Link.1 残響都市①
◆
「貴女は救世主となるでしょう」
声の響く部屋で、白い光を浴びながら声が聞こえる
その声には、少しの後悔の重さと、諦めにも似た落ち着きがあった
「......兵器にするつもりはありません。どうかせめて──」
カチ、カチという金属音
そしてノイズがかかったような声。
ふと夢に出てきてはそのまま沈んでいく。
あぁ、はっきりと思い出せるのは──
燃え上がる、黒い……空
夢の中で少女は立ち止まる。
空虚な、何もない夢の中でただ立ち止まっていた
◆◆◆
「──なぁ?アマネくん」
周囲の喧騒に紛れ、自分に飛んできた声を感じて振り返る。
季節は春。
新しくこの学園──オーバーチュアー理想都市学園の2年生になった黒髪の男、アマネは声の主人を見て少し怯えつつも笑って返した
「ん?あ、そうだね」
「えー?なにがー?」
「えっ?あー……」
「ふはっ!何も言ってねえっての!人の話聞かねえやつだなぁ!」
「あ、あはは……っ……はは、ごめん」
名前も覚えていない同級生から、笑いながら背中を叩かれる。
それに対してアマネは痛みを堪えつつも笑って謝ることしかできなかった。
「しっかしほんといつまで『天使』いないんすかぁ?アマネセンパイ?……あははははははっ!」
別のクラスメイトがそう言って煽る。
同級生なのにセンパイと言うのはきっと2年生になったのにいまだに天使のいない生徒は自分だけだからだろう。
それに対してもアマネは何も言い返せずにいた
この世界では誰もが天使を呼ぶ。
天使と契約し、悪魔と戦う。
それが当たり前だった。
「ねえ見て見て、セフィロトの樹がまた戦線を押し上げたって」
「やっぱバケモンだなぁ」
「まあ俺らには関係ないか」
「あ、特に関係ないやつもいたな!あはははっ」
一人の女生徒が小さな機械を見てそう呟く。
それに他のクラスメイトが同調してアマネを見ていた
セフィロトの樹。天使との契約者、エンゲージたちのトップに立つ存在であり、たったの10人で構成される、都市国家"オラトリオ"の最高戦力だった
「はは……」
アマネは苦笑する。
その名前だけは、嫌でも知っていた。
この学園は天使を呼び、使い方を学ぶための場所。
その中で天使をまだ呼べていない彼は、いわゆる落ちこぼれだった
「そーだ!俺たちあの廃墟が気になるんだよねぇ」
「廃墟……?」
「そーそー!レミニセンスの廃墟。俺たち天使持ってるからさぁ?行けないんだよねぇ」
「おーねがい!アマネくぅん、写真とってきてくんね?あ!動画でな!」
レミニセンス。
オラトリオ以前、この地に存在したという滅びた国。
その廃都には天使と契約者だけを蝕む毒が今も残っている。
しかし、外に漏れることもないため放置されているいわば心霊スポットだった。
そう笑いながらクラスメイトの男が可愛くもない下品なおねだりでアマネにすり寄る。
その様子に他の数人のクラスメイトは汚く笑っていた
「ナイスアイデアじゃないか!いやぁアマネクン、いい悲鳴をお持ちだからなぁ?ぜひおもちゃに......あぁ!じゃ・な・く・て!頑張ってる様子を記念に保存しときたいんだよ」
「いやそれってただの黒歴──」
「──なんだ?文句でもあるのか?」
クラスメイトの男が一人半笑いでそう言ってくる。
身なりは派手でなんとも目に悪かった
「……いや、はは……」
「あぁ、もちろん危なくなったら動画だけは撮りながら帰れよ?死んだら俺たちが少し言われるんだからなぁ?ははははっ!」
断ればもっと面倒になる。
それくらいなら笑って流した方が楽だった。
そうしてモヤモヤしながらも、「お願い」は断れない。
放課後、アマネは一台の古いカメラを持たされ、その場所へ向かうことになってしまった。
◆◆◆
「……あぁ、なんで俺がこんなこと……」
正直言って怖い……!なんだよ!厄災で滅ぼされた国民の霊が今もいる、とかそんな変な噂流したやつ……!
内心愚痴りつつも、拒否する勇気のない自分に結局は呆れて笑うしかないアマネ
しばらく歩くと、柵の張られた広い廃れた都市のようなものが見えてきた
「……綺麗だけど逆に不気味だな……」
真っ白で、夜だというのに存在感を放つその都市は、廃墟群と言うには多少古くともまだ綺麗なものだった
視界の端から端まで埋め尽くすほどではない。
それでも、その白い都市は十分に巨大だった。
「ここで確か……録画したらいいんだよな」
今や誰もが持つ携帯機器、『リトルフォン』を起動し、録画を開始した。
そして特に監視もないその廃都の柵を登ると、アマネは少し怯えつつも中へと進んでいった




