Link.88 紅い魔人⑥
このエタルドルの壁にて二箇所同時に起こった意思ある襲撃
そのうちの一つを聖花隊副隊長のワイズが担うのだった
◆
「───!?」
流星到達直後
エタンドルの壁内部の管制室にて
「花冠様!ただいま壁右方向に正体不明の反応が現れました!」
「それはわかるよ。だって──」
機械仕掛けのモニターに映るのはワイズが走り、中央から右側に移動していく様子だ
壁屋上の監視カメラからでも見えるほど高く立ち上る土煙
ある程度進んだところでワイズは土煙と睨み合っていた
「───僕でも、感じたことがない」
その発言に管制室はざわざわと憶測が飛び交い始める
しかし、アマリリスが注目するモニターは一つだけではなかった
「………厄介な」
「え?なっ………!?」
アマリリスの言葉と目線に、初めて部下は戦場にいるもう一人の存在に気がついた
どちらかに救援に向かう必要がある──迷いはしなかった
「セラノアちゃん、ギバーちゃん。君らに告ぐ」
壁からの放送が流れる
アマリリスの声は抑揚がなく極めて冷静だった
「『任せるよ』」
◆◆◆
「もー、結構ウットウシイね、そのバリア!」
「…………」
1分。
たったの1分
今、ワイズは腰を壁に預け、目の前には笑う魔人がいた
ワイズの少し後ろで霊体化しながら権能を発動し続けるエーデルに、彼は少し心を痛めていた
(怯えてる………無理もないよね。ごめんね)
「ん?───もしかして、ソコになにかいるのかなぁ」
「!?」
視線は向けていない
意識を向けただけだと言うのに勘付かれたとでも言うのだろうか
リリスは不思議そうに羽模様の権能に守られるワイズの後ろを見た
一見、手すりと花壇のあるただの屋上風景だ
しかし
(なにか、害する力があるんですか………!?)
その思考に至った瞬間ワイズはゾッとした
普通、霊体化した天使にはなんの影響も及ぼせないのだ
エーデルは幼い頃に契約したワイズの誕生性天使
その姿は幼い頃に思い描いた孤独を消すためのもの
ワイズが成長しても、固定されたその姿は変わらなかった
──故に心を痛め、罪悪感を負い、ずっと戦場では隠れさせていた
「あぁ確かに!ワタシの力の範囲に──へえ?ふふっ?」
「───!!」
ワイズは話を最後まで続けさせることなく岩撃でリリスを狙う
傷を負った肩からは、無理に動かそうとしたことで血がより流れていた
リリスはただ笑ってそれを軽く殴って壊して見せる
「大事なんだね」
「…………?」
「でも───」
ふと、少し寂しさが見えた気がした
笑っていたはずなのに、どこか虚無を感じた
呆気に取られるワイズだが、目の前の姿は後方にいるエーデルの目の前に一瞬で迫っていた
「そんなのじゃ守れるものも────!」
『守れるさ』
誤算があるとすれば、想像以上に速かったこと
誤算があるとすれば、リリスの実験は無駄だったこと
誤算があるとすれば、花冠は思ったよりも、部下を想っていたこと
「──だぁれ?」
『───セフィロトの樹『花冠』アマリリス』
最強の一角は、花びらを落とす場所を間違えない




