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004:  悪意なき天才

四人の男女が密室で集まっていた

正確には三人と一機

その密室は密室と呼ぶには余りにも広大な空間、小宇宙と言っても過言ではなかった

人工的に小宇宙を構築してみせた規格外の天才は言う


「私は理解が及ばないものが大好きなのよ」


二人の男女は天才の言葉に答えを返さない

天才は答えなど期待していなかったとばかりに言葉を続ける


「ピースメイカー研究も初めは楽しかったわぁ。理解出来なかったもの。でも、悲しい事に私は天才過ぎた」


比喩でも嫌味でもなんでもなくソレは間違いなく真実だった

一つの部屋に宇宙を凝縮したものを作るなどという妄想じみたこと実際に実現した化け物は後にも先にも咲座木 翡翠ただ一人だろう

どういう理屈で空間が広がっているのかだとか、星とか、重力が存在しているかと思えば翡翠は無重力状態にあり浮いているだとか常人が理解出来る範疇を超えていた


「お爺様が解析出来ず量産していたピースメイカー、その心臓コアのロジックを私は解き明かした。だから、第三世代を超えて、第四、第五世代を作れたわけだしねぇ。第六世代にも届くけど、私がやりたいことはそーじゃないのよ」


存命する中で世界一の天才は己の偉業を本意ではないと投げ出す

興味がないし、やりたいことと違うからという理由で人類への貢献を破棄したのだ

もっとも、これ以上の科学の進歩が正しく人類への貢献になるか議論する必要になるかもしれない

これ以上の軍事力などに蛇足でしかないのではないか

悲しいことにそういった思案ですら今の人間はピースメイカーに依存しているわけだが


「ピースメイカーのせいで、いいえ、文明が進むにつれで人間は家畜のようになってしまったわぁ。一見はバラバラでも思考が統一されて豚に成り下がった」


天災は他者を見下す

理解出来てしまう程度の人間を嘲笑する

人間であることを放棄した人間を人間ではなくなったと嘆く


「その点、貴方達二人は素敵よぉ」


天才は相槌も打たず、天才の言葉を静聴する二人に視線を向ける


「理解出来ないものを理解しようとしてしまう質なのだけれど、人間の思考はどうしても数値的に統計が取れないし、言語化できなかった」


大抵は予想通りだが、理解不能なイレギュラーが存在する

その事実だけで天才は歓喜する

世界にはまだ未知が残されているのだと


「ねぇ、獅導?鬼瓦 獅導?貴方はどうしてマスクなんて着けて顔を隠しているの?余計に目立ってしまうのに」


「だって、こんな醜い顔を晒すなんて有り得ないじゃないですか」


ガスマスクを被った少年はそう答える

表情が窺えない分、その言葉が冗談か真実か見分けにくい


「ねぇ、千晶?代辺 千晶?貴女はどうして大衆を受け入れながら染まろうとしないの?」


「え?あっ、さぁ?」


話を聞いていたかも怪しい少女はそう応じる

自分の思考を理解していないのか、答えるつもりがないのか

人の思考を読むに至れなかった天才には断定できない

だからこそ、良いのだ


「そうでなくてはね。本当なのか嘘か分からないわ。自分のことすら理解していない人間なんておかしいわ。大衆に適合できない人間こそ人間足り得るのだわ」


天才はくるりくるりと重力を無視して宙を舞う


「人間は素晴らしい。機械なんてつまらないものに頼らず、寄り添わず、依存せず、人間は人間の力で生きるべきなのだわ。今の世界は少しばかりツマラナイ」


逆さまに宙に漂う天才の顔から表情が消える


「だから、一度滅ぼしましょう?本土の家畜も、外の人間も、等しく滅ぼしてしまいましょう?それで人間をやり直しましょう。人間が人間であるために今の人間には退場してもらいましょう?滅びに抗う人間がいればいいわね。だって、それはきっと理解が及ばない人間なのですもの」


天才は悪意なく、寧ろ善意で世界を壊すとのたま

それを聞く二人から反応はない

元より天才の目的を承知でいるのだから

世界の滅びに加担する二人の意志は如何なものか

天才は知らない

だが、それでいいし、それが当然なのだ

人間は他者を理解出来ない

だから面白い

不確定要素は多いほうが楽しめる


「あ、話終わりました?じゃあ、私眠いんで帰りますね」


「ええ、気を付けてね」


※ ※ ※


主に対して不遜な態度の客人に憤りを覚えることはない

ピースメイカーOO、アレンは粛々と主の命を果たす

最古のピースメイカーは変わることなく咲座木に仕える

それが《盟約》だ

アレンはそれを全うするだけ

あくまで傍観者だ

一歩引いて世界を俯瞰すうるが故に見えるものがある


「思い通りに進んでいると思わされているのはどなたでしょうね?」


もしくは、《滅び》を避けるために奔走する獣

もしくは、停滞を絶対にせんとする家畜

もしくは、《滅び》を動かす同胞

もしくは、予定にない《滅び》

もしくは、自覚なき舞台装置

もしくは、もしくは、もしくは、もしくは、もしくは、


「考えるだけ栓無き事」


賽は零れ落ちた


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