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魔女の戯れ

「御嬢! あれはルーベルズ・ロキ殿です! 下で先を進む男は……誰だ?」


「誰でも構いません! 味方であるからには全力で援護するのみ! もっと前に出て敵兵の注意を引くぞ!

――千葉の猛虎に “後退” の二文字無し!! 猛進必勝! いざ、勝ちに参ります!!」


「がっはっは、御嬢はお下がりを。既に出過ぎておりまする!」


「“千虎騎兵団” 参るぞ!! 北鑑軍最後の防衛陣を喰い千切れェ!!」


チバ・ヒタチ率いるチバ軍は、頑強な抵抗を見せる馬帯候軍の防陣を力技で突破せんとしていた。


そして、大将でありながら突出するヒタチに代わり、彼女の矛となって敵陣に斬り込む者達こそ、かの軍勢にあって最強の名を冠する部隊「千虎騎兵団」。

厳しい選抜をくぐり抜けた精鋭中の精鋭で構成される彼等は、当主直属の護衛を兼ねた必殺部隊であり、その数は常に一千騎と定められている。


千虎騎兵に任命される事は大変な誉れであり、彼等の兜にはチバ家の旗印にも使われている針状葉の飾りがある。つまりチバ本家の一員として扱われるのだ。


「くたばれや北鑑の狗ども! カズサノスケ様の無念をとくと味わえぇぇ!!」


「先代様だけではないぞ! アワノカミ様とフサノスケ様の無念もだ!! よくも……よくも殺ってくれよったな北鑑軍!!」


「腹切りで詫びても許さんぞ!! できぬなら四肢欠損のうえ斬首刑じゃ!!」


「ワシ等の大将、親爺様の仇じゃ!! 決して生きて返さんぞ!!」


怒りのエネルギーを爆発させ、噴火した火山の如く暴虐無比に暴れまわる千虎騎兵。

先の北鑑連合軍との決戦で大半の騎兵が討死し、残った者は二百騎にも満たず、その者達も揃って負傷している有様だが、一級の精鋭たる実力に陰りはなかった。


寧ろ先代当主譲りの胆力を持つヒタチを新当主として認め、旧主を含むチバ一族の雪辱を晴らさんものと士気を奮わせている為に、敗残兵とは名ばかりの活躍している。


彼等は残党の集まりに過ぎないヒタチ勢において最大最後の鉞であり、靖破軍にとってはルーベルズ騎兵のような存在だった。


「千葉の猛虎は健在のようだな。アダオウ殿! 祝鉱(シュコウ)の騎馬隊をチバ軍の方へ向かわせてくだされ! 彼等に一隊の手助けあれば、敵の陣営は堰を切るように崩れよう!」


「よいだろう。祝鉱! チバ家の加勢に向かえ! 前は我輩が引き受ける!」


「承知ィ! 待ってろよチバ家の奴ら。祝家随一の猛者が手を貸しに行ってやるぜェ!」


この戦場にあって最も視野の広い祝覧の提案で、祝鉱隊とチバ軍の連携が成される。

祝覧は先の大局を見据えた上で、チバ家の主力兵を可能な限り温存させるべく、こちらからも強部隊を送り込んだのだ。


「馬帯候将軍! 最前線の陣はズタズタに切り裂かれ、大虎の牙も迫ってございます!」


「そうか。ではそろそろ……」


腕を組んで堂々と鎮座していた馬帯候が、部下の声に応じてズッ! と立ち上がる。


「歓迎の宴、開こうぞ!! オオォォォォーー!!」


「「――!?」」『ぁん?』


靖破とロキが本陣手前まで切り進んだ頃。馬帯候は突如として大声を張り上げた。

魔力の込もった聲は周囲の空気を畏縮させ、靖破とロキにも一瞬の身構えを強制する。


そして次の瞬間には、眩い光を放つ魔障壁が、馬帯候を囲むように顕現した。

顕現して、馬帯候本人がそれを纏うと、攻守一体の大鎧に変貌する。


「……靖破殿。なんだあれ、光の鎧か?」


「子供の玩具だ。反射材で太陽の光を輝かせているだけだろう」


『玩具ですらねぇ。何てことないただの紙キレだよ。まぁ見てなヒヨコども。アイツはうちが殺る。相性良さそうだしな……!!』


地に足をつけたロキだけが、馬帯候の技を見て真面目に反応した。

方や靖破とシュラは、ただのパフォーマンス程度にしか思っていない。


「靖破殿。魔女様の言う “相性” って?」


「純粋な殴り合いがしたいのだ。魔女に任せて、俺達は周囲の雑魚を蹴散らすぞ」


「了解。それじゃ魔女様のお手並み、拝見させていただくとしよう」


靖破とロキは下馬するや、本陣入口で馬帯候の部下を相手取る。


『よぉーし、久々の一対一(タイマン)だ。見掛け倒しで終わんなよ? 少しは骨見せてから――』


シュラは流れる蒼髪をかきあげつつ、妖艶な笑みを浮かべるや……


『グシャリと! 死・に・な……!!』


すぐに邪悪な笑みに変えて拳を鳴らした。靖破に狂っていろと言うだけあって、魅せる時は普段の子供っぽさが嘘のような魔女っぷりだった。


「……禍々しい小娘だ。それがしの光で、その邪気払ってくれる!!

――光鉄拳の馬帯候! 押して参るぞ!! オオオォッ!!」


大地を蹴り飛ばした馬帯候は、本物の光にこそ劣るものの、並の魔人では追いつけない程の猛スピードでシュラにタックルする。

速さが直接力に変わるのならば、この一撃はどんな砲撃よりも大きな威力を誇った。


『おいおい。女だからって加減はいらねぇぞ?』


「――!!?」


『もしくは、それが本気か? まぁどっちみちやりなお――せぇぇーーい!!』


バギィィィン!!!


シュラの右拳が突き出されるとともに、空間が抉れる音がした。普通の人間なら、生涯で一度聞けば奇跡体験と語り草にできるぐらいの非現実的な音である。


というより、ただの音を通り越してもはや音撃となったそれは、周囲の北鑑兵の神経に直接作用し、ある者は絶命、またある者は錯乱して恐慌状態に陥った。


(んんん!!? んんんんぅぅーーー!!? 脳が……慄えてふるえてフルエテ……まずい!!?)


馬帯候は何をされたか解らないまま吹き飛ばされ、一瞬の後には盛大な音を立てながら大地にのめり込む。

痛覚が作用して、超殺人的な衝撃に全身が悲鳴をあげたのは、そこから数瞬後であった。


『言ったろ? “玩具ですらねぇ。何てことないただの紙キレだ” って』


光属性の魔力で出来た馬帯候自慢の大鎧を、シュラの一撃は紙の如くあしらった。


それでも馬帯候は何とか意識を保ち、十数秒で脳震盪を抑え込む。これに関しては、流石は勇猛で名の知れた将軍といえる。

因みにこの時、シュラが靖破の近くを離れられないという悪条件がなければ、追撃されて忽ち死んでいただろう。


「押し返された……だと!? それがしの拳が、あんな細身の小娘に!? ……あり得ぬ。あり得ぬぞぉぉぉーーー!!」


立ち上がるや否や、再び接近して猛襲を仕掛ける馬帯候。

武闘家としての矜持も併せ持つ彼は、同じ土俵で小娘の見た目をした者に敗れる訳にはいかない。たとえ相手が、規格外の魔力量を誇る化物中の化物であったとしても、拳を繰り出せば勝つのが鉄則だ。


「それがしの光鉄拳に砕けぬものは無し! 如何なる障害をも打ち砕く!! 面妖なる小娘よ、とくと味わい圧して消えよ!! おおぉぉぉーー!!」


逆上ないし意固地を張った馬帯候は、奥義・光散弾無限拳を放った。

光を纏った百裂拳は、攻撃とともに束縛性のある閃光で相手を包み込み、視界と逃げ場を奪って防御不能の状態に陥らせる。


これを外から見れば、シュラは光の球体に捕われた上でタコ殴りされていた。

シュラを肉眼で捉えられるのは、光散弾無限拳を放つ馬帯候のみ。靖破やロキをしても眩い光にシュラの姿は掻き消され、シュラ本人も一寸先が見えない状態の筈だった。


(なぜだ……! なぜだなぜだ!? なぜ喰らわぬ!? なぜ防げる!? なぜ――)


しかし、かの奥義を受けて尚、シュラには余裕しかなかった。


(なぜ――笑っていられる……!!?)


鍛えに鍛えた肉体、研究と実戦を繰り返して高めた奥義。そのどちらともが通用せず、楽しそうにこちらの目を見ているシュラに対して、馬帯候は冷や汗をかいた。


『っし! いないいなーい……』


「!!?」


笑みを残して球体から姿を消したシュラは、一瞬で馬帯候の背後に廻った。

それも馬帯候の頭に手を当てた状態で体を逆立ちさせている。察するに馬帯候が繰り出した拳を枝代わりにして滑り込み、華麗な反回転をもって背後を取ったのだろう。


『バァァーーン!!』


馬帯候の頭部をわし掴み(この時点で半分握り潰された)、捩った体をバネに空中で一回転。スリットから大胆にはみ出した生足が股の位置まで露わになる中、跳躍競技のついでにボールでも投げつけるような軽々しい動作をもって、シュラは馬帯候を地面にバァァーーンと叩きつけた。


結果、「チャイナ服シェフの気紛れ料理! 裂けた大地の馬帯候ミンチ添え」という一品が出来上がる。そこには堂々とした将軍の面影など微塵も無かった。


「「「馬帯候将軍ンンーーー!!?」」」


「……うっはぁ。魔女様えっぐ……」


『うぅ~ん……やっぱ骨ねぇな。肉だけだったぜ』


勝負は一瞬でついた。巨大なクレーターに悠々と着地し、あざとく首をひねるシュラの圧勝である。

しかし “勝負” とは言うが、最初から万に一つも勝ち目のない戦いを勝負と言っていいのか。ロキは肉の塊となった馬帯候に些かの同情を抱いたという。






《教えて祝覧先生!! それに姐さんも!!》


弟と妹に久しぶりにあった祝覧は、二人がちゃんと勤勉に励んでいるかが気になった。特に弟の祝鉱の方が。


「いきなりだが祝鉱(シュコウ)。ちゃんと算数の勉強はしているのか? “足し算” というものがなんたるかを言ってみろ」


「た!? 多試斬!? 多試斬ってあああああれだろ。二人の敵を一人ぶった切ったら残り一人になるってやつ。それとも多死産か!? 妊婦さんにとっては悲劇だぜ! なぁ悲劇だぜ!」


「それは “引き算” だ。胎児の大量死でもない。……いいか足し算とはな、孤軍奮闘する一人のもとへ二人三人と助太刀が現れることだ」


「お、おぅ! そうだったそうだった。……なら兄貴、“掛け算” は何だったっけ」


「一刀両断した敵兵の体が二つに分かれることだ。一つの肉塊が二つになるだろう」


「カァァー! やっぱり兄貴の教え方は上手だな! 俺はすっかり天才になっちまったぜ!」


「フッ、伊達にお前達の教壇に立ってはいないぞ」


微笑ましい兄弟の様子に、周囲の祝鉱直属兵は歓声をあげた。やはり祝覧はヤンチャ者達に絶大な人気があるのだ。


「…………祝那将軍……」


「なんだいリナム。先に言っとくけどね、バカ兄者と一緒にすんじゃないよ。アタシはちゃんと軍務こなせる程度は頭良いんだよ」


「そうなんですね。……話は変わるのですが、ケトから送られた報告書で、少々対応に困っているものがありまして……。兵を指揮する将軍として、ご教授いただけないかと」


「なんだい見せてみな。…………あぁ、ふんふん。……なるほどね。これはアンタ、北東部の国境に守備兵を三百ぐらい移動させた方が良いよ。他より険しい地勢だから遊撃隊を組んどいて損はない。暇になりそうなら間道に関所でも作らせときゃいいんだ。あと募兵したばかりの新米にはこっちの拠点任せときな。調練に合わせて他の拠点との連携方法を叩き込んどくんだ。行軍訓練に合わせて各拠点との実際の距離感を覚えさせとけば、いざという時にすぐ動かせるようになるよ。それと…………」


(あ、嘘じゃなかった。本当に軍務こなせてます。それに凄くわかりやすいです)


さり気なく、失礼極まりない事を思っていたリナム。


兄に代わって部隊運用を滞りなくこなし、部下から “姐さん” と呼ばれる程の面倒見の良さがある祝那は、祝鉱の百倍ぐらい知恵が回った。

彼女が男性を打ち負かす程の筋肉量を誇りながら、祝鉱に単純な武力で劣るのは、おそらく女性であるという以上に、先述したような側面があるからだろう。


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