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怪物探偵倶楽部 ~アリス・イン・モンスターズ~  作者: 鷹司
第五章 あたしたちは『怪物』探偵倶楽部!
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正体 その2

 廊下から急ぎコウと櫻子が病室に戻って来ると、優希が開け放った窓からまさに今身を投げ出そうとしているところだった。優希は窓枠に手と足を掛けて、上半身をすでに窓の外に半分出している。しかし、ここは病棟の最上階である。スカイダイブするには低過ぎるが、飛び降りるには危険極まりない高さであることに間違いはない。


「悪いけど、ボクは先に向こうに行ってるから」


 それだけ簡単に言うと、優希はひらりと窓の外に身を投げ出した。そうするのがさも自然だという風な感じで。


 優希の体が一瞬で消えて、落下の法則に従って地面へと真っ逆さまに落ちていく。


「おい、ちょっと待てよ!」


 慌ててコウが窓際に駆け寄っていき、優希が飛び降りた地点に目を向けた。普通に考えれば優希は地面に倒れていてもいいはずなのだが、優希の姿はそこにはなかった。コウの視線が捉えたのは、病院の敷地内を風の如く颯爽と掛けていく優希の後ろ姿だった。その姿もすぐに闇の中へと消えていった。


「さすが吸血鬼だけのことはあるわね。これくらいの高さじゃ、ものともしないってことね」


 コウの後ろから様子を見守っていた櫻子が、感心したように声を漏らした。


「櫻子、のん気に感想なんか言ってないで、オレたちもすぐにあいつの後を追いかけるぞ!」


 コウは早口でそう言ったかと思うと、躊躇することなく、まるで水泳選手がプールに飛び込むような姿勢でもって、頭から窓の外へとダイブした。


「ちょっと、アタシを置いていかないでよね!」


 櫻子が抗議の声を上げつつも、コウと同じように一瞬の迷いすら見せずに窓から空中へと飛び出した。


 常人ならばまず無傷では済まされない高さからのスカイダイブである。あるいは少しでも打ち所を間違えれば、命の危険すらある行為である。


 だがコウと櫻子にとっては、子供の児戯にも等しい行為でしかなかった。事実、地面にすくっと降り立った二人は、体にかすり傷ひとつ負っていなかったのである。これも二人の体内に流れている『血』の力が成せる業であった。


 そして今、二人の顔には明らかにそれと分かるほどの変化が生じていた。


 コウは野生の肉食獣を思わせるような猛々しいほど精悍な顔付きへと豹変していた。口元から覗く犬歯は、やけに鋭さを増していた。さらにその瞳は非人間的な黄金色(ゴールド)の輝きを放っていた。

 

 一方──もとから端整な美貌の持ち主であった櫻子は、そこに妖艶さが加わり、美しさが何倍にも増していた。キレイにマニキュアが施された両手の爪は、さながら切れ味鋭いナイフのように危険な様相を呈していた。さらにコウと同様にその瞳は非人間的な緑玉色(エメラルドグリーン)の光を宿していた。


 遥か古より脈々と一族の体に受け継がれてきた『血統』の力によって、二人の肉体に怪物化現象(モンスターゼーション)が起きたのである。その結果、高度からのスカイダイブぐらいでは絶対に傷付かない、圧倒的なまでの強靭的な肉体へと変化したのだった。


 そう──優希が自らの正体を吸血鬼だと明かしたように、コウと櫻子の正体もまた優希と同じだったのである。


 人間と狼男(ワーウルフ)とのハーフである──犬神コウ。


 人間と猫女(キャットピープル)とのハーフである──猫目櫻子。


 それこそが二人の真の正体なのであった!


「あいつの匂いは──」


 コウが鼻をひくつかせながら、周辺に注意深く顔を振り向ける。怪物化現象によって普段の何百倍にも鋭敏になった嗅覚で、優希の匂いを探しているのだ。


「よし、見付けたぞ! こっちの方向に行ったみたいだ!」


 優希の残り香を探り当てたコウはすぐさまその匂いに導かれるようにして走り出した。怪物化現象によって脚力もまた、驚異的なまでに発達していた。まさに野生の狼さながらの速さで夜の街角へと飛び出していく。


 しかし、走りなら櫻子も負けてはいなかった。猫科の獣のように優美でしなやかな走りでもって、コウに一歩も離れることなく追走していく。


 深閑な夜の住宅街を舞台にして、時ならぬ陸上競技会が始まった。もしも二人の走行タイムを計ったならば、世界新記録は確実であっただろう。なにせ二人の走りは文字通り、怪物級モンスタークラスのものなのだから──。


「ねえ、コウ。さっきの優希へのセリフ、カッコ良かったじゃん。『それは間違ってるぜ』なんて決めたところは特にね」


 櫻子が珍しくコウのことを褒めた。


「なんだよ、今ごろオレのカッコ良さに気が付いたのかよ」


 そんな憎まれ口を叩くコウであったが、その口元には満更でもなさそうなワイルドな笑みを浮かべている。


「まったく、今夜は満月から出ているからって、少し張り切り過ぎているんじゃないの?」


 櫻子の言う通り、夜空にはキレイな満月が浮かんでいる。狼男と満月──これ以上ないくらいのベストマッチングな状況である。


「おいおい、狼男が満月の晩に頑張らなくて、いつ頑張るっていうんだよ?」


「まあ、それは言えてるわね。──それでコウはもちろん、真犯人が誰なのかは分かっているんでしょ?」


「…………」


 先ほどまでの流暢な発言から一転して、なぜか完全に黙り込むコウ。


「ねえ、コウ、どうしたの? まさか真犯人のこと、まだ分かっていないんじゃ──」


「──今夜はやけに夜空がキレイだな……」


 誰かさんと同じように、露骨に話を逸らすコウだった。


「もう、バカ! アホ! 間抜け! 最低! さっき褒めた言葉は全部取り消しよ! 最高にカッコ悪いんだからっ!」


 櫻子は近所迷惑など顧みずに、夜の住宅街で罵詈雑言の怒声を張り上げるのだった。

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