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実作してみよう

 さて今度は、幻想小説の具体的な書き方を説明してみましょう。


 まず幻想とは芸術用語でいうデペイズマン、つまり「異なる環境に置くこと」である、という前提に立った上で。

 そのデペイズマンを言葉でどうやって起こすか。それには異化を使えばいい。


 まずは、基本となるモチーフを決めるとしよう。これは身の回りの、ありふれた物がいい。

 今回はとりあえず「鉛筆」と「火」ということにしてみよう。


 そして異化とは、異なるイメージを重ねること。ならば基本となるモチーフに対して、「あり得ない状態」を付加すればいい。

 具体的にはそのモチーフには絶対くっつかない、動詞か形容詞をくっつけるのだ。


《例》

「鉛筆が歩く」

「火が冷たい」


 この「ありふれたモチーフ」へ「あり得ない状態」を付加する作業をボクは「幻視」と呼んでいる。

 この幻視が、幻想小説を書く際に当たって一番面白い。何せ言語でないと不可能なことをやるのだから。いくらでも遊べる。

 そう、幻視とは言葉遊びだ。


 モチーフを幻視したら、まずは「それ=幻視モチーフ」を詳しく描写してみよう。

 幻視モチーフがどうなっているか。五感を使って描く。

 もしくは、そうなった理由や、幻視モチーフの動機を説明するのもいい。

 こうして幻視に、単なるふわっとしたイメージというだけではない。小説としてのリアリティを与えるのだ。


《例》

・鉛筆が歩く

 →足が芯で出来ている。

 →自分も勉強したいと歩き出した。


《例》

・火が冷たい

 →冬で凍えた。

 →冷たくなって、固くなった。


 こうして描写しただけでも、充分に幻想小説になってくれるが。今回はさらにストーリーをつけてみよう。


 幻想小説を書いてみたいが、多くの人が手を出しかねている理由。

 それは恐らく、ふわっとした幻想に、ストーリーをつける発想が思いつかないからではないだろうか?


 とりあえず、先述したのは「ありふれたモチーフ」が「あり得ない状態」になったというところまで。

 ここへ「それでどうした?」という展開をつければストーリーになる。


 そのためには、まず基本となるモチーフが持つ「特性」をピックアップしてみよう。


《例》

・鉛筆:書く、細い、削って短くなる。

・火:熱い、揺らめく、灰になる。


 そうしたら、「特性」をくっつけて、はいストーリー出来上がり。

 式にしてみると


・ありふれた物+あり得ない状態=幻視。

・幻視+描写+特性=ストーリー化。


となる。


《例》

鉛筆が歩き出した。ついては自分も勉強したいという。なので好きにさせたところ。歩けるからと自立する前に、削れて体がなくなった。


《例》

囲炉裏の火が冷たい。冬で凍えたという。それは大変だ。温めてやろうと火を起こしたら、そうだ自分は熱いものだと思い出した。


 で、ここで幻想小説を書く意義。

 モチーフに「ありふれた物」を使い、イメージの異化を行っている。

 これは文学における異化の大切な役割なのだが。ありきたりな物の中に、新たな意味を見いださせるのが異化だ。


 夏目漱石『吾輩は猫である』が良い例だろう。猫の一人称により、人間のありきたりな生活を異化しているのだ。


 上記の作例なら、鉛筆が削れるとは何なのか? 火が燃えるとは何なのか?

 当たり前のことを「幻視」によって、改めて問い直す。ありふれた現実から離れて、幻想の中へ飛び込む。

 そうすることで、つまらない日常が新しくなる。これが異化だ。


 そして書き手にとっても幻想小説を書くのは良い刺激になるはずだ。

 文学とは結局、他人とのコミュニケーション。自分のことを知らない相手に向けて書かないといけない。

 また自分ではない、誰か他人について書くのが小説というものだ。そこには相手の内面をおもんばかる想像力が必要となる。


 それが幻想小説となると、鉛筆や火の気持ちを考えないといけない。

 かなり無茶。

 けど書き手として、良い想像力の訓練になるはず。第一、描けないものを描こうとすることこそ、文学の醍醐味じゃないか。


 幻想小説、楽しいよ。レッツチャレンジ。

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