表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
従者のお仕事【書籍化】  作者: こる.


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/108

100話 エピローグ:未来へ

 実家経由でその手紙を受け取ったのは彼女が日本に帰って、丸1年が過ぎた冬だった。




 びっくりするかな? と思いつつ、指定された日時に操駆そうくする。

 平日の日中なのでディーは仕事でいないけれど、彼女が来ることは伝えてある。


「”扉よ、楓のところへ繋がれ”」


 繋がった扉の向こうに、少しだけ大人びた楓が立っていて、わたしを見て目をぱちくりさせていた。


「え、え、ええぇぇぇぇぇ!!!!!」


 開口一番がそれですか?

 驚いてくれるとは思っていたけど、予想以上の良い反応に嬉しくなる。

 実家の家族にも緘口令を出していた甲斐があったってもんです。


「そのお腹!? 案の定というか! 案の定なんだけど! あぁぁぁもうっ! 現実的過ぎて、ショックだわ」


 そうして、いつぞやのように orz になりました。


「―――あの男のことだから、そうとなったら、手加減なんかするわけが無いと思ってはいたけどっ! こんなことなら、避妊具ゴムを山盛り渡しておくんだったわ…」

 言わんとすることはわかるけど。

避妊具ゴムがあったところで使わないと思うから、大丈夫だよ?」

 何が大丈夫なのかは不明ですが。

 orz になっている楓の傍に膝をついて慰める。

「……そうよね、使うわけないわよね、あの男が」

 やっと顔を上げた楓は、少し泣き笑いのような笑顔を浮かべた。


「あかちゃんおめでとう、良子」

「うん、ありがとう」


 臨月のお腹に負担にならないように、それでもぎゅっと抱きしめあった。




 繋げた扉を解除してから、台所のテーブルで2人お茶にする。

 お互いに近況報告をする。

 楓は無事に国立の医大に受かって、今は必死に勉学に勤しんでいるということだ。

「いくら勉強してもし足りないのよ…あーあ、睡眠とらなくてもへっちゃらな体が欲しいわー」

 どんだけ勉強が好きなんだ! と突っ込みたいけど、彼女の医への道はつぐないの道なので茶化さない。



 わたしの近況も伝える。

 妊娠が発覚したころ、ディーにより強制的に仕事を辞めさせられ王宮での仕事が無くなる。(理由はわたしが無茶をするからだといわれたけど、無茶をした覚えはない)


 魔法で家事はぽぽぽぽーんとできてしまうので、時間に余裕のある日中にこっそり自宅でクリーニング業を始める。

 短時間で綺麗に仕上げると評判になり…王様の耳に入る。

 なぜそこで、いきなり国のトップに話が入るのか非常に不思議なんですが、凄みの有る笑みに詮索不可能になりました、王様怖い。

 そうしてディーのお説教の後、クリーニングは泣く泣く廃業、お客様ごめんなさい。


 で、また暇になったので、今度は実家からお菓子のレシピを大量入荷して、日中に作りつづけているとその匂いに釣られて、休日でぶらぶらしていたイライアさんが我が家を訪問。

 その後、イライアさんが現在護衛しているという、末姫様ことリーチェをお忍びで連れてきて、感動の再会……とはならないものの(リーチェはわたしの事を忘れていたし、わたしも1回会っただけなのでよく覚えてなかった)

 ディーに内緒で、使ってない部屋を菓子の保存場所として、部屋の壁をガラス窓の戸棚をびっちりと設置し、部屋の中央にもガラスケースなディスプレイを設置して現状維持の魔法を掛け、大量のお菓子を保存してあるその部屋に2人を案内したら凄く気に入られて、王宮で隙を見ては我が家(むしろ菓子部屋)に通うようになったこと。

 むろんそれもディーにバレてお説教を貰ったけれど、リーチェとイライアさんの口添えもありお菓子の部屋の封鎖は免れた……王様にもバレて、全種類を1日で味見という暴挙をしていった、軽く吐きそうになってたけど自業自得だよね。


「――――そんなところかな?」

 と、近況を伝えたわたしに、楓は苦笑いをくれた。

 えぇぇ? なぜ苦笑い?


「平和そうで安心した」

 心底安堵したその言葉に、あぁそうだ! 楓に伝える大事なこと、思い出した!


「イストーラ、ちゃんと元気になっていってるよ。 この前もディーに内緒でイストーラに遊びに行ったら、町の人が今年は豊作だったって笑って教えてくれた。 イストーラの貴族もほとんどが解散して、政治も貴賎じゃなくて能力主義になってきたんだって。 イストーラの王様もやっと最近余暇よかができたって笑ってた。 これでまた、魔法の研究ができるって言ってたよ」


 楓の大きな目に見る見るうちに涙が盛り上がり、ぼろぼろと零れた。

 顔を両手で覆い、声にならない嗚咽を漏らす。


「……もう、笑顔になれたんだ…っ。 よか…った……よかったぁっ!!」


 うん、うん、良かった。

 楓が血にまみれて、たくさん傷ついて守ったものがちゃんと生きている。


 ちゃんと伝えられて、よか…っ、ん? っっつ……あ、あれ? なんかお腹が、張るような…突っ張るような……。

 んん……? これは、もしやー。


「あの、楓さん? 感激しているところ、本当に申し訳ないんですが…っ。 ちょっと、陣痛が始まったようなので、お産婆さん呼んで来てもらってもいい?」


「えっ? え? えぇぇぇぇぇぇ!!!!」





 お産婆さんの場所なんてわからないから、大慌てでディーのところへ扉をつなげた楓がディーを引っ張ってきて、なぜか一緒に居たバル隊長とアルさんそのうえ王様までついてきた、来んな!


 トータル8時間の激闘の末。


 お産婆さんと楓のお陰で無事に女の子を出産。

 楓に言われて、初乳をわが子に与えてから、お産婆さんに呼ばれて部屋に入ってきたディーに生まれたてでくにゃくにゃの赤ちゃんを渡す。

 これ以上無い程緊張した様子でわが子を抱くディー。


「名前、どうします?」

 腕の中のわが子から一時も目を離さないディーに声をかけると、少し躊躇った後。

「…リレイ、にしたいと思うのだが」

 やっとこっちを向いたディーが、そう提案した。


 リオウ+デュシュレイ


 メイドとして派遣された時、ディーが偽名としてわたしにつけてくれた大事な名前。










「リレイちゃん、どんどん可愛くなるわねぇ」

 春夏冬の長期休暇毎にこちらの世界に来る楓は、リレイを見て目を細める。

 リレイももう3歳でやんちゃ盛り。

 年子で生まれた下の弟達を可愛がりながらも、全力疾走の日々を送っている(比喩じゃなく、本当に走っている)…一体誰に似たんだろう?

「かーでちゃん! お花あげる!」

 庭でむしってきた花を、テーブルに載せるとまた走ってゆく。



 お昼寝に突入した息子達を、居間の隅に作った畳敷きの小上がりに敷いたごろ寝布団に寝かせて毛布をかける。


「楓、また、戦地に行くの?」

「ええ。 一人でも多く助けるには、一番効率がいいもの」

 茶化すように言ったが、それは間違いなく楓の本音。

 何度も危険な目に会いながらも、それでも彼女は行くのを止めない。

 戦争で負傷した人たちを、民間人、兵士、敵味方関係なく治療する。

 だから、狙われるのに……。



 楓は操駆し、繋げた扉をくぐり出て行った。

 振り向かない彼女の背中に、「いってらっしゃい」と声を掛ける。


 無事に帰っておいでね。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハイ。これも大変おもしろかったです。 「獣な彼女」の書籍は新本手に入らずで中古本を購入しました(作者様に印税が入らなくてもうしわけない・・あ、でもひょっとしてラノベって買い取りかしらん) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ