惨劇の跡
夜明け前。
村へ続く街道を、一隊の騎士団が進んでいた。
本来ならば小規模な巡回任務に過ぎない。
辺境の小村を確認し、そのまま次の地域へ向かうだけの簡単な仕事。
誰も緊張などしていなかった。
「こんな田舎、魔物も出ねぇし暇なんだよなぁ」
若い騎士が欠伸混じりにぼやく。
「平和なのは良いことだろ」
隊長格の男が苦笑した、その時だった。
――風向きが変わる。
鼻を突く異臭。
焦げ臭い。
いや、それだけじゃない。
「……血?」
一人が眉をひそめる。
次の瞬間、騎士たちは一斉に顔を上げた。
遠くの空が、赤く染まっている。
「火事か!?」
馬を走らせる速度が上がる。
だが、近づくにつれ、誰も口数を減らしていった。
おかしい。
静かすぎる。
普通なら、火事なら悲鳴が聞こえる。
助けを求める声がある。
人が走り回る気配がある。
なのに。
何もない。
聞こえるのは、燃え残った木材が崩れる音だけだった。
そして。
村へ到着した騎士たちは、言葉を失う。
「……な、んだ……これは……」
村が、壊れていた。
家々は焼け落ち、地面には血が広がり、人間だったものが無数に転がっている。
老人。
女。
子供。
区別なく。
まるで“何か”が通り過ぎたように、一方的に蹂躙されていた。
「おい……おい……!」
若い騎士の一人が震えながら後退る。
「魔物の群れか……!? いや、こんなの……」
違う。
騎士たちは理解していた。
これは魔物の仕業ではない。
あまりにも“意図”がある。
逃げ道を潰し、恐怖を拡散し、見せつけるように壊されている。
まるで。
――誰かが、“絶望させるため”だけにやったみたいに。
「隊長!」
一人の騎士が叫ぶ。
広場の中央。
「ふざけるな……」
誰かが呟く。
そこには、子供の首を杭で打ち付けた、残虐極まりないものがあった。
「こんなこと、人間にできるわけ――」
横を見る。そこには、腕が無数に生えた異形があった。
あまりの光景に嘔吐する者が続出し、撤退を余儀なくされた。
騎士団は王国に伝えた。
村が一つ、消滅した。と。




