第39話 カギ
「こっちだ」
門には何も書かれていない。
『忍者の隠れ里へようこそ』とか書いてあったらそれはそれで面白すぎるけど。
門番らしき人が2人立っていたけど、謎の忍者さんに引きつられているせいか何も言われなかった。
「あの……」
「なんだ?」
「お名前を聞いても……?」
「…………」
返ってくるのは沈黙のみ。
「ですよねー……」
忍者が簡単に素性を明かしてくれるわけないか。
「……あとで話す。
とりあえず着いてこい」
「あ、はーい」
うーん、なるようにしかならないか。
里は思ったよりも現代的だった。
いわゆる古い日本家屋みたいなのが並んでいるような、そんな感じのものを想像してたんだけど、そういった家はむしろ少数派で。
屋根にソーラーパネルが乗ってるちょっとおしゃれな一軒家はあるし、エントランスが妙にキレイなアパート? マンション? はあるし。
こんな地図に乗ってないような所でどうやってこんな建造物を建てたんだろうか……。
「何をキョロキョロしている?」
「あ、いや、隠れ里なのにどうやってこんな建物を建てたんだろうなぁ、と」
「普通に建てるだけだが?」
「でも、機械とか材料とかこんな所までどうやって運ぶんですか?
そもそも人避けしてるのに職人さん連れてきちゃって大丈夫なんです?」
「はぁ……あのなぁ。
忍者ってのは、フィクションの世界でニンニン言ってるようなのと違うぞ?
世の中のありとあらゆる知識・技術を身に着けた超高度な組織なんだよ。
例えば、最新のセキュリティが導入された建物に侵入するには、建物自体の構造も知らなければいけないし、セキュリティシステムそのものにだって精通していなければいけない。
だから、職人なんてのは別に呼んで来る必要はないんだよ。
素材の調達にしたって、材木はいくらでも周りにあるし、他の建材だって『アレ』を使えば大して難しいことはない」
そう言って指をさした先には、なんかテレビでみたことがある超大型の輸送機が鎮座していた。
さらに、横には色々な重機まで……。
そういえば、千代ちゃんだって転生局のシステムを私より使いこなしてたな。
インポッシブルなミッションをこなす映画の人たち、って考えた方がイメージとしては近そうだ。
「まぁいい、着いたぞ。
入れ」
はたして5階建てのビルの自動ドアをくぐると、そこには受付のお姉さんが一人立っていた。
にこやかな表情をしているが……目が笑っていない。
というより、張り付いた笑顔が薄ら怖い。
「あなたが……」
けれど、私を見た途端、その笑顔が一瞬なんとも言えない表情になる。
どう接していいか測りかねている感じだ。
すぐに元の作り笑顔に戻る。
「こちらへ」
◇
「どうぞ」
通されたのは5階にある応接間。
さっきの受付のお姉さんがコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとうございます」
ん、おいしい。
市役所で働いていた頃を思い出すなぁ……。
もちろんお客さん側に座ることは初めてだけど。
私の向かい側には、ここまで連れてきた謎の忍者さんが座る。
お姉さんは、お盆を持ったまま横で待機だ。
「改めて自己紹介といこうか」
謎の忍者さんが、仮面を外しながら切り出す。
「私の名前は『っm9』だ。
この横のが『t3r@9』」
「……へ?」
なんとも間抜けな声が出たのが自分でもわかる。
日本語で名前を言っているのはわかるのに、全く言葉として頭に入ってこない。
それに……なんだろう?
仮面を外したというのに、顔を『認識』できない。
目の前にいて、どこか遠くにいるような感じ……。
「どうした?
千代のカギを持つものよ。
弥勒さまの力を持っているのではないのか?」
……なるほど。
『視』てみろ、ってことか。
紫翡翠の眼発動
スキル:観察眼
パリィイッィン!!
突然、ガラスの割れるような派手な音がする。
「……『認識阻害』の術が!」
「ああ……。
間違いないようだ」
「試すようなマネして悪かったね。
『視』たからわかるとは思うが、私が千代の姉で『百代』という。
一応これでも里の長をやっている。
こっちが、母の『一代』だ。
先代の長だ」
「えっと、桜坂 螢子と言います。
話せば色々長いのですが、千代ちゃんと一緒に仕事をしている者です」
観察眼で『視』たことで、これまで見えていた顔が全然違っていたことがわかった。
うん、千代ちゃんはお母さんによく似ている。
「悪いけど私も座らせてもらうよ」
受付のお姉さんのフリをしていた千代ちゃんのお母さん、こと一代さんが向かいのソファに腰を落とす。
「詳しいことは聞かないが、千代は元気にやっているかい?」
「ええ。
あ、でも……ちょっと、私の事情に巻き込んで怪我をさせてしまって……」
「はっは、そんなヤワな鍛え方はしてないさ。
その『カギ』が無事なんだ、あの子は大丈夫だよ」
「これが……?」
「ああ。
そのカギはね、あの子の魂に繋がっているものなんだよ。
だから、あの子に何かあればそのカギにも影響が出るのさ」
「そんなすごいものだったんですね」
魂につながるカギ、か。
ただのお守りくらいに思っていたけど、そういうことではないのかな。
「……なぁ、螢子、といったか。
なぜそれがフエだと思ったんだい?」
「え……?」
だって、どう見たってフエじゃない?
……いや、普通にこれを見たらただの輪っかにしか見えない!
これがフエだと思ったのは、私が『千代ちゃん助けてフエ』を知っていたからってだけだ!
「さっきも言ったように、その『カギ』はあの子の魂と繋がっている。
お前さんが『フエ』だと思ったのなら、そこに意味があるはずなのさ」
「フエであることの意味……」
手の上に乗せた小さな丸い石をじっと見つめる。
とてもフエには見えないが、ずっとフエだと信じて疑わなかったもの。
ただのお守りと思っていたから気づかなかった。
なんて簡単なこと。
私は『それ』の上下を唇で挟み、大きく息を吸う。
ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!
甲高い音が鳴り響く。
本当であればキーンとなってもおかしくないくらいなのに、なぜだか耳に優しく聞こえる音。
余韻が残る中、この場にいた3人が、3人共息を潜める。
ほんの小さな気配も、かすかな音も聞き漏らさないように。
そっと、じっと……。
そして――
『螢子さん!!!』
「千代ちゃん!!!!」
「千代!?」
「本当にお前なのか!?」
『え!?
お母さん!? お姉ちゃん!?!?』
10日ぶりに聞く千代ちゃんの声は元気そうで、ほっと安心したものだった。
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