二話 目的錯綜
―北東のピラニアン研究室というところ―
彼は悪魔だ。
自分の身勝手で人を山ほど殺してきた。
彼にもう自我はない、ただ人を殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し続けるのみ。
人の命などは当然考えず、尊ぼうとしない非道の極み。
逆らったものも逆らわなかったものも、老いも若いも男も女も関係なく、無慈悲に無差別に殺す。
人を殺さなければ頭がおかしくなるほど、自分まで殺してしまうほどの欲。
果たして、本当に人なのか⋯⋯。
分かる者は、この世で一人しか居ない。
「よ〜しよぉ〜し!いい子だいい子だ!よくぞ醜い人間を狩り殺してくれたね!人間悪魔、「マモン」君。」
「⋯」
異世界に住まう人間の、多種多様の憤怒から生み出された愚の塊として、数百年前に悪魔は生まれた。
その悪魔は人間に連れて行かれ、無理矢理に従者、飼犬として扱われていることが少なくない。
この人物も例外ではない。
現実世界には、七つの大罪という悪魔の集団なるものがあり、その七大悪魔の中に「マモン」という強欲の悪魔がいる。
それが、現実世界からこの世界になだれ込んでくる現象、「雪崩」によって現れてしまったのか。
はたまた自然に生み出されてしまったのか、数百年経った今でも、原因は未だ明らかになっていない。
その強欲の悪魔を従者としている者こそ、隆真の家を燃やし、家族を皆殺しにした張本人だ。
恨みがあったのか、妬みがあったのか、理由はこれから分かることだろう。
「いやぁ、でも昨日は本当愉快だったなぁ〜!!殆ど常識を知らない平凡でありながら幸せそうな家族をぶっ壊したんだから!!笑 残った人間は居たかもしんないけど、どんな顔してたか、一度見てみたかったなぁ〜。あの家族の残ってるやつは、恐らく次男か。丁度、そいつの友人とアイコンタクトを取れたから、いっちょ殺してみますか笑 ⋯可哀想?そんな感情俺が持ってると思ってんのか笑 買い被りすぎなんだよ観衆の面々よぉ!!慈悲をかけてやれねぇ可哀想なこの犬と同じで、俺も誰にも慈悲をかけてあげられねぇんだ。相手の悔しがる顔が見てぇ!それで心を満たしてぇ!!それだけさ!!」
悪辣な思考、手口で見知らぬ人の心をズタズタに引き裂いていく悪人。
その者と相まみえるのは、いつ頃になるのだろうか。
「よし、じゃあ俺は早速、逃げたやつの友人に会いに行ってくるから。留守頼んだぞ、マモン君。」
「⋯」
―一方、北東の街についた隆真達は―
「確か、ここを左に曲がって⋯、ここを右に曲がって⋯、こう行って、こう行って〜⋯」
「待って下さい隆真さん!早すぎますよ!!」
「そうよ隆真ちゃん!流石の私でも追いつけないわ⋯!」
「ちょっとは運動したらどうかな?」
「これでも運動してる方なんですけど〜?露ちゃん、失礼なことをいうのはあまり宜しくなくてよ?」
「お嬢様キャラかよ」
俺達は、爆発音が聞こえた北東に位置する町、ラーバントに来ていた。
理由は初任務だった、というのもあるが、その付近では俺の友人が住んでいた。
家族が殺されてから数時間は経っているものの、まだここに犯人はいるはず。
次に殺すとしたら、恐らく友人だ。
どこから俺の友人の情報を得たのか知らないが、絶対に殺させやしない⋯!!
「さっき僕達が担当したのは、ここら辺の魔力量に関する調査⋯だったよね?」
「正解だ。やっぱり頭冴えてんな露!」
「びびびびっくりしたっ⋯!!刺してやる遊雅」
「今そんなことしてる場合じゃねぇだろっ!いや、脅かしたのは悪かったけどよ⋯。」
「悪いと思ったらその体僕に差し出さんかいおんどりゃあ!!」
「おいおいそんなこと言って良いのかぁ〜?」
「静まれ青二才ども。」
「「ひっ!?」」
「はぁ、なんとか追いつきましたよ⋯、隆真さん早いですね。」
「そそそ、そうですね夏恋先輩⋯、(ビクビク)」
「恐らく今から向かう場所は、私と遊雅、傘さんと露さんが手分けして調査に当たったところですよね?」
「そうなのよ。恐らく見落としていた箇所があったのかもしれないけれど⋯、頑固な魔力封じが多い印象だったからね。それを調べ終わる時点でもう疲労困憊だったわよ⋯⋯。」
「私も周辺を遊雅と聞き込みしてみたんですが、有力な情報はなかなか見つからなくて⋯⋯。」
「厄介な事件に遭遇したわね、私達⋯。」
「そうですね、ほら行くぞ青二才ども。」
(補足)魔力封じとは⋯⋯文字通り魔力を封じる手法。
解放するには、魔法を使わないといけないが、大半の人間は魔法を使えない。
主に万引きした時や、人を殺したナイフがある時に、それらを隠すために使われる。
勿論、場合によっては人間やモンスター、悪魔も封じれる。一個では封じ切れないが。
暫く走っていると、異常な魔力の気迫に身体を襲われた。
まるで、荒波が目の前に押し押せてくるように。
「な、なんだこの魔力量⋯!感じたことない⋯⋯!」
数年前、お父さんと魔力の勉強をした時に、見せてくれた魔力の量は凄まじかった。
これを超える魔力を持つ人なんて、居ないと思ってたのに⋯⋯。
なかなか前に進めない⋯、くそっ!この先には大切な友人が居るっていうのに⋯!
「気迫押し!」
後ろから声がした。
美浦の声だ。
気迫押し⋯魔法の名前か?少しシンプルだが、その技のお陰で気迫が薄れた。
前に進める!
「隆真さん!一人で向かっては危険です!私達もいかせてください!!」
「良いのか?」
「勿論です!」
「それじゃあ頼んだ。」
「はいっ!」
俺と美浦は、沢山の魔力の気迫を抜け、一気に進んでいった。
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
「美浦もどっか行っちゃったし、まったく⋯。世話の焼ける後輩たちね!」
「世話が焼けるのは果たしてどっちなんだろうかぁ⋯、って、なんか物凄い量の魔力感じない⋯?威圧感ていうか、気迫っていうか、なんというか⋯。」
「そうね⋯。でも、傘ちゃん達はなんとしても私が守るわ!」
「おう、頼りないけど頼もしいなあ!」
「魔物でも来るんだろうか⋯、」
「その時になってみないとわかりませんよ。」
「ってか、リーダーは何処行ったの?」
「あ、あの変態野郎?あいつはどうせ役所の中でしょ。仕事しなきゃだし。」
「さてはサボったな⋯?リーダーとしての威厳も信頼もこれでダダ下がりよぉ。」
「間違いないですね。」
―――――――――
「ヘックション!か、風邪か⋯?」
―――――――――
「それより、この魔力量をどうにかしないと⋯」
「町の人が困っちゃいますね。」
「あぁもう面倒くさい!!」
「黙ってやれよ露!」
「わかってるよこの野郎」
「⋯だれだ、私の邪魔をする者は⋯!!」
「声⋯?」
「絶対魔物じゃん絶対魔物じゃん!!やだやだやだやだ面倒くさ〜い!!!!」
「落ち着けって⋯!!」
「邪魔?失礼だけど、貴方は誰?姿を見せなさい!見せないならこっちから行くわよ!!」
「威勢がいい女だな、長か?」
「違うわ、まぁ副長って感じね。」
「なるほどな。だが、こんなところに蠢いて何かを物色するとは、ここになにかあるとでも?」
「いや、そんなことはどうだって良いでしょ!姿を表しなさいって言ってんの!魔物のくせに前置きが長いわね⋯!!」
「なんだと⋯!?私を侮辱する気か!ならばいいだろう、相手をしてやる。」
「僕魔法使えないから援護頼む!」
「任せとけって!」
タッタッタッタッタッ、
「な、なにこいつ⋯。気持ち悪いんですけど!!」
「⋯っ、現れて数秒でそんなことを言われるとは、貴様ら見る目がないな。」
「も〜そんなことどうでもいいから早く攻撃しなさい!こっちは急いでるの!!」
「良いだろう、ならば小手調べからいこう。」
「来るわよ、気をつけてね⋯!」
「⋯裂!!」
「⋯!!」
♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦
「ほう、俺の居場所がわかったとは⋯、なかなかお前も良い目をしているな。」
「黙れ⋯、俺の大切な人を殺されて、こっちはもう余裕がねぇんだ。」
「友人はまだ生きているぞ?何をそんな睨みを効かせることがあるんだ?」
「お前が殺そうとしているからだろうが!」
「殺そうとしている?何を勘違いしているのか知らないが、俺はお前の友人を殺そうなどとは考えてないぞ?」
「どういうことだ⋯?じゃあ何故あいつの家に行ったらあいつは消えてたんだ!!」
「そりゃあ、仕事に行ったからとかじゃないのか?」
「あいつはそういう男じゃない!サボる男なんだ!!」
「あぁそう、そうなんだ。もう面倒くさいからお前も殺そっかな。」
「望むところだ⋯!」
「わ、私はどうすれば⋯」
「美浦は下がっていろ!俺は大丈夫だ、こいつに勝つ!」
「綺麗事吐くの上手だね笑 絶対成功しないくせに!笑 どうせ無様な顔して泣いて負けるくせに!笑」
「勝手に言ってろ、俺は覚悟を決めてるんだよ!」
「ダッサイけどまぁ、その覚悟は認めてやるよ。んじゃあこっちからいかせてもらうぞ!!」
そうして始まった、いきなりの任務でのバトル。
魔法術は使ったことはない。
使ったことがあるのは剣だけだ。
でも今は剣がないとかで喚いてる場合じゃない。
友人の命の危機だ。
相手は「友人はまだ生きている」と言っていたが、それはこれから殺す、ということに繋がる。
道中の魔力の気迫がこいつにどう関わっているかは知らないが、そんな細かいことは考えてられない。
俺は今この瞬間に、こいつを倒すって決めたんだ。
絶対に勝つ⋯、勝って家族の敵を討つ!
つづく




