第121話 王都へ
景色がどんどん後ろに流れていく。まさか鉄道をここまで実用的に仕上げているとは、魔界文明には驚かされる。
揺れがまあまあ大きいのは御愛嬌だろうか。日本の在来線よりちょっと大きいくらいなのでゆったり快適ではあるが。
「セインス、これからの宛はあるの?」
「そうだね、まずは俺たち2人の戦力強化、そして新しい仲間だな。これが達成できればベストだ。出来れば各々が上級の魔物を無傷で倒せるようになれればいい」
「うへぇ……私には無理だ……」
確かに魔法は扱えるが……それはいささか難易度が高い。上級が無傷で倒せれば、それはもうベテラン魔法使いだ。
もう15年もサボっていたのに、それは無理だ。
目標は元の世界、すなわち人間界に戻ること。それの目処を立てるのに何十年掛かるのか……気の遠くなるような話だ。
「そう言うと思ったからね、だから僕は一つ目標を立てることにした」
「目標?」
「ああ、王都では1年に一度、夏の時期に中心部の闘技場で、腕利きの者たちが集まる闘技大会があるんだ。それに参加してみたいと思ってね」
「ええ……冗談はほどほどにしないと……」
「冗談な訳あるか」
まさか優勝狙いとは言わないだろうな……出来るなら狙いたいけどそれはもう明らかに今のままだと駄目だ。
「……わかったよぅ……少しは頑張るから」
「そうだね。あとはこれは相談なんだけど……」
今度は何なんだ一体。私に相談なんてしても無意味だろうに。
「今のまま名前を名乗ると面倒なことになるから、カノンと兄妹ってことにしてくれないか?」
「……!?普通に仲間で良くない!?」
「変な噂が立っても困るんだ。カノンもそうだろ?」
「それは……そうだけど……」
貴族というのも面倒なものだ。なまじ有名なせいでコソコソ生きていくにしても名前から立場まで、何から何まで偽って生きなければならないのだ。
でも……兄妹として偽るのもどこかでボロが出そうで怖い。
「まあ……それでいいと思うよ」
まあ、私としてはどうなろうが知ったこっちゃないので、セインスの言う通りにさせてもらう。
(っていうか……私もう疲れた……まだ時間かかるんだよね……なら少し寝ていても……」
「声に出てるよ。カノン」
おっといけない。あまりの眠気に口から言葉が出てしまった。なんというか、この程よい揺れが心地良かったのだ。
私はリクライニングのできない不便な椅子に深くもたれかかって、目を閉じた。セインスに「着いたら起こして」と言い残して。
これだから私はダメ人間になるんだなぁ、と思った。まあ止めるつもりも無いけど。
◇◇◇
「……ーい……もう着くよ。カノン!」
「……えっ……なんか早くない?まだ1時間ぐらいしか……」
「何言ってるんだ。もう半日は経ったよ」
えっ……半日?そんなにかかるんだ、それなら先に教えてくれればよかったのに……
確かに窓の外に目を遣れば、三日月が照らす中鉄道は止まることなく暗闇を進んでいた。
これが平都の在来線なら、場違いな程光り輝く高層ビル群が見えたはずだ。だけど窓から見えるのは星と月の僅かな光に照らされただけの鬱蒼とした森林だ。
まさに秘境、改めて別世界に来たのだという事実を突きつけられた。
だけど、しばらくすれば畑が見え、鉄道はポツポツと明かりが見える王都の市街地を通過する。
「……なんか、妙に発展してない?」
サテナは、まあ異世界らしい城塞都市だったが……なんだここは。見た感じ、スチームパンク的というか……かなりガラリと雰囲気が変わった。
サテナが農業を主体とした都市だとするなら、王都はその一歩先に進んだ工業都市だ。一体何を作っているのか気になる。
車両は徐々に減速し、プラットホームのあたりでピタリと止まった。
「着いたー……真夜中だけど……」
「まあまあ距離があったからね。とりあえず宿を探さないと……」
切符の精算をしてもらって、私達は広く整えられた駅前広場のような場所に立つ。白いタイルが敷き詰められていて、わかりやすく大都市だということを示していた。
私はセインスと2人で歩く。王都ノアールの街中を。




