殺人免許講師の存在
スーツの男が発した言葉に教室内の空気が止まった。
「えー?なんでー?どしてー?」
「…まぁ君程じゃないが、それなりに事情があってな。悪いが察してくれるとありがたい」
そう語る表情と雰囲気は一切の介入を許さない何かを醸し出していた。
さすがの無邪気な10代もその空気を察してかそれ以上の詮索をしようとはしなかった。
(こ、恋人を!?そんな、どうして…?)
「まぁいいや。じゃーそっちのシスターさんは?」
ジュンが固唾を飲み込み耳を傾ける。
「…私もお教えすることは出来ません。すみません」
「てかさー、シスターさんが人殺していいのー?」
「どうでしょうか」
シスターもまた他者を受け付けない雰囲気を出していた。
再び察した女子高生も諦めた表情を浮かべ手を頭の後ろに組みつまらないといった表情を見せる。
「てか話変わるけどさー、殺人免許のセンセーってどんな人なのー?」
女子高生がジュンに問い掛ける。
「え?あ、いや、すみません。ちょっと分からないんですよ」
「ふーん。どんな人だろー?殺し屋さんかなー?」
「かもな。まぁしかし只者じゃあないだろうな、その講師」
スーツ姿の男が会話に介入する。
「まぁ殺し屋さんなら普通じゃないよねー。雰囲気とかやばそー」
「このセンターは事実上国家最高権力。ここに正職員として就職出来る人間は色んな意味で相当優秀な人材と聞く。そんなセンターの殺人講師に選ばれる位だから、その道じゃあ世界トップクラスの実力者かもな」
「へーーー、すごーい!早く見たーい!」
「ま、そこに立ってる彼も、その優秀な人材の一人ってことさ」
「え!?」
スーツ姿の男が鋭い眼光でジュンを見る。
「へー!マジで?お兄さんすごい人なんだー?」
「いや、自分は、その…。特に何かが出来る訳では。それに確かにすごい人は多いですけど、皆がみんなそういう人って訳じゃないと思います」
小汗をかきながら謙虚な物腰で必死に弁明するジュン。
「ふーん。なんかすごそうな人には見えないなー。童貞っぽいしー」
「なっ!!ちょっ!!!か、関係ないでしょっ!!」
「ははは。高校生におちょくられるんじゃ、まだまだ青いみたいだな」
インテリ風の女性は文献から目を離さなかったが、クスっと鼻で笑う声が漏れていた。
シスターは相変わらず無表情を貫いている。
「いや、ちょっ、ほ、ほっといてください!!」
顔が真っ赤になり顔から汗を噴き出すジュン。
この日初めて和やかな空気が作り出されたその時、教室に近付いて来るひとつの足音が室内の空気が一変した。




