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定義から技法まで

■序論

 メルヘンファンタジー、幻想文学っていいよね。

 全てがアベコベなまっくら森。銀の砂漠に月の舟。怪獣たちの大決戦。


 けど、幻想文学ってどう書けば良いか分からない。そもそも幻想って何じゃらほい。高尚そうだから、簡単に手を出しづらい。

 わけわからん物の、わけわからんストーリーなんて、才能ある人しか描けないんじゃないの?


 そんなことありません!

 というわけで私。近頃、割と沢山の掌編を書いていたら、メルヘンファンタジーの書き方も何となく分かってきました。

 なので皆さんにノウハウをシェアしようと思います。



■幻想文学の歴史

 そもそも幻想文学とは何なのか。まず、幻想文学はどうやって生まれたのか。


 ある時、リアリズム文学という大きな文学運動が起こりました。

 現実社会を描くのがリアリズム文学です。だから自分たちの国や民族以外の人でも理解できる小説が作られるようになった。

 そのために作られた、社会を精密に描き出す手法が、ファンタジーでお馴染みの「考証」となります。


 そう、「世界考証」とはもともと、ファンタジーのものではなかったんですね。

 ……それはさておき。


 だけど現実社会の実際に「あるもの」を描くだけが小説ではないはず。現実にないものを描けるのも、言葉の特徴ですから。

 そこで現実にないものを描く文学。幻想を描く文学が生まれた。

 つまり幻想文学です。


 だから幻想文学とは何かというと、リアリズム文学へのカウンター、当てつけで生まれたんですね。

 だけど幻想文学は実際に存在しないものを描く。いわば「嘘っこ」の文学。「嘘っこ」ゆえに、リアリズム文学からは劣った文学とされてきました。

 自分たちリアリズム文学は高尚な文学で、あいつら幻想文学など低レベルで下らないと。


 だけど幻想文学は劣った文学ではない。むしろ文学の本質を突くジャンルだとボクは考えています。

 実際、幻想文学から「剣と魔法」やホラー小説が生まれ。現代のライトノベルや大衆小説へと繋がる。

 と同時に「高尚な文学」への逆流も起こって、マジックリアリズムなどが生まれる。

 文学の多様さに、幻想文学が寄与した功績は計り知れません。


 要は何を、どう表現したいか、なのですよね。ジャンルに卑賤はない。



■言語の特性

 ところでさっきボクは「現実にないものを描けるのも言葉の特徴だ」と言いました。

 例えばボクが「ここにリンゴがある」と言ったとしましょう。もちろん現実には存在しません。

 ですが読者の皆さんは、あの赤い果実をイメージしたことでしょう。


 実際にないものを「あるもの」としてイメージさせることができる。これが言語であり、表現の機能です。

 ならば言葉でしか表現できない幻想とは何か?


 例えばドラゴンやユニコーン。実際には存在しませんが、言葉にすることで、イメージの中では「仮にいること」として扱うことができます。


 ボクが「世界一美しい宝石」と言ったとしましょう。

 けど「世界一美しい宝石」なんて、物の見方は人それぞれで、そんなの存在するわけがありません。

 仮に表現するとしても、絵や動画で描き出すのは困難極まることでしょう。

 けど言葉では簡単に「世界一美しい宝石」と言ってしまえます。


 「透明な緑が猛烈に眠る」という文章があります。

 これは言語学的に文法は正しいが、実際に何も意味していない。そんな物は存在しない。文章だけの存在です。


 とまあ、ざっと思いついただけでも「文章でしか表現できないもの」はこんなにもあるわけです。



■幻想の異化

 文章でしか表現できないことにも、こうして色々な技法があります。

 ですが今回、幻想文学では特に「異化技法」を使っていきましょう。


 異化とは比喩の技法です。

 本来違う世界で、違う意味に使う言葉を、本来の意味以外の使い方をして、そのものの本質に迫る。

 そんな言い方のテクニックです。


《例》

「夜の底が白くなった」

「彼には保護色を求める気持ちがあって」

「彼はその程度の浅瀬を渡っていたのだった」

「しいんと、静けさが鳴っていた」


 例えば「炎のような薔薇」という比喩表現があったとします。

 薔薇の方は実際に存在するとして、炎の方はどこにもない。薔薇を見て連想したイメージに過ぎません。

 ですが薔薇と炎という、異なるふたつの物のイメージが重なることで、どこにもない新たなイメージが生まれる。

 これが異化効果です。


 異化はよく詩に多用されます。異化こそ文章独特の技法だということで。


 異化の特徴とは、

 異なるふたつのイメージが重なり合うこと。

 あるひとつのイメージが変容すること。


 ここに幻想のヒントがあります。



■日常と非日常①

 異化。異なるイメージを重ねるとい良いらしい。

 けど、どうやって、どんなふうにやれば良いのか。


 幻想文学はリアリズム文学への対抗で生まれました。

 リアリズムへの対抗。当たり前ではないもの。ならば幻想文学では、非日常をどう描くか。

 むしろ幻想文学とは、非日常を扱う文学だとボクは思うのです。


 だが非日常とは、日常とセットで存在するもの。

 というわけで非日常の描き方を、ざっと考える以下のようになります。


 ・日常+非日常

 ・非日常+日常

 ・非日常+もっと非日常


 日常+非日常。

 普通の高校生がいる。目の前に妖精が現れた。

 なるほど、これはスタンダードな幻想ですね。


 非日常+日常。

 非日常だから、例えば別世界の竜を飼う村だとしましょう。そうした人にも、もちろん日常生活がある。

 そんな「異常な日常」を描いたとしたらどうなるか。我々にとって「非日常」になるのではないでしょうか。


 非日常+もっと非日常。

 これは完全に「どファンタジー」となりますね。

 例えば、UFOが地球侵略に来た。迎え撃つは妖怪軍団とか。

 ただこれ途中から「非日常+日常」のように、最初の「非日常」が「非日常という日常」になりがちです。

 割と扱いが難しいかも。



■日常と非日常②

 これはボクの持論。

 日常と非日常をどうにか組み合わせ、衝突させることで、非日常の特別さが際立つこととなる。異化効果が起こる。

 これこそ幻想の根幹ではないかと思うのです。


 だから幻想文学の効果として難しいのが「非日常のみ」の物語。

 「非日常のみ」では幻想の異化が起きにくい。なので結果的にイメージとしては弱くなる。


 例えば別世界での戦争を描いています。剣と魔法で戦っている。

 けどその光景というのは、兵士におっては当たり前の日常となる。

 つまりそこには幻想がない。


 なので、そこへ戦争を終わらせる勇者が現れました、ということにしてみよう。つまりは非日常の投入だ。

 けどこれ「非日常+もっと非日常」ということになるだろう。だったら最初から、ちゃんと異化効果を狙った方が良い。


 「非日常のみ」でも、読者としてのリアルと比較させてみよう。するとイメージの衝突が行われる。「非日常のみ」を、読者のリアルと異化させるのだ。

 例えば、別世界の世界で使われる魔法を、我々の世界における核兵器のメタファーだとする。だが完全に同じ存在ではないはずだ。そこの違いをアピールする。すると異化効果が生まれてきて……。


 ……というように。非日常の設定を作りました。はい幻想文学ですよ、というわけではない。

 読者がどう感じるのか。幻想をどう生じさせるのか。イメージの衝突と対比。そこまで考えてほしい。



■幻想のドラマ性

 ところで日常と非日常というのは、幻想小説だけではない。作劇構成での根幹でもある。


 主人公がヒロインと出会いました。ボーイ・ミーツ・ガールの物語。

 けどリアルにそんな御都合主義な出来事はそうそう起こらない。これも一種のメルヘンと言える。


 作劇術でドラマの基本構造とは「事情と事件」から成るという。それは、こうも言い換えられるだろう。

 日常とは変わらぬ「事情」、非日常とは変化を与える「事件」。

 つまり「事情と事件」そして「日常と非日常」とは似たようなもの。

 ドラマと幻想性とは似たようなものだと思うのだ。



■幻想の他者性

 そして作劇における非日常や事件というのを、ボクは「他者性」だと考えている。


 他者性、すなわち自分とは異質な存在。相容れない存在。コントロール不可能なもの。

 それを作品の中に、そして作者自身の中へ放り込む。すると、どう反応が起こるか。

 変わらぬものである「日常」「事情」が動かざるをえなくなる。

 これはキャラ造形の基本でもある。


 そして他者性とは読書の楽しみ、そのものでもある。

 自分以外の他人の考えを知る。自分の知らない世界の広がりを知る。

 つまり幻想文学とは、言語の、読書の、一番楽しいところだとボクは信じているのだ。



■幻視の練習

 というわけで実際に幻想文学を書く前の、これは基礎練習。

 普段から、自分とは違う「他人」をリアルの向こうに妄想する癖を付けよう。


 もし、今ここに昔の人がタイムスリップしたら、どうなるか。

 空に大きな目玉があったら、どうなるか。

 あの大きなビルの物陰から大怪獣がぬっと出てくるのは、どんな様子か。

 大っ嫌いなあの人の立場になって物事を考えたら、どんな気持ちか。


 あと有効な練習法。

 胸の前で少しスペースを空け、両手の平を向ける。そして自分はゴムボールを持っているとイメージするのだ。

 そうしたら今度は、そのボールが熱くなると想像する。次は冷たく。

 重くなる、軽くなって浮く。

 ザラザラに、モフモフに。


 そうして「今ここにないもの」を実感としてイメージする練習をする。そうすれば描写する役に立つ。

 果ては「この世にありえない感触」まで描写できるようになるでしょう。


 そうやって普段からの想像力を豊かに働かせることこそ、幻想文学には最も大切になります。



■実演練習

 では幻想文学のネタを作ってみよう。

 まずは何か、あなたの身の回りにある、ありふれた「もの」を選びましょう。

 ありふれたもの、すなわち「日常」です。


 次にその「ありふれたもの」へ、ありえない状態への変化を与えましょう。

 ここは言葉遊びになったので構いません。


《例》

溶ける炎。暗い宝石。並ぶ水。静かな楽器。反復横跳びする時計。


 これで「ありふれたもの+ありえない状態への変化」まで決まりました。

 これが幻想文学の「元ネタ」となります。


 この元ネタが、次にどうなる?

 あなた、もしくはキャラはどんな反応をする?


《例》

並べた水で顔を洗った。すると顔はどうなる? 顔を洗ったキャラはどんな気持ちになる? そんなキャラは次にどんなことをする?


 とこれだけ想像して描写すれば、もう既に一編の幻想小説になっているはずです。

 一度、お試しあれ。



■いったんまとめ

 と、ここまではメルヘンファンタジー、幻想小説の、恐らくは基礎の基礎に過ぎない。

 ここから様々な要素が複雑に絡み合い、たくさんのイメージが立ち上がり続ける。

 そうして長編幻想小説とか、名作と呼ばれるものになるのだろう。


 けど、まずは足下から。

 幻想小説なんて高尚じゃないか。難しいのではないか。なんか書き手としての精神性が問われて~。

 みたいな難しいことを考える必要はない。


 みんなも、どんどん気軽に書いてみよう。

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