第13話 アヴァナプタとプロパネ
※アヴァナプタ視点です。
マンドラゴラのツタは私を捕え、そのまま持ち上げる。その力は強く全く抜け出すことが出来ない。ほとんど抵抗すら出来なかった。
「クッ、アヴァナプタ! 少し待ってろ!」
いつもは感情なしの無愛想なプロパネが叫ぶようにして言う。その手にはクナイが握られていた。だが、彼は投げるかどうか迷っていた。
……私のせいだ。下手に投げて万が一私や、私を巻きつけるツタにでも刺さって爆発すれば確実に私も吹き飛ぶ。だから投げられないんだ。
その時、空中に何かが現れる。連合軍の小型飛空艇だ。連絡を受けた小型飛空艇がやってきたんだ。でも、あの中に兵士はいない。回収だけの飛空艇で、戦いに来たワケじゃない。
「この化物がッ!」
プロパネが落ちていたアサルトライフルを使い、マンドラゴラの頭を狙って射撃する。だが、彼はそれをすぐにやめる。マンドラゴラが私を捕まえたツタを振り回すからだ。銃弾が私の頭に当たれば私は死んでしまう。だから……
「ぐぁッ!」
「…………!」
私を捕えたツタでプロパネの体が弾き飛ばされる。彼は崖に背をぶつけ、地面に倒れる。
「ク、クソ!」
「プロパネ……!」
私はぎゅっと拳を握り、下唇を噛み締める。私のせいで……! 私が無茶なことをしなければこんなことにならなかった。他にもやりようはあったのに、好きな彼の役に立ちたい一心でやったことがアダになるなんて……。
「……もういい」
「…………!?」
「プロパネ、今すぐワイヤーショットを使って飛空艇まで飛ぶんだ。私のことはもういい」
これは私が招いたこと。責任ぐらいは取れる。この怪物は弱っている。逃げる敵をわざわざ追うこともないだろう。だから、――
「――ダイナマイ草を持って逃げるんだ!」
さようなら、プロパネ。バトル・ライン時代、楽しかった。最後に一緒に同じ任務に携われてよかった。あんたを逃がすというのは、私が出来る最後のことだ。
「行け! 私は冥界で、国際政府を倒してマグフェルトを討ち取る日を楽しみにしている!」
「アヴァナプタ……!」
私はここまでだ。パトラーに捕まり、今またマンドラゴラに捕まる。遅かれ早かれ捕まって殺される運命だったのかも知れない。
プロパネがワイヤーショットの先端を空高く上げる。そう、それでいい。私の命で彼が助かってくれるなら満足だ。
ただ、私が死ぬことでパトラーやマグフェルトは喜び、国際政府は勢いを増すだろう。それで連合政府は、プロパネは苦しくなる。それだけが残念だ。
「ふざけるな、アヴァナプタ」
「…………!?」
「まだ“何もしてねぇだろ”」
プロパネは空高く上げていたワイヤーショットをコッチに向け、撃ち放った。鋭いフックが私の頬をかすめる。何を……!?
私は後ろを振り返る。ワイヤーの先端は最後のツタの根元に深々と刺さっていた。
「お前を捕まえたパトラーを討ち取るのはどうしたんだ!」
プロパネは一気にワイヤーを巻き上げていく。
「南方大陸の覇権欲しさに共存していた国々の絆を壊した国際政府打倒は!?」
その手にはクナイが握られていた。
「一番重要な、俺と結ばれるってのは?」
「…………!」
私の側を通り過ぎる時の彼の声が私の心に響き渡る。しばらく頭が真っ白になった。彼と結ばれる――!?
だが、突然の爆発で私は現実に引きずり戻される。最後のツタが千切れた。マンドラゴラの悲鳴。口にもクナイを放り込んだのか、木の実の頭部からは炎が上がっていた。
「アヴァナプタ!」
「プロパネ!」
彼は私の手を引いて走り出す。赤い紅蓮の炎に包まれゆくマンドラゴラ。大きな雄叫びが上がっていた。やがて、それも徐々に小さくなり、遂には大きな音を立て、崩れるようにして地面に倒れ込んだ。
私、助かった……!? 一度は死を覚悟したけど、私は生きてる。……助かったんだ! 私、生きてるんだっ!
私は走るのをやめ、炎上するマンドラゴラを見ていたプロパネに飛びつき、その身体をぎゅっと抱きしめる。あ、あれ? 助かったのに、涙がっ……!
「アヴァナプタ……」
「……ごめんっ、私!」
彼は何も言わずにそっと私を抱き締める。アポカリプスの荒地のように長い間枯れていた涙は後から後から出てくる。
私、命が助かったことも嬉しかった。でも、それ以上に彼に助けて貰ったこと、これからもずっと彼と一緒に入れる事が嬉しかった! 例え、任務で別々になっても、同じ世界で、同じ空の下で暮らせるなら、それでいいっ――!
「勝手に、死ぬな」
「…………ッ」
「俺はお前に死なれたら――」
「いつもの、無愛想なあんたは、どこ行ったんだよっ」
しばらく抱き合ったままでいた。このままずっとこうしていたかった。でも、時は流れる。そうしているワケにもいかない。
どれだけ時間が経ったか、連合軍の小型飛空艇は降りて行きた。バトル=アルファたちがダイナマイ草を積め込んでいく。
やがて、私たちの下にも1体のバトル=アルファが近づいてくる。
「プロパネ、部下が……」
「……そうだな」
彼は落ち着いて声でそう言うと私から腕を離す。うん、そうだな。いつまでも――
「…………!?」
一瞬のことだった。いや、ホントは少しの間があった。でも、私には一瞬に感じられた。――彼の温かい唇と私の唇が合わせられる。彼は舌を強引に入れてきた。私は突然のことに驚き、必死で舌を動かす。
[両将軍閣下]
「んんッ……」
「…………」
[そろそろ、時間が……]
バトル=アルファが話しかけてきても彼はしばらくそのままだったが、やがて唇を離す。そして、私の片手を握り、言った。
「行こう」
夕日に赤く染まる空の下で彼は無愛想に言った――。




