第130話 五里霧中 -Ⅱ-
私達は霧の立ち込める森の中を歩き回る。あまり感じないが、もう夜の闇は王国全体を包みこんでいる頃だろう。
だけど本当に一向に景色が変わらない。森のなかってだけで方向感覚ぐっちゃぐちゃになるのに、そこに夜の、と霧の掛かった、なんて修飾語がくっつかれるとますます困ってしまう。
(今はどっちに進んでいる……?村に近づいているの……?あっさり意味ありげな場所にたどり着いたから忘れていたけど、道のりがわからないなかある1つの目的地にたどり着くって至難の業だよ!?)
霧は一向に消える気配がない。セインスですら、村の位置を正確にわかっているわけではないのだ。
「……くっ……頭が……」
「ちょ……!?なにいきなり倒れてるの!?」
「魔気の影響だ……頭がガンガン痛い……」
くそ、タイミング最悪だ。魔力が有毒性がここに来て牙を向いてきた。タイムリミットは刻一刻と近づいている、これ以上この森に滞在するのは危険だ。
「『浮遊』!」
私はセインスを抱えて、見様見真似の浮遊魔法を発動し、霧のかからない上空まで、私は最高速で上昇する。
だけどおかしい。いくら上昇しても空が見えない。霧は上空までかかっていたようだ。うっすら見えていた木々の影は消え去り、ただ紫じみた白い空間が広がっているだけ。
私は混乱した。上に上がる感覚も、下に落ちる感覚も無くなったからだ。無重力、上も下も右も左も前も後ろも、何もかも区別がつかない。
(お、降りられない……どっちが地面でどっちが空!?そもそも私の身体はどこを向いているの!?)
迂闊に浮遊魔法も解除出来ない。顔面から地面に真っ逆さまなんてことになったら御免だ。
「だけど……何もしないとこのまんま……」
大丈夫、地面が見えたらすぐに防壁展開、失敗したときの安全策として魔法装甲も纏う。これなら少なくとも骨折ほどの重症の負傷は免れる。
「浮遊魔法……解除!」
この感覚、覚えがある。内臓がヒュンとなるような、血の気が引いていくような、
あのとき、橋から川に飛び降りたときと同じ感覚。
私は背中側が引っ張られるような形になって、落下していく。
空中で体制を立て直し、私の目の前に地面が現れるようにする。チャンスは一瞬、もう私は加速しきっている。霧で阻まれ視界最悪な以上、地面が見えたら脊髄反射の勢いで展開する!
顔に当たる風が強くなる。そして、
地面が見えた!
「『リフレクションシールド』っ!!!」
地面との衝突の瞬間、地面は轟音をたてて大きく割れ、砂塵がかなりの高さまで突き上がる。
だが、その衝撃は私には伝わらない。私にかかる力を全て地面が肩代わりしているようなものだからだ。
「うっ…………よかった……無事だった……」
私は地面に足がつくことを確認してシールドを解く。今の衝撃波で辺りの霧が吹き飛んだようで、さっきまで感じていた息苦しさもない。
「だけど……長くは持たないよね」
あの霧の中を何もせずに進んでいたことから分かるように、私達には霧に対処する手段がない。せめて風魔法ぐらい使えれば良かったのだが……
少し休憩したら私も進もう。止まっていても村には戻れない。
「あれ…………私まで……眠気が……」
◇◇◇
小鳥のさえずりが聞こえる。しかも視界が妙にクリアだ。あともっと言うなら、私の目の前に広がっていたのは、真っ青に染まる空。
仄かな暖かさが身体全体を包む。
「……まさか私……朝まで寝こけていたの?」
割れた地面のど真ん中で、私は仰向けで横たわっていた。隣にはセインスも横たわっていて、まだ意識が戻っていないようだった。
多分、私も魔気にあてられたんだ。そのせいで意識が朦朧として、結局眠るように倒れてしまった。
魔物に襲われなかったのは奇跡だったかもしれない。
「うんしょ……どうしよう……これ」
森のど真ん中、宛もなく歩いてきたせいで現在地が全くわからない。体力の消耗も激しい。あまり大胆に動きたくないところだが……
「ま、セインスが起きるのを待てばいっか」
私は近くの木の根元にもたれ掛かり、空腹感を感じるお腹をさすりながらセインスを見ていた。
次の夜が来るまでにはこの森を出たい。だけど見通しがつかないのもまた事実、ろくに特殊魔法も扱えない私が勝手に動いていい状況じゃない。
……のだが、お腹が空いて仕方がない。そう言えば、夕飯も食べていなかったっけ。
何か食べられそうなものでも採って帰って来れば……
「うう!我慢できない!大丈夫……あまり離れなければ……」
私はセインスをおいて森の中に食べ物を求めて旅立った。
今思えば、ここでとどまっていればあんなことにはならなかったのかもしれない。




