第106話 魔法の意味
今日一日は、あそこで起こった事件で終わりだった。
やっぱりあんまり手応えがなかった。強さも、最低中級ぐらいはほしい。
「それじゃ!また明日、この駅で落ち合うで!」
京武鉄道の弥子田駅で、私と高宮先輩は、冬木さんと鷺沼さんの2人と別れた。
「行っちゃいましたね。家ってこの辺なんでしょうか」
「そうなんじゃない?私は全然興味無いけど」
時間はもう夕方だ。結局大して動いていないし、ストレスも全然発散出来なかった。
だから私は駅に沿った道を指差して、
「少し歩こう。私鉄だし、大して距離無いでしょ」
◇◇◇
太陽の光を受けた高層ビルのガラス窓は、キラキラと光を反射する。
このまま進めばすぐに壁に辿り着きそうだ。
「今日凄かったですよね、時雨さん」
「まあ、出来ることをやっただけだよ」
「普通の人はそれが出来ないんですよ」
真新しいアスファルトを踏み、私たちは夕焼け空を歩く。
目の前には、都市部と郊外を隔てる壁が見えていた。
「何で、そんなに魔法が得意なんですか?強い信念とかがあったりするのですか?」
「……あるよ。曖昧だけど」
私はそう言った。実際にそうだったから、嘘はついていないと思う。
今の私が強いのは、その信念を信じて、実現するためにずっと力を磨いていたから。
「やっぱり、そうですよね」
「高宮先輩は無いの?何で魔法同好会なんて、一人になってまで続けていたの?」
「ありますよ。大したものではないけれど」
すごく小さな高校3年生は、やはり幼い甲高い声でそう言った。
私たちは壁を抜けて、田園地帯が広がる郊外を歩いた。車通りは多かったけど、人はあんまり居なかった。
「境界事変のとき、最期に父が全力で魔物を足止めしてくれたから、私は逃げられたのです。私はあの背中をずっと目指しているんです」
「憧れ?」
「平たく言えば、そういうことです。私はあんな笑って他人を助けられるように成りたいんです」
「そう……私と同じだね」
◇◇◇
魔法の意味には人それぞれの想いがこめられている。
私と一緒の人たちだって、みんなそうだった。私自身も、意味が無ければここまで生きていることは無かっただろう。
入学式の時だった。
私は正治くんに出会った。実はあの路地ではなくて、本当は入学式の後に出会ったんだよね。
『……もしかして……どこかであったことありましたか?』
最初は意味がわからなかった。その時は否定したけど、
考えていくうちに次第に私は正治くんのことが気になっていった。
私がこの学校を選んだのは、ただの運だった。適当に選んだらここになったってくらいだった。だけど、
彼とは、あのあと寮の入居準備のとき、路地で出会ったっていうのもそうだし、クラスも一緒になった。
短絡かもしれないけど、そこにはなにかの意味があったのかもしれない。
間違っていたならそれでいい。私はこれからもずっと“生きて”いくのだから。
◇◇◇
「隣駅……着きましたね……」
「まぁまぁ時間かかったね」
弥子田は大都会の真ん中って感じだったけど、間に壁を跨いだからか、次の東満村は人もあまりいない小集落の駅だった。
電車だって普通しか止まらないから、何本か見逃すことになりそうだ。
西の方に陽も沈みかけていて、人の気配の少ない集落を照らしていた。
「正治くん、今どこで何をしているんだろう」
思わず声に出してそう呟いた。




