第33話 加護
ミルティ先輩もファラスさんも向こうでいろいろ動いてくれているらしく、ひとまず静かになった。
誰もいない何もない場所。
『天界』ってもっときらびやかなイメージだったけど、そうでもないんだろうか。
たまたまこういう部屋ってだけかな。
だとしても、うーん、寂しすぎる。
ただ待っているだけ、というのも落ち着かないのでこっちでできることを考えてみよう。
私がまだ使っていないスキルは、4つ。
俯瞰する眼よりもさらに広範囲に見ることのできる『衛星からの光』。
地図があればそれと照らし合わせて具体的にどこ、って言うことはできるけど……そもそも天界の地理を知らないと難しいだろうな。
スマホに画像添付して送る、みたいなことができたら行けそうだけど、さすがにそんなことはできないし。
2つ目が、とりあえず『見え』ていれさえすれば使える(俯瞰する眼使用でも大丈夫)『予測する瞳』。
ミルティ先輩が護身術の特訓中に言っていた『相手の目線や筋肉の動きから次の動作を予測』することができるもの。
ただ、既に拉致されてしまっていて、さらに拘束までされた状態では使い道がない。
見えていても動けなければどうしようもないからだ。
相手の目を覗き込むことで、思考まで読み取る『読み取る眼』ってのもあるけど……残念ながら今みたく視界がない状態では使えない。
あとは……。
ファラスさんにもミルティ先輩にも、使ってはいけないと言われている禁断のスキル。
私としてもできれば使いたくない、その名も
『支配者の瞳』
文字通り相手を支配することができるスキルだ。
催眠術とかそんなチャチなものではなく、行動どころか意思までをも全て支配できてしまうという恐ろしいもの。
しかも、支配した相手への命令には制限がない。
死ねといえば自ら死を選ぶし、殺せといえばためらいなく殺す。
『実験アル! 折角だから色々やってみるアル!』というファラスさんの指示の下、部下の研究員さんに『ナイフでファラスさんを指すよう』命じたらノータイムで刺したのだ(もちろん、指示内容はファラスさん立案だ)。
通常、生死の関わるような命令には何らかの抵抗が起こって然るべきなのに……。
ガス状生命体はナイフで刺されたくらいではなんともないとはいえ……あのためらいのなさは本当に怖かった。
一切の自由意志を奪い操り人形とするスキル、と言っても過言ではないだろう……。
私の眼を相手が見ることで発動するため、目隠しをされていない今であれば使うことができるけど……。
本当に最後の手段だな……。
うーん。
どれもこの状況を打破できそうにない。
いや、まてよ……?
組み合わせてみたらいけるんじゃないか?
物は試しだ。
やるだけやってみよう。
紫翡翠の眼発動
スキル:衛星からの光&高速スキャン
続けて、スキル:観察眼!!
ズキンッ
うぐっ、さすがにこれだけまとめてスキルを使うと頭痛が出るな……。
けど……その甲斐はあった。
ここを中心とした広範囲がどうなっているのか、正確な地図が頭の中にできあがり、さらに今いる場所がなんなのか、詳細な地名や地形についてくっきりと把握することができた。
……え? おうきゅ――
「お前、なにしやがった?」
「うわああぁぁ!」
集中していたせいで全然気づかなかったが、いつの間にか戻ってきていた拉致犯が私の真横に立っていた。
「い、いきなり話かけないでください、びっくりするじゃないですか!」
手足を拘束されているせいで身動きができない分、見えない目でにらみつける。
「なにしやがった、って聞いている」
男は全く動じることなく、言葉を繰り返す。
むぅ、やはりか弱い乙女が睨んだところで、可愛いだけで迫力はないか。
「なに、と言われましても。
驚いてひっくり返っている所ですけど……。
あ、もしかしてスカートめくれてないですよね!?」
「んなことは聞いてねぇ!」
怒鳴りながら体を起こされる。
怒ってるとはいえ、女の子の胸ぐらを掴むのはいかがなものだろうか?
まぁ、手は後ろで拘束されているので、他に掴む所はないのかもしれないけど。
「今、スキル使っただろう?
毒が効いてねーのか!? なぜ使える!?」
使う直前にはいなかったと思ったんだけど、発動の瞬間に戻ってきたってところか。
……今日はとことん間が悪い。
「……使いましたが……結局見えないのでどうにもなりませんでしたよ……」
顔を背けながらしぶしぶ答え――ているよう演技をする。
我ながら名演技だ。
アカデミー賞ものじゃないか?
……って、見えないと思って顔近づけすぎ!
わざわざそらした目を覗き込むようにしてくるし。
耐えられずに逆の方へ顔を背けても追っかけてくる……。
内心の冷や汗がすごい……早く、離れてっ!
「ちっ……」
つかんでいた胸ぐらを乱暴に離し立ち上がる。
おかげでバランスを崩して倒れてしまった。
硬い地面な上に受け身が取れなず、背中が痛い……。
けど、とりあえず疑いは晴れたようでよかった。
あとは早くファラスさんたちが戻ってきてくれるのを待つだけだ。
この『場所』を伝えなければ!
『ファラスさん! 聞こえますか―!?』
ゆっくりと離れていく男を見ながらファラスさんに呼びかけるものの、返事がない。
早く! 早く! と祈るのみだ。
「……待て」
けど。
その祈りが届くより早く、事態は悪化していく。
「お前、なぜ目をそらした?」
「そ、それは……。
息が! かかったから!!」
そうだ、あの距離なら見えていなくてもわかるのは『普通』だ。
「じゃあなぜ。
今、お前は俺がいる方を見ている?」
しまった!
気を抜いたつもりはなかったんだけど、安心した瞬間に少し緩んだか。
なんとかごまかさないと!
「そ、それは、ほら、足音が……」
「俺は特殊な訓練を受けていてな。
足音はしていないはずだが?」
「こ、声の方向で……」
「この部屋はな、反響により音の位置がわからなくなるようになってるんだよ」
「う……」
「……お前、見えているな?」
これでは、以前弥勒さまがいなくなった時と同じじゃないか。
ミルティ先輩にも稽古の時、「螢子ちゃんはどうしても詰めが甘いのよねぇ」とよく言われていたっていうのに!!
肝心なときに、どうして私は……!
「くそっ、紫翡翠の眼は見えてさえいなければ無効だって言っていたじゃねーか!
あいつら、ガセネタつかませやがって!」
『あいつら』か。
この人自体は天界人ではなさそうだし、やっぱり黒幕がいるってことで間違いなさそうだ。
今の今まで姿を見せていないのは、信用されているのか……使い捨てなのか。
なんにせよ、下手に応援を呼ばれる前になんとかしないと。
「ったく手間かけさせるんじゃねーよ。
大人しく眠っていろってんだ!」
そんな私の思いをよそに、事態は最悪へ近づいていく。
どこから取り出したのか、激昂した男の手にはスタンガンのようなものが握られていた。
ダメだ、ここで意識を失っては先輩たちが戻って来た時に連絡が途切れてしまう。
ジリジリと近寄る男に対し、不自由な手足で後ろに下がっていく。
一気に距離を詰めないところを見ると、逃げられないとわかってはいても、まだ何かしてくるかもしれないと警戒しているのか。
じっと私を見ながらも、目を合わせないように顔を伏せている。
だけど、逆に考えればこれはチャンスかもしれない。
一瞬でいい、私の眼を見てくれさえすれば全てを止めることができる。
できれば使いたくはなかったけど……
『ホタルコ! 大丈夫か!?』
『螢子くん! まだ無事かね?』
『フーちゃん!! もふもふ!!』
ナイスタイミング!!
何もかもが悪い方向へ向かっているかと思っていたら、最後の最後で大逆転だ。
弥勒さまのご加護でも残っていたのかな?
……まぁ、残ってたのならもう少し早くにご利益が欲しかったけど。
『とりあえず、ピンチではありますけどまだ無事です。
それと、ここの場所がわかりました。
ここは――』
トンッ
背中に壁が当たる。
壁あったんだ……。
って、もうご利益切れ!?
早すぎるよ弥勒さま!!
『おい! ホタルコどうした!?』
『えっと、ちょっと追い詰められちゃいまして』
『一大事じゃないか!』
『大丈夫です、あの力……使います』
『あれは! ダメよ螢子ちゃん!!』
慌てたようにミルティ先輩が割って入る。
『あの力ってなんだ?』
あ、そっか。
フーちゃんともふもふには話してなかったんだっけ。
『説明は後でミルティ先輩から聞いてください。
私だって使いたくはないんですけど、今はそれ以外に道がないんです』
「観念しろ」
拉致犯はもう目の前までやってきていた。
いつも応援ありがとうございます!
うう、本業が忙しすぎてギリギリになってしまいました……。
間に合ってよかった……。
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