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3 華やかさの中の仮面兄弟

人が多すぎて目が回る。

きらびやかに飾られた装飾品も、精一杯に着飾ったドレスも、令嬢特有の上品な笑い方も、私は少し苦手だ。

今日は、女王様主催のお城でのお茶会に参加している。デイレスト王国の名家と呼ばれる代表的な貴族の令嬢、令息が来ていた。

私は今までほかの家との交流を全く持ってこなかったせいで、周りは知らない人ばかり、ほとんどの人に初めましての挨拶をしなくてはならない。向こうから話しかけてくれる分はいいのだが、こちらから話しかけなくてはならないような時はとても困る。

私の家よりも権力のあるのは王族となっているから、堂々としていればいいとメアリは言っていたけど、不用意に話しかけて、攻略対象だったらと思うとうまく話しかけられない。

私が1人で次は誰に挨拶をしようか考えている時、会場全体がどよめいたのがわかった。

人々が向いている方向を見てみるとそこには、よく知っている少年の姿があった。

「ロベルト王子ですわ!」

「まぁ、なんと可愛らしい」

「お話してみたいものですわ」

そこら中の令嬢から黄色い歓声が聞こえてくる。

その様子を遠い目をしながら見ている私に、ロベルトは気がついたようで近づいてくる。

「こっちに来ますわよ!」

私の近くにいた令嬢達が顔を赤らめてキャッキャと言っている。

私はロベルトと目が合った。

「今日は一段と綺麗だね、シルビア」

そう言ったロベルトは私の左手をとって薬指に軽い口付けを落とした。

周りから悲鳴のような声が聞こえてきたのがわかった。

こういうクサイ言葉や、恥ずかしい行動はいつもの事だから驚かなくなっていた自分自身に呆れてしまった。

でも、なんだかロベルトを見て安心している自分もいた。

いつもは軽く流すところなのに、なぜだかその時は自然と笑みがこぼれた。

ロベルトは目を見開かせ、少し驚いた表情をしたあとに、目を細めて、フッと笑った。

「俺に会えて嬉しかった?」

一瞬その言葉に反論しそうになったけど、あながち間違ってないなと思った私はちょっとだけ睨みつけながら「はい」と答えた。

「…………今日は、素直だね」

「知らない人ばかりで、少し寂しかったんです、殿下のお顔を見たら、安心しました。」

うん、今日の私は素直なのかな。あまりにも自然に出る笑顔に自分でもびっくりした。

「…………それは良かった。」

少しの間を開けたあと、ロベルトは優しく微笑みながら言った。

「挨拶はすんだ?」

「まだ半分くらいで、ディルク様にはご挨拶をしておかないといけないとお父様がおっしゃてたのですが、お顔がわからなくて」

「あー、ベルヘルダ家の次男か。俺は会ったことがあるし一緒に挨拶しようか」

「ありがとうございます!」


ディルク・ベルヘルダ

騎士団団長の息子で次男。ヒロイン、シルビアとは同い年。

ロベルトの側近であり、親友。

剣の才能、魔法の才能共に国トップクラス。

子供の頃から神童と呼ばれ、騎士団団長である父の跡を継ぐのはディルクだと言われていた。だが、そこで出てくるのが実の兄で1歳上のデータだった。

弟に比べて剣も魔法も上手くできないデータはディルクが小さな頃から陰湿ないじめを行っていた。

心の強かったディルクはデータへの同情心から父にも周りの人にも何も言わなかった。

魔法学園で出会った不思議な少女。彼女はデータとディルクの気持ちの悪い関係を見抜き、ディルクに助けの手を差し伸べた。


もちろん、私、悪役令嬢のシルビアもちゃんと出てくる。

ディルクとヒロインが仲良くなった頃、ディルクと幼なじみでディルクのことが好きだったシルビアの邪魔が入る。そこからはいつも通り、犯罪まがいの嫌がらせが見つかって、牢獄行きからの処刑。バッドエンドではディルクに殺されて、そのあとディルクも死ぬというもの。


とりあえず今日は挨拶を簡単に済ませて、対策はまた後日考えようかな。

ロベルトに手を引かれなが…………エスコートされながら、ディルクといる場所まで向かった。

そこには2人の少年が立っていた。

明るい茶髪に私の瞳よりも暗めの赤の瞳、活発そうな猫顔の男の子。

黒に近い茶色の髪に、紫色の瞳の眉間に皺を寄せたもう一人の子よりも少し身長の高い男の子。

赤い瞳の方がディルクで、紫の瞳がデータだよね??

こちらに気づいた2人はすぐに言葉を発した。

「これは、ロベルト殿下お久しぶりでございます。そちらの方は?」

先に喋ったのはデータだった。その言葉を聞くとディルクはなにか言おうとした口を閉じて、ロベルトに会釈だけした。

「こちらは…………」

「私はヴェスターニャ公爵家のシルビアと申します。御逢いするのは初めてですが、二方のお話は常々」

ロベルトの言葉を遮って、軽く挨拶をした。

王太子殿下に紹介してもらえるような身分じゃないんだし、この2人にも失礼だよね。

「へぇ、ヴェスターニャ家の…………これから長い付き合いになるかだろしよろしくね。それに、二方なんて言わなくていいよ、どうせこいつの話だけ聞いていたんだろう」

データは刺々しい言葉で睨みつけるような目でディルクの方をちらっと見た。

ディルクはどこを見るかもわからないような視線で真顔で立っていた。

ロベルトの方を見ると、怪訝そうな顔をしていた。あからさまな軽蔑、ロベルトがこんな顔するなんて。

「…………私はずっと御二方のお話を聞いておりました。ディルク様はとても剣の才能がおありで、データ様はとても知性に優れたお方だと」

嘘は言っていない。

ディルクの剣の才能、魔法の才能これはデータには絶対に越せないもの。でも、データはとても頭が良く、10歳の今では大人が読んでも難しい魔法学書を読んで、魔法の仕組みについて学んでいるとか。

1度魔法学書を見た時は、正直意味がわからなかった。

魔法ができた歴史から、魔法を作り出すことについてを理学的に述べたり。

そんなものを10歳で読んでいるんだ、彼もまた天才なんだ。

「…………ふっ、どんなに頭が良くてもな!父様の期待に答えることは出来ないんだ!」

突然大声で叫んだその声は、会場中に響き渡った。

「…………はっ」

データが我に帰った時には周りの人々はこちらに注目していた。

「お騒がせして申し訳ない。つい話が進んでしまってね、どうぞまた楽しいお茶会をお続けください」

ロベルトはすぐにそう言った。

さすが王子様。対応力の良さよ!8歳児には見えないわぁ。

「も、申し訳ございません…………」

「今日は体調が良くなさそうだな…………」

ロベルトがそう言うと、データはすぐに別れの挨拶を告げ、その場をあとにしていった。

ディルクもそのあとをついていこうとした時、悲しそうな顔をしているのがわかった。

「本当はいいお兄さんなのかもしれないね」

「………え?」

私がぼそっと口に出してしまったその言葉をディルクは聞いて、不思議そうな顔をした。

「…………言いたいことができたら言ってね!!!」

私はしまったという気持ちでなんて言っていいのかわからなくなり、咄嗟にそんなことを言ってしまった。

ディルクは目を丸くさせ、小さくうなづいてからその場から去っていった。

こんなこと言うつもりじゃなかったのに…………。


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