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第48話 INAGAWA

余り需要が無さそうなので、一時休止にしておきます

物語はある程度まで書き上げてるのですが…再考ですね



修司はノートパソコンの画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。


INAGAWA


猪名川。


兵庫県川辺郡猪名川町。


西宮から北へ向かった山間部の町だ。


阪神地区でフリーライターをしている修司にとって、取材で何度か訪れたことのある土地でもある。


だが、なぜ今その名前が表示されるのか。


しかも更新時刻は 0:13。


偶然とは思えなかった。


ズキン。


右腕が微かに脈打つ。


《観測者》が静かに反応している。


修司は慎重にタッチパッドへ指を置いた。


クリック。


フォルダが開く。


中には古いスキャン画像が三つ保存されていた。


ファイル名は単純だった。


IMG_19520802_A


IMG_19520802_B


MAP_INAGAWA


日付は1952年8月2日。


祖父が失踪した翌日だ。


修司の背筋に冷たいものが走る。


最初の画像を開く。


モノクロ写真。


山道の途中に停まった工事車両が写っている。


背景には深い杉林。


写真の裏に書き込まれたメモがスキャンされていた。


『猪名川北部・旧鉱山入口』


二枚目。


こちらは坑道の入口だった。


木製の支柱。


崩れかけた石積み。


そして入口上部に、白いペンキで数字が書かれている。


13


修司は思わず息を呑む。


三枚目の MAP_INAGAWA を開く。


古い地形図だった。


現在の猪名川町北部、県境に近い山中へ赤鉛筆で丸が付けられている。


その横に祖父の筆跡らしき文字があった。


『第二観測候補地』


修司は椅子からゆっくり立ち上がった。


「玲奈……」


寝室のドアが開き、眠そうな玲奈が顔を出す。


「どうしたんですか?」


修司は画面を指差した。


玲奈の表情がすぐに引き締まる。


「猪名川……?」


「祖父の資料だ。第二観測候補地って書いてある」


玲奈は画面を覗き込み、地図の赤丸を見つめた。


「第二ってことは……」


「東梅田以外にも観測点を作ろうとしていた可能性がある」


部屋の空気が再び重くなる。


せっかく消えたはずの《第零駅》の影が、また静かに姿を現し始めていた。


その時、スマホが震えた。


美咲からだった。


『起きていらっしゃいますか』


修司はすぐに返信する。


『起きてる。ちょうど連絡しようとしてた』


数秒後、電話がかかってきた。


『こんな時間に申し訳ありません』


「いや、ちょうど異常を見つけた」


修司はノートパソコンの件を簡潔に説明した。


電話の向こうで、美咲が息を呑む気配が伝わってくる。


『猪名川北部の旧鉱山……』


「心当たりがあるのか?」


『実は、東梅田の封印資料を整理していたところ、“INAGAWA-2”というコード名が一度だけ出てきました』


修司は玲奈と顔を見合わせた。


偶然ではない。


完全に繋がっている。


美咲はさらに声を落とした。


『東梅田の観測室には、もう一枚欠落している図面がありました』


「欠落?」


『はい。第零線計画には、都市部観測点と山間部観測点の二系統が存在した可能性があります』


つまり東梅田は第一観測点。


そして猪名川の旧鉱山は、第二観測点候補。


修司は地図を見つめた。


猪名川北部は現在でも山深く、廃鉱や旧道が点在している地域だ。


人目につきにくい。


七十四年前に何かを隠すには、都合のいい場所だったのだろう。


『相良さん』


美咲の声が真剣になる。


『今すぐ現地へ向かうのは危険です。まず県警で資料照合を行います』


「分かってる。今夜は動かない」


それは本心だった。


地下46mでの戦いの疲労が、今になって全身へ重くのしかかっている。


だが《観測者》は沈黙していない。


右腕の熱は、猪名川の地図を見てから少しずつ強くなっていた。


通話を終えると、玲奈が静かに修司の隣へ座った。


「また始まるんですね」


修司は苦く笑った。


「今度は山の中らしい」


玲奈は地図の赤丸を見つめ、小さく呟く。


「東梅田が“第一”なら、猪名川にはまだ閉じられていない何かが残っているかもしれませんね」


その言葉に、修司は背筋が冷えるのを感じた。


東梅田では祖父の後悔を終わらせた。


だが祖父自身が「第二観測候補地」を残していたのなら――。


七十四年前、彼は《第零駅》を完全に封じるため、複数の観測点を必要としていたのかもしれない。


ノートパソコンの画面には、古い坑道入口の写真が映っている。


崩れかけた支柱。


暗い穴。


その奥は、ヘッドライトの光でも見通せないほど深い闇だった。


そして坑道入口の上には、白くかすれた数字が静かに浮かんでいる。


13


修司の右腕が再び強く脈打った。


《観測者》が、かすかな青白い文字を浮かび上がらせる。


【未封鎖観測候補地を検知】


【座標照合:猪名川北部旧鉱山】


西宮の静かな深夜。


消えたはずの0時13分は、今度は猪名川の山奥から再び修司を呼び始めていた。

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