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プロローグ 復讐から改心へ

 許さない⋯。


 「⋯⋯お、父さん⋯⋯⋯?」


 許さない⋯。


 「お母⋯、さん⋯⋯⋯?」


 許さない⋯⋯、


 「姉、ちゃん⋯⋯!おとう、と⋯⋯!」


 許さない⋯!


 「みんなぁっ⋯⋯!!」


 許さない⋯⋯!


 「く゛⋯っ゛、なんで⋯、なんでこうなった⋯?」

 

 許さない許さない許さない許さない⋯!!

 許゛さ゛な゛い゛っ゛!!!!


 絶対に許さない⋯、許したくない⋯⋯、許されることではない⋯⋯!

 当然だ。俺の大事な家族を、家を他人に殺され、燃やされ、壊されたんだから。

 犯行者は報いを受けるべきだ、そうに決まってる⋯、そうに違いない⋯、そうじゃないとおかしい⋯⋯!


 なのに、国の奴らは何にもしなかった。

 小さいことだと勘違いして、この出来事を軽視して俺を捨てた⋯、いや、俺だけじゃない。俺の家族自体を捨てたんだ。

 どうせ対処が面倒くさいからと難癖を付けたからなんだろうが、俺のような悔しい思いを味わってきた奴はきっと居る。

 それをもまったくわかってないように見て見ぬふりをする、対応を一切しない。

 本当に国の奴らはどうしようもなく利己主義で自己満、傲慢、狡猾な醜い連中だ。


 殺した奴のような非人道的な輩はどんな思考で動いているんだろう。

 一同そいつらの頭の中を見てみたい。

 頭の半分を割って切って、脳みそもすっからかんの空間の中も見て、隅々まで見尽くしてやりたい。

 そして、呪ってやりたい。

 貴様らにはもう良い来世は来ないぞと、叩き込んでやりたい。

 人の命は軽くなんか無い、重いんだと。

 家族を抹殺した恨みは恐ろしいぞ、と。

 貴様らが同じ目に遭ったら想像を絶するくらいの苦痛を味わうことになるんだぞ、と。

 いっそのことその痛みを貴様らに味あわせてやろうか?と。

 これでもかってくらいの絶望を、不安を、苦痛を、悲観を見せてやりたい。

 何度も死なせて苦しませてやりたい。

 咽び泣くまで嬲り殺してやりたい。

 骨の髄まで砕いて身体を貫くまでナイフを刺して地獄を見せてやりたい。

 死なないように苦しめば、殺すことを懇願してくるだろう。

 それ程に痛めつけたい。


 どんな事情があろうと、どんな感情を抱こうと、したことの罪の重みはもう計り知れない。

 それをわかっていないような蠅が集っているから、いつまで経ってもこの世は平和にならないんだ。

 これは国のせいでもある。責任を責任としない国が、物事を軽く見ている国の奴らが。


 もう、滅んじまえば良い。

 憎悪を抱く人間なんてこれから幾らでも増える、悪事を働く人間だって幾らでも増える。国がずっとこのままなら。

 だったら、いっそのこと滅んじまえ、王や国民諸共。

 家族を失うことに比べたら、そんなものどうだって良い。

 俺に関係のない存在なんだから。

 もうさ、他の国の奴ら、戦争仕掛けてくんねぇかなぁ⋯⋯

 全部がどうしようもなくムカつくから。

 戦争で吹き飛ばしてぶっ飛ばしてぶっ壊して更地にして、白紙に戻してくれよ。

 その方が良いだろ?またやり直せるんだから。


 誰か俺のこの怒りを沈めてくれよ、俺の言う通りに動いてくれよ。

 俺の味わった苦しみを肩代わりしてくれよ。

 俺を楽にさせてくれよ。

 俺を悲しませないでくれよ。

 そんなこと我儘だってわかってるけど⋯。

 せめて、俺を救ってほしかった。


 俺は心の底から落胆し、この命が消えることを願ってしまった。


 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦


 燃え尽きた家を見て、何を思ったか、中に入った。

 なにもない筈なのに、なにかに取り憑かれるようにキッチンだった場所に向かった。

 当然中は黒焦げだ、家や多種多様だった色鮮やかな家具の面影も無い。

 その場で俺が手にしたのは、ナイフだった。


 俺にはこれしか無い、この方法しかないと覚悟を決めた。

 そして俺には、それを止める自我も勇気もなかった。

 ズタボロで真っ暗、燃えていたからか外の陽の光も差し込んでくるような、殺風景過ぎるキッチンで。

 俺は、自殺を図った。


 手がビクビク震えて仕方がない。

 死にたくないとまだ心がどよめいている。

 だが、そんなのは邪魔に過ぎない。

 刃の角が俺の胸囲に近付く。

 その度に恐れや怯えが増える。

 それで自殺を止めるのは甘えだと自分に言い聞かせて、目を細めつつ刃を近付ける。

 少しずつ少しずつ、怖さを抑えて。

 楽になることだけを考えて。


 俺はなにも悪くないんだ、自殺することも悪いことじゃないんだ⋯。

 逆に楽になれるし死んだ家族に会えるし、いい事づくしだ。

 誰のためになれるわけでもない。

 自分のためになるわけでもない。

 ただ自分がちょっとだけ幸せなら、家族が幸せに思うなら。

 俺は喜んで死のうと思う。


 「誰か〜!誰かそこに居ますか〜!居たら返事して下さい!!」


 人の声がした。

 何だこんな時に。


 「誰だ?誰も呼んでないのに来るなよ。」


 思っても居ないことをぼそっと口に出した。

 本当は心の底では助けて欲しいって思ってるのに。


 「あれ⋯?誰も居ないのかな⋯?ちょっと中に入ってみよっと。」


 あぁもう、邪魔が入る⋯⋯。

 段々イライラし始めた。

 怒鳴ろうとする自分を正当化しつつ、声を上げた。


 「何なんださっきから!!うるさいんだが!!助けようとしてんなら帰ってくれ!!もうほっといてくれ!!俺を、独りにしてくれよ⋯⋯。」


 思わぬ怒鳴り声で驚いたのか、声が聞こえなくなった。

 少し、言い過ぎただろうか。


 「わ、悪い⋯言い過ぎた、言い過ぎたよ。ただ少し、人に見せられないような状況に陥っているんだ。だから思わず⋯⋯、ご、ごめんな⋯!!」


 すると、しばらく間を開けて。


 「大丈夫です⋯。人がいるなら、良かったです。無事なら、良かったです。」


 声色を落として、俺の元から去ろうとしている。

 姿は見えないが、俺を恐れて逃げようとしているのは確かだろう。

 怖がられることは、少なくなかったからな。

 顔も声も、強面の役人みたいだと、周りの子供に言われ、恐れられてた。

 その度に、こっそりと泣き崩れていた。

 そんな拙い思い出を、ふと思い出した。

 俺は今、悪いことをした。

 俺は悪い人だ。

 弱めていたナイフの握りを強くし、もう一度近付け、死のうとした。

 

 「も、もしかして⋯死のうとしてません⋯⋯?それはダメです!!やめて下さい!!」


 逃げていたと思っていたその人は、まだ近くにいたんだと、その声で気付いた。

 でも今更、どうすることも出来ない。

 死ぬことには恐れているが、確かに俺は死のうとしている。

 止められように求められない。

 心の声が「死ね」と言ってきている。

 身体がそれを受け入れて逆らおうとしないから、どうすることも出来ないんだ。


 「誰かはわからないが、ありがとう。そうやって言ってくれたのは、最初でも最期でもきっと、君が初めてだろう。だから、許してくれ⋯⋯!」


 泣きそうな声でそう言い放ち、ナイフを思いっ切り胸に刺そうとした。

 その時だった。


 「死なないでって言ってんでしょーが!!」


 今までの声とは違い、焦りと怒りが入り混じった真剣な声色で怒鳴ってきて、俺の前に現れたと思ったら、ナイフを俺から離そうと引っ張ってきた。

 死なれたら困るのか?いや、そんな極度に優しい人間なんて存在するはずがない。

 でも、この人は⋯、この女性は⋯⋯、すごく優しい。

 死なれたら嫌だと、困ると、行動で訴えてきているのだ。


 「ど、どうして俺なんかを⋯⋯!」

 「ほっとけ無いからですよ、死のうとしてる人をね!」

 「⋯⋯」


 俺は馬鹿なことをしていたのかもしれない。

 死こそが他人の迷惑だということに気づかず、自ら死んで責任から逃げようとしていたのだ。

 そんな俺が、一番馬鹿だ。


 家族を殺した奴をいつまでも憎んで恨んでも、その憎悪だけが残るだけで家族の魂は戻らない。

 自暴自棄になったって、全て関係ないと割り切ったって、その思考はきっと悪の思考に過ぎない。

 つまり、家族を殺した奴と同類になってしまう。

 それは絶対に嫌だ。


 ここで踏みとどまっておいて本当に良かった。

 今はただ、この女性に感謝するしかないな。

 俺は近くにそっとナイフを置いて、女性に目を向けた。


 「ありがとう。君が止めてくれたお陰で、少し落ち着いたよ。」

 「良かった、それだけで大丈夫です。それより⋯さっきは怒鳴っちゃって、本当にごめんなさい!」

 「いや、良いんだ。俺も君に怒鳴っちゃったから、お互い様だよ。」

 「あ、有難う御座います!」


 ♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦□♦


 ここから始まったのが、「殺人識別」という仕事だ。

 彼女が止めてくれなかったら、きっとその仕事だって生まれなかっただろうし、沢山の人でさえも救えなかった筈だ。

 まぁこの時点ではまだ、その発想には至っていないのだが。


 この後の惨劇でわかる。

 俺にとっては、家族抹殺に続く絶望。

 それをきっかけに始まる。

 罪人を許さない俺の物語が。


 つづく

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