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一.捨てられた僕

 今日もまたこれか。胸の中ではぁとため息をつく。

 水だけの朝食。あの人たちは美味しそうに食パンを食べていたのに。きっと僕も食べたいと言えば、子供は水だけで十分って言われるんだろう。昔は自分も水しか飲んでなかったって嘘もついて。

 僕の両親は小学二年生の時に死んだ。交通事故で。

 夏休みの間、おばあちゃんの家に泊まっていた僕を迎えに行く途中で、突っ込んできたトラックに車ごと轢かれてしまったらしい。

 その後、僕はお母さんの妹の美帆おばさんと圭吾おじさんに引き取られた。昔から会ったことが無かった人で、どんな人か分からず、楽しみだったが、出会って分かった。

 お母さんとお父さんの遺産目当てだって。美帆おばさんは高そうなカバンを買ったり、圭吾おじさんは新しい車を買ったりしていた。

 だけど僕には何年も使っている服に靴下。ご飯は二人よりも何倍も少ない。勝手に食べれば怒られ、新しい物が欲しいと言っても何も買ってくれない。

 本当はこんな家に居たくはないけど、引き取ってくれる人がいないって分かってる。僕は一生このままなんだ。

「おい、お前さっさと学校行けよ。遅刻しても知らないからな」

 圭吾おじさんが玄関から水を飲んでいた僕に言う。

「はい。…ごめんなさい」

「ったくよー育ててもらってる身で迷惑かけるとかあり得ないからな」

 そう言って家を出ていく。

 僕も服を着替えて、ランドセルの中に入っている教科書の中身を確認する。どうやら美帆おばさんはまだ朝風呂。小言を言われるのが嫌で、逃げるように家を出る。

 僕は家が大嫌いだ。


 歩いていると学校が見え、靴を履き替え、6-1と書かれた教室へ向かう。

 教室に入り、席に座るとほら何か書かれている。

 ここで前みたいに逃げ出したら、“しね”、“学校くんな”、“クズおや”に“よわむし”が追加されるんだろう。毎日毎日、朝早くに来て鉛筆で机いっぱいに書くんだろう。

 僕の両親は亡くなっていて、しかもそれを引き取ったおじさんとおばさんがこの周辺で有名なクレーマーだから友達がいないし、服もほとんどずっと同じだからいつの間にかいじめられるようになっていた。

 周りを見れば、群がってじっと見ている人もいれば、多分いつも僕の机に落書きしている奴らはヘラヘラと笑っている。どこから、こっち見んなよと声が聞こえた。

 誰も助けてくれる人なんかいない。

 僕は少ないお小遣いで買った消しゴムで机の落書きを消す。

 泣きたい、叫びたい、殴りたい、蹴りたい。色々な感情が湧き出る。でも消しゴムにグッと力を入れて我慢する。

 先生に報告なんか出来ないし、もし報告したらおじさんとおばさんに嫌になるほど小言を言われるに違いない。

 分かってる、僕に居場所なんかない。

 

 授業が終わって、トボトボと家まで歩く。暑い真夏の下校はもう溶けそうだ。だけど今日からは夏休み。そう言えば今日は、お父さんのお兄ちゃん夫婦が住んでる家にお泊まりだった気がする。こんな家や学校から離れられるなら早く行きたい。

 少しだけ足を速める。周りを見れば、ボロボロの服の僕を哀れの目で見ている同じ学校の子たちがいる。多分、あの子汚いね、とか、あの子みたいになりなくないよね、って言われてるんだろう。そう考えれば考えるほど、学校が嫌になる。早く逃げ出したい。


 家のドアを開けると、玄関には僕が帰って来るのを待っていた、美帆おばさんがいた。

 床に座って、足踏みをしながらスマホを触っている。

「お前帰ってくんの遅すぎだろ。今日、あっち行くったろ。さっさと用意しろよ」

「はい。…すぐします。ごめんなさい」

 美帆おばさんは、ジロリと僕を睨んだ後、またスマホに目を落とした。

 僕は逃げるように自分の部屋に入り、用意を始めた。パンツとシャツと靴下と服とズボンと後は…。


 用意が終わると、僕は車に乗る。おばさんはいつもの荒い運転でスピードを上げる。僕のお母さんやお父さんは、事故で亡くなったのに、少しはゆっくり運転しよう、なんて考えにはならないのかな。こんな人がいるから、交通事故は減らないんだろうな。

 酔って、吐きそうだけど、外を眺めてなんとか耐える。


 いつの間にか、店やマンションが減り、山や少し古い住宅地ばかりの景色に変わる。空いている窓からは、きれいな自然の空気が入って来る。

 やがて車は目的地に着いた。

 古びた一階建ての家。最近の家とはどこか違うこの昔の家を、僕はまだ上手くは表現できない。

 前には緑色の田んぼが広がり、カエルの声が聞こえる。あの溝には、メダカいるかな?ドジョウも見つけられるかな。僕はワクワクした気持ちになる。

 この家は、元々僕のお父さんのお母さん、つまりおばあちゃんとお父さんのお兄ちゃん夫妻が住んでいた。けれど、一年前におばあちゃんが病気で亡くなってからは、お兄ちゃん夫妻が住んでいる。

 二人は、美帆おばさんや圭吾おじさんなんかよりも、何十、何百倍も優しい。僕のことを大切に大切に扱ってくれる。僕が話をすれば、きちんと聞いてくれるし、朝ごはんだって準備してくれる。本当なら僕はここのお家がよかったな...、っていつも思うけど、多分大人の事情ってやつなんだろうな。

 ピーンポーン、と僕はインターフォンを押す。

「はーい。今行きまーす」と声がして、恵美おばさんがガラガラと扉を開けて出てきた。

「あ、悠太君!いらっしゃい」

 そう言って僕の頭を撫でる。僕は照れくさそうに少しだけ笑う。悠太って名前呼ばれたの久しぶりだな。

「じゃあ、よろしくお願いします」

 美帆おばさんは、車に乗り、また来た道へと戻って行った。

「さあさあ、悠太君入って入って」

 リビングに入ると、涼しい空間が広がる。持ってきた荷物を床に置き、ソファに座る。フカフカだ。

「じゃあ今来てもらったばっかなんだけど、おばちゃん今からお買い物行ってきてもいい?」

 僕はソファに座ったまま頷く。

「ありがとう。飲み物は冷蔵庫に入ってるし、なんかお腹空いたらいつものとこ入ってるから、テレビでも見て待ってて。あっ、裏山行くなら、もうすぐ暗くなるから先に行っていいよ」

「わかった。ありがとう。気をつけてね」

「うん、じゃあ行ってきます」

 恵美おばさんは大きなエコバッグを持って買い物に行った。

 ふいに、窓の外を見ると、庭にはぁはぁと舌を出した、犬がこっちを見ていた。確か、柴犬って種類の。確か昔この家でも飼ってた柴犬。外がこんなにも暑いから、きっと水が欲しいんだよね。

 僕は庭に出て、昔この家の柴犬が使っていた水入れに水を入れる。蛇口から水を使ったことは後で謝ろう。

「はい、これ飲みなよ。暑いんでしょ」

 そう言いながら近くに持って行くと、柴犬は大きな尻尾を振りながら水を飲み始めた。かなり喉が渇いていたのか、入れていた水を飲み干し、また水を追加する。するとまた嬉しそうに水を飲む。その姿に僕は癒された。

 この犬は野良犬かな。にしては人懐っこい気がする。家の近くでみた野良犬はずーっと吠えてて、近寄った子は噛まれたって聞いたことがある。でもこの犬はそんなことしないで、ただ水を飲んでいる。

 少しすると、犬は水を飲むのをやめて、山の方へと走って行った。何かを思い出したみたいに。また明日も会えたらいいな。


 家に入り、冷蔵庫の水を飲んだ後、僕はテレビを見ていた。テレビなんて自分の家で観たことなんてない。ここでしか観れない特別な物だ。ここにいれば、みんなが普通にしていることをできる気がして幸せだ。


 夜の六時になると、恵美おばさんが帰ってきて、その十分くらい後に智樹おじさんも帰ってきた。

「ただいまーっておぉ!悠太君いるじゃん。久しぶり。今日は美味しいご飯買ってきたから早く食べような」

「うん。いいの?」

「当たり前だろ?ほら早く席座れ座れ」

 嬉しいね、と恵美おばさんが僕に言い、僕は大きく頷いた。


 智樹おじさんのいただきます、で食事が始まった。

 今日は唐揚げや餃子。帰って来る前に、お店でテイクアウトしたらしい。こんな豪華な食事食べていいのかな、と申し訳ない気持ちになる。

 でも二人に食べろ食べろ、と言われいつもより少しだけ多めに食べた。

「あ、あの、ごめんなさい」

「え、どうしたの?」

 僕の急な謝罪に恵美おばさんは戸惑った。

「あの、今日、ここで前に買ってた柴犬に似た犬がいて、それで水をあげました。ごめんなさい」

 僕は頭がテーブルにつきそうなくらい、頭を下げた。

「そんなの何が悪いの?そのわんちゃん、困ってたんでしょ。悠太君優しいじゃない。ほらまた喉乾いてたら水いっぱいあげて。わかった?何も謝ることないんだから」

「そうだそうだ。悠太君は良いことしただけだから、ほら顔あげて」

 二人は僕に優しくそう言ってくれた。僕はしたことがいいことなら良かった。

「うん」

 そう言って二人は僕の頭を撫でた。なんだかそれがすごく嬉しかった。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

誤字などの訂正があれば、気軽に教えて下さい。

久しぶりに長編小説書いてみました!少しでも感動できるような作品になるように頑張ります。

他にも色々な作品を書いていますので、そちらも読んでみて下さい!

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