確実に殺せたはずだ……なんでわざわざ持ち手部分で突いた……」

「葬ると豪語したが、私だって人を殺すのに躊躇ぐらいはある。

 今殺さなくてもいいだろう……ここで私が手を下さずとも貴様のような()()の死刑は免れないからな」

「――弱者……か」


――その時、脳裏によぎっていたのはレイヴェナとの特訓だった。



◆◇◆◇



「君、かなり自由に神能を使えるようになってきたみたいだね」

「集中すればなんとかって感じだけどな」

「十分だ。そろそろ()()()()に進もうか……」

「次……?」


 首を傾げる俺を横目にレイヴェナは指を鳴らす。

 その瞬間、なんと目の前の光景が変わった。

 石で作られた重苦しい雰囲気の地下から一変……暖かい光が差し込み子鳥のさえずりが聞こえる大自然へと視界が変わった。

 ちなみに、これは何度も経験している。

 だが、今でも驚きが隠せない。

 前々から思ってたが、レイヴェナってどんな力を持っているのだろうか……。

 そんなことを考えていると、腕を組んだレイヴェナが俺と目を合わせ、語りだす。


「この木をその位置から切り倒す。これが次の段階だよ」


 そういうと目の前にはいつの間にか幹の直径1メートルをゆうに超えているであろう大木があった。


「あの木を……この位置から!?」


 俺の今いる位置はざっと見積ってもあの木から10メートルはある。

 今の俺の力量では到底不可能だ。


「いやいや……あれを切れは無理でしょう……その上この距離から……限度ってもんが……」


 俺は木を指さしながら、レイヴェナに言う。

 それに対してレイヴェナの返答は意外にもアドバイスだった。


「君は()からしか、その神能が使えないと無意識に思い込んでいないかい?」

「え……っと、手だったら光を掴むみたいなイメージができるけどそれ以外だと正直何も想像が……」

「――そこだよ」


 レイヴェナは俺に歩み寄り、静かだが芯のある声で言葉続ける。


「君は想像できる範囲でその神能を使っている。

 しかし、神能とは人間の想像を遥かに凌駕する代物……自分で勝手に作った限界……その天井を、この試験で打ち砕け」


 レイヴェナはいつにも増して真剣な眼差しで俺の心に訴えかけるように言い放った。

 俺が勝手に作った限界……それを砕く。

 いつも俺は逃げてきた。恐れていたのだ。

 周りに巻き込まれる俺に……そして、周りを巻き込む俺に。


――だけど、その恐れが何になる?


 胸の奥で、何かがじわりと動いた。

 ずっと閉じ込めて、押し殺して、見ないふりをしていた何かだ。


――守れなかったらどうする?


――誰かを傷つけたらどうする?


 力を持ったら、また間違えるかもしれない。

 そんな問いは、今まで俺を縛り続けてきた。


 だが――


 それでも前に進まなきゃ、何も変わらない。

 守りたいものがあるなら、立ち止まってる暇なんてない。

 初めて、自分の弱さを真正面から見つめている気がした。

 無力で逃げ続けていた日々が、情けなくて、悔しくて、歯を食いしばる。

 レイヴェナが言ったように最初から限界という弱者が自分を正当化するために作りだした滑稽なものはなかったのだ。

 あると思い込んでいたのは弱者の俺自身だ。


――なら。


「やる……必ずやり遂げる」


 逃げることをやめる。

 恐れに従うのではなく、恐れごと前へ踏み込む。

 その瞬間、自分の中で何かがはっきりと変わった。


「想像の外に踏み出した時、初めて神能は君の味方になってくれるはずさ」


 俺はゆっくりと目を瞑る。


 集中しろ――

 だが、何も考えるな――

 何も考えないことに集中しろ――


 …………

 ………………

 ……………………


 その瞬間――俺の目の前に輝く()が見えた。

 たった一本……小さな道だ。

 それは光の糸のように細い……しかし、確かな存在感を放ち、闇の中をまっすぐに伸びていた。

 俺は吸い寄せられるように、その道へと手を伸ばした。


――気づけば、世界が戻っていた。


「君は恐ろしいよ。あぁ……とても恐ろしくて素晴らしい」


 レイヴェナのそう言う声が微かに震えている。

 何が起きた……?

 俺はゆっくりと目を開けた。


 そこには――


 俺がさっきまで座っていた場所の真正面に立つ、一本の大木はなかった。

 その理由は大木は根元から粉々にされ、砂のようになって地面に降り積もっていたからだ。

 木片すら残っていない。

 まるで最初からそんなものは存在しなかったと言わんばかりに。


「……え?」


 理解ができず、思わずその場に立ち尽くす。

 俺の手はまだ前に伸びていた。

 気づかないうちに――何かを掴み、握り潰したように。

 レイヴェナが俺に賛辞を送りながら隣に歩み寄る。


「合格だよ。両断するぐらいだと思っていたが、まさか屑に変えてしまうなんて思ってもみなかった」


 その顔には驚愕と、少しの興奮が混じっていた。

 俺は自分の手を見る。

 震えてはいなかった……むしろ、静かだ。

 しかし、胸の奥で燃えるような熱だけが、はっきりとそこにある。


「分かった……忘我の境地だ。それこそがこの創光をさらに上へと押し上げる――」


 今までは「弱者の自分」という雑念がこだましていた。

 だが、もう違う。


「――そして、俺は強くなる」



◆◇◆◇



「なんの真似だ……?」


 クラリスというこの上ない強敵の前にして俺は――目を瞑った。

 息を吸って、息を吐く。

 静寂の戦場に俺の呼吸だけが響く。


――…………見えた。


「――()()()()()()、この俺を殺さないでくれて」


 刹那――俺の体が爆破直後の爆弾のように光り輝く。


「何をッ――」


 クラリスの言葉が、光の奔流に呑まれてかき消える。


 次の瞬間――世界が張り裂けた。


 光が刃となって周囲へと奔った。

 一本や二本じゃない。数えることすら不可能な量――

 無数の光線が、俺の周囲から全方位へ向かって一斉に放たれた。

 伸び、曲がり、弾け、軌跡を描きながら空気を裂く光。

 一本一本がまるで意思を持っているように、死角なく広がっていく。

 地面が削られ、壁が崩壊し、横にあった女神の象は一瞬で塵と化した。


「なんだっ!これはっ!」


 無限の光の刃が、津波のような勢いでクラリスへと襲いかかる。

 一本一本が鋭い殺意を宿したまま、容赦なく空気を裂いて迫る光の刃に対しクラリスは咄嗟に剣を構え、それを受ける。

 甲高い金属音……いや、金属では聞いたことのない擦過音のような音が戦場に響き渡る。

 光の刃を剣が受け止めた瞬間、火花ではなく光が散った。

 クラリスは剣を振り抜き、火花のように散る光を必死にいなしながら後方へ跳ぶ。


「チッ……まだ来るか!――な……」


 空中に逃れたその先――襲いかかるは全方位を取り囲む光の刃。


(受け……きれない……)


 この世界を切り裂くように飛び続ける……


――その光は止まらない。

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