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憎悪、怨恨、嫌悪――そんな黒く濁った感情は、まるで排水路に沈殿した泥のように、今日もまた社会の隅々へと静かに溜まり続けていた。
誰かを羨み、誰かを妬み、誰かを憎み、そして胸の奥底では「消えてしまえばいい」と願う。その程度の感情ならば、人間である以上、誰しも一度は抱いたことがあるだろう。もっとも、多くの人間は理性という鎖によって、その衝動を現実へと変えることなく生涯を終える。妄想の中で相手を何度も殺し、何度も罵倒し、それでも翌朝には何事もなかったような顔で社会へ溶け込むのだ。
だが、この世界には、その“妄想”を現実へ変えてしまう存在がいた。
夜の闇よりなお深く、都市伝説よりも曖昧で、それでいて確かに存在する組織。
依頼さえ成立すれば、彼らは必ず標的を殺す。事故死、自殺、失踪、通り魔、原因不明――手段は状況によって変幻自在であり、どれほど警戒を固めた人間であろうと逃れることはできない。そして何より恐ろしいのは、彼らの仕事には一切の証拠が残らないということだった。
「本当に……存在するのか、そいつらは……?」
震える声でそう呟いた男に対し、薄暗いバーのカウンター席で煙草を燻らせていた情報屋は、小さく笑みを浮かべる。
「存在するさ。だから依頼人は後を絶たねぇ。警察も政府も、誰一人として尻尾を掴めちゃいない」
「暗殺組織……なのか?」
「いや――そこが妙なんだよ」
紫煙をゆっくりと吐き出しながら、情報屋は低く囁いた。
「あいつらは、誰でも殺すわけじゃない」
その組織には、奇妙な掟が存在していた。
金さえ積めば誰でも殺すような三流の殺し屋とは違う。彼らが依頼を受ける条件は、ただ一つ。
“対象を殺したいほどの憎悪と怨恨があること”。
軽い嫉妬では駄目だ。
一時の激情でも意味がない。
骨の髄まで憎み、眠れぬ夜を過ごし、人生そのものを壊され、それでもなお「殺したい」と願い続けるほどの感情でなければ、彼らは決して動かない。
まるで、人間の悪意そのものを糧にしているかのように。
「復讐代行……ってことか」
「さぁな。だが、依頼を受けた時点で終わりだ。誰であろうと、必ず死ぬ」
情報屋の声音には、冗談の色など一切混じっていなかった。
雨の降る深夜、雑踏に紛れて人が消える。
何の前触れもなく、誰かが死ぬ。
そしてその裏側では、今日もまた一つの“依頼”が静かに遂行されていた。
憎悪を抱えた依頼人。
感情を捨てた執行者。
そして、必ず訪れる死。
彼らは失敗しない。
彼らは痕跡を残さない。
彼らはただ、依頼人の憎悪を現実へ変える。
その名は――Executor。
その組織の創始者であり、同時に最高戦力である、コードネーム「Torturer」。卓越した体術と尋常でない速さを持ち、嗜虐的な思考を持つ危険人物。それ以外の情報は誰も知らない。組織の中でも恐れられ、何が目的なのかも全く不明。ただしかし、彼が人を殺める際、心の底からの笑みを漏らすと言われていた。




