11話 道のり
ガレス達を先頭に、俺達は再び歩き始めた。
もっとも、街道と呼べるほど立派な道じゃない。轍だけが辛うじて残る土道はところどころ崩れ、草が膝ほどの高さまで伸びている。
荷馬車は段差を拾うたびに大きく揺れ、積み荷の木箱が鈍い音を立てた。
辺境へ近付くにつれ、人の気配はますます薄くなる。
代わりに耳へ入ってくるのは、風が木々を揺らす音と、小川が岩へ当たる音ばかりだった。
ガレス達も最初ほど話さない。
戦闘で一人失い、一人は負傷した。
その現実は、村へ帰る足取りまで重くしているようだった。
「……その足で大丈夫か」
俺は負傷した男へ声を掛ける。
男は苦笑した。
「ミレアさんのお陰で、何とか歩けます」
「無理するな」
「止まってる方が怖ぇんですよ」
その一言へ、誰も返事をしなかった。
返せなかった、と言った方が近い。
止まっている間にも、村では何か起きるかもしれない。
そんな焦りを、全員が共有していた。
しばらく歩くと、ルードが足を止める。
「……まだ残ってたか」
視線の先には、崩れた石積みがあった。
半分以上は土へ埋もれている。
それでも、昔は見張り台だったことくらいは分かる。
ルードは石へそっと右手を置いた。
苔が生え、ひんやりと湿っていた。
「昔、ここで見張りしてた」
「子供の頃か?」
カイルが聞く。
「ああ」
ルードは懐かしそうに目を細める。
「村の連中が交代で立ってた。あの頃は獣避けが仕事でな」
少し笑う。
「盗賊なんて、ほとんどいなかった」
ガレスも石積みを見る。
崩れた壁へ指先で触れ、小さく息を吐いた。
「今じゃ誰も立たねぇ」
「人がいねぇから」
短いやり取りだった。
それだけで、村の現状は十分伝わる。
再び歩き始める。道はさらに細くなった。
左右の木々が迫り、枝葉が荷馬車の幌を擦る。
ギィ、と乾いた音が森へ響いた。
フィンの耳がぴくりと動く。
「……人」
小さな声だった。
全員が足を止める。
耳を澄ませると、森の奥から規則的な音が聞こえてきた。
カン。
カン。
木へ斧を入れる音だった。
やがて、薪を背負った老人が一人、森の奥から姿を現す。
腰は曲がっており、背中の薪も決して少なくない。斧は何度も柄を継ぎ直した跡があり、使い込まれていた。
老人は俺達を見るなり目を見開く。
「ガレスか!」
「爺さん!」
ガレスが駆け寄る。
老人は安心したように息を吐いた。
「戻ってこんから、またやられたかと思ったぞ」
「危なかった」
ガレスが苦く笑う。
「この人達が助けてくれた」
老人の視線がラグス達へ向く。
それから荷馬車を見て、最後にルードで止まった。
何度か瞬きを繰り返す。
信じられないものを見るような目だった。
「……ルード?」
ルードは照れ臭そうに頭を掻く。
「久しぶりだな、爺さん」
老人はすぐには返事をしなかった。
ゆっくり歩み寄り、ルードの右肩を力強く叩く。
「生きてたか」
それだけだった。
ルードも何も返さない。
小さく頷くだけだ。
ガレスがその様子を見て笑う。
「村の連中、腰抜かすぞ」
「その前に親父が泣くな」
別の男も笑った。さっきまで重苦しかった空気が、少しだけ和らぐ。
俺はその様子を眺めながら、小さく息を吐いた。
中央じゃ片腕の元傭兵、市場じゃ安く並べられていた男だ。
だが、この村では違う。
まだ村へ着いてもいない。
それなのに、帰ってきただけで人が笑う。
俺は手綱を軽く握り直した。
……やっぱり、価値は場所で変わる。
その考えは間違っていなかったらしい。
木々の向こうから、細く煙が立ち上っている。
コルネラは、もうすぐそこだった。




