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二.出会った二人

 次の日もその柴犬はやってきた。僕は昨日と同じように水を入れてあげた。

 よく見ると、その犬は痩せ細っていた。野良犬にエサをあげてはいけません、といつか先生が言っていた言葉を思い出す。この子がお腹を空かせたまま、死ぬのを待つか、ここでエサをあげてあげるか。僕は後者を選ぶことにした。

 僕は家の鍵を閉めて、昔お父さんが使っていたという古い自転車に乗った。おばさんとおじさんは夕方までお仕事だからこっそり行くことにした。

 ギコギコと自転車は音を鳴らし、キューとブレーキをかければ音が鳴る。古いけど、乗れること自体がありがたい。家では自転車なんか買ってくれないから。

 坂を下ると、生ぬるい風が当たる。夏は嫌いだけど、夏休みは一生続けば良いのになと思う。そうすればずっとここにいられるし...。


 スーパーは僕の家の近くの所よりも小さかった。

 ポケットからきんちゃく袋を取り出す。中には五百円が入っている。毎月使わずに貯めていたお金だ。

 スーパーには何種類かのドッグフードがあった。僕は柴犬の写真が載ったドッグフードを買うことにした。値段は450円。お小遣いがなくなるのはすごく嫌だけど、あの犬が幸せになるなら良いかな。


 買い物が終わって、行き通った道を自転車で漕ぎ、家に着いた。

 庭にはあの柴犬が座っていた。ココが好きになったのかな、おばさんたちに怒られないかな。

 僕は水を入れていた所にエサを少しだけ入れてみた。柴犬はクンクンと匂いを嗅いで、一口食べて、また匂いを嗅いで、それでまた少しだけ食べて…。柴犬は少しずつ食べた。

 少しすると、柴犬は山の方へと歩いて行った。


 柴犬はその次の日も、そのまた次の日も家に来た。


 それから一週間が経って、久しぶりに山に登ることにした。

 山を登ると言っても、昔おばあちゃんが山の上で育てていたみかんを取りに行くために、整備された道を歩いて山頂に行くだけだけど。

 恵美おばさんがついでにピクニックしておいでと言ってくれ、サンドイッチとオレンジジュースとおにぎりを持たせてくれた。

 お母さんやお父さんと暮らしていた頃は、サンドイッチもおにぎりもたくさん作ってくれて、たくさん食べて、オレンジジュースもたくさん飲ませてくれた。なのに最近は食べていなかったから、僕はいつも以上に張り切っていた。

 蝉の鳴き声が聞こえ、鳥の羽ばたく音が聞こえ、スズメのさえずりが聞こえる道を僕はひっそり歩く。

 確かあの角を曲がると木の株があったはず。何も生えてなければ、僕はそこでいつも休憩していた。今回もそこに座って、飲み物を飲もう、、そう思ったのに…。

 その株の上には同い年ぐらいの女の子が座っていた。一体誰だろう。

 僕がゆっくりと歩いていると、その子は僕に気づいて大きな目を見開いた。

「あなた、、、だれ?」

 女の子は立ち上がった。茶色のリボンがついた白色の服に、黒いスカートを履いている。肩より少し長い髪と白い肌。この子は確実に見たことがない人だと思う。

「あなたこそだれ?」

「私は夏希。今はお散歩に来てるんだけど」

「僕は悠太です。今から山頂に向かって歩いてるんだ」

 そう言うと彼女はふーんと言った。どういう意味なんだろう。

「じゃあ私も山頂までついて行ってもいい?」

「う、うん」

 じゃあ、と言ってお互い去るのかと思ったら、彼女は僕についてくるみたいだ。

「よかったー。じゃあ、悠太って呼ぶから夏希って呼んでよ」

「分かった。夏希は何年生なの?」

「私はー一応六年生かな。悠太は?」

 一応ってどういうことなんだろう。背丈がそれほど小さい訳でもないのになぁ。

「僕も一緒」

「そっか。悠太ってここら辺の学校?」

「ううん。僕は隣の市から来てて、今は親戚の家に来てるんだ。夏希はこの近くに住んでるの?」

「違うよ。私はここから遠い所。遠い遠い遠い所」

 夏希はなんだか少しだけ悲しそうな顔をして空を見上げた。僕も同じように空を見上げると、鳥の群れが飛び交い、雲一つない青空が広がっていた。


 いつの間にか僕たちは頂上の近くに到着していた。

「あっ、あれ頂上!悠太早く行こうー」

 夏希は頂上を指さした後、走って頂上まで駆け上がる。僕も負けないように夏希の後を追う。木々たちは風に揺られて、ザワザワと音を立てている。

 頂上からの景色はいつも通り綺麗だ。山の周りは田んぼが多くて、その向こうには建物がたくさんあって、その向こうには海がある。

 僕は持ってきた食べ物とジュースを地面の上に広げる。レジャーシートでもあれば良かったな…。

「これさ、せっかくだし一緒に食べようよ」

「えっ!いやいやー悪いよー。それお母さんか誰かが悠太のために作ってくれたんでしょ?」

「うーん、まあそうなんだけど…。ほら、誰かと一緒に食べた方が美味しいし、せっかく仲良くなれたんだしさ」

 夏希は首を振るけど構わずに、僕はおにぎりを渡した。僕も袋から自分の分を一つだけ取った。

「ほんとにいいの?なんか申し訳ないな〜」

「気にしなくていいからさ。一緒に食べようよ。せーの」

「「いただきます」」

 僕は一口食べた。中身は…鮭だ。隣の夏希の中身は、ツナマヨみたいだ。

「このおにぎりすごい美味しいね。こんなおにぎり食べたの初めて。もうほっぺが落ちそう」

 そう言って夏希はほっぺをぷにぷにと触る。ほっぺは落ちないよ。自然と頬が上がる。


 その後にサンドイッチとジュースもはんぶんこしてお昼ご飯が食べ終わった。

「ごちそうさま。悠太ありがとう。お母さんにもありがとうって伝えといてね」

「うん、分かった」

 夏希はごろんと後ろに寝転んだ。周りには少しだけ草が生えている。多分智樹おじさんが休みの日に刈ったりしてるだろう。僕も寝転ぶ。

 「あっ、飛行機雲」

 僕は空の白い線を指差す。僕はこの地域も飛行機が飛ぶんだなぁと思う。

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