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情報屋shrineの人助け  作者: 目黄葉
第四章 
29/29

がんばってこい


 咲真の自己紹介に絆音が手をぱちぱち合わせたことで、他の者もそれに続く。


 その拍手が鳴り止む頃に咲真は一礼し、おずおずと座る。それを見て白木が嬉しそうに話し出す。


「これで、正真正銘、全員自己紹介が終わったな」


「それじゃあ白木さん、

 もうこれからの話をしても構いませんよね?」

「あぁ、訓練の話だろ?」


 白木がいつものようにニヤァ〜と意地が悪い笑みを浮かべる。


「さっきも、

 言ってましたけど、訓練って、何なんですか?」



 咲真の問いに今度は律翔が意地が悪そうで得意げな笑みを浮かべる。


「楽逸楽座(俺たち)が裏社会で通じる“技“を教えることだ」



「技?、ですか」


「そうだ。

 俺たちと共に仕事をするのならば、ある程度の“技“は

 覚えてもらわないと楽逸楽座(俺たち)も、君も困る」


「だから、訓練、ですか?」

「おう!


 これから、このビル、あの山、それらを使い、君を

 責任持って楽逸楽座が鍛えよう!」


「ありがとうございます!」



「咲真くん、捜査一課の方は、急ですまないが。

 一週間後あたりに人事異動になると思う。


 それまではいつも通り出勤しておいてくれ」


「わかりました」



「それと、申し訳ないが、班のメンバーにも何も言わず

 に異動しなければならないかもしれない」


「構いません。何せ公安、ですもん」


 そう笑う咲真の奥底では少し複雑なものが渦巻いていたが、咲真はそれを必死で見て見ぬ振りをした。



  *  *  *


 翌日、咲真は、一人暮らしのマンションの一室でスマホのアラームを疎ましげに思いながら身体を起こす。


 そして、スマホを開いて少しすると、盛大なため息をつきながらまた寝転がった。


「夢じゃ、なかった」


 そう言う咲真のスマホの画面は、今まで父方の祖父母と養父母ぐらいしかなかったメッセージアプリに“ていかーん“と書かれたものなど、たくさんの連絡先が増えていたからだ。


「あ、時間やば」



 咲真は用意を済ませ警視庁へ向かう。





 いつも通り、捜査一課の扉を開けようとするが、あることに気づき、重々しく呟く。


「あと数日で、水本班じゃ、なくなるのか」



 その言葉が咲真に重くのしかかる。







「いや、考えるな」



 咲真は、また、無理に目を逸らす。






 そして、いつも通りの笑顔を浮かべ扉を開ける手に力を入れる。


「おはようございます」


「おう、おはよう」

「おはよう、咲真くん」


 水本と、葵がいつも通り、返事をする。


「また、お二人が先に来ていたとは、早いですね」

「まあ、一応はな、」


 咲真が水本と話していると葵から声が掛かる。

「あ、咲真くん、ちょっとこっち来て」

「あ、はい」


 葵のデスクのほうへ向かうと葵はコソコソと話し始める。



「あれは、いつぐらいになりそうなの?」


 葵の顔は少し寂しそうだ。

 あれとは、まぁ、異動のことだろう。


「えっと、一週間後、と白木さんは言ってました」

「一週間後、か」

「はい。

 ところで、先輩は津城さんと何を話したんですか?」


「秘密」

 葵は少し元気を取り戻した顔でそう得意気に笑う。


「えー?」

「津城さん、お(・)楽(・)し(・)み(・)だって言ってたよ」


 お楽しみ、つまり散策するな、ということだろう。

「なら、仕方ないですね」


「おい、何の話してんだ?


 もう時間だぞ」

「「はい」」


 いつも通り、いつも通り、時間は進む。



  *  *  *


  咲真はうつ伏せになりながらスマホからなっているアラームを止める。


「あぁ、今日か」


 そう言う咲真の目の下にはあまり眠れないのかクマができていた。


 この日は公安に異動となる日、もう、咲真が楽逸楽座の幹部達と会って一週間が経った。





 今日、今日だ。



 もう、見て見ぬ振りはできない。


 咲真が後回しにしていた課題を見つめていたそんな時、プルルル、プルルル、プルルルと、咲真のスマホから無機質なコール音がなる。

「はい、谷川です」


 咲真はすぐにスマホをとる。先ほどの寝ぼけた顔はどこへ行ったのか、仕事の顔をしている。



「あ、朝にすみません。

 仕事の、と言えば語弊がありますね。

 事件の電話ではないですよ」

「つ、しろさん?」


 咲真の先ほどまであんなに真剣だった顔がゆるむ。

「はい、津城です。



 あなたに伝えたいことがありまして、


 こんなに、遅くなってしまったことをお詫びします。


 少々調(・)査(・)が長引いてしまいまして、



 結論から申し上げますと




 水本さんだけとはなりますが異動のことを直接


 言っても構いません」




 咲真は絆音の言葉を何度か噛み締めた後に、バッと立ち上がる。


「いいん、ですか?!」


「はい、先ほども言いましたが、調査の結果、



 他の方達にはまた別の形で知らせ、


 水本さんは、責任者ということもありますし私と白木

 さん立ち会いのもとではありますが、  




 直接お話しすることができます」




「そう、ですか、


 津城さん、本当にありがとうございます!」


 その時、咲真の顔に、心にずっと強張っていた何かが、綻んだ。










 咲真は、久しぶりに、清々しい気持ちになりながら捜査一課の扉を開ける。


「おはようございます!」

「あ、おはよー、咲真くん」

「ぉぅ」


 元気に手を振る葵と対照的に水本の声は小さく、しかも机に顔を突っ伏している。


「どうしたんですか?」


「谷川。お前、なんかしたか?」

 机に突っ伏した顔を持ち上げながらそう言う。


「え?何もしてないと思いますけど、


 本当にどうしたんですか?



 というか、下の名前で呼んで欲しいって言いませんで

 したっけ?」


「あ、悪い。


 ってか、やっぱお前に限ってそれはないよなぁ、、

 稲荷と白木さんから話があるから仕事後残れ

 って連絡来たんだよ。




 なぜか、谷、、咲真も一緒で」


「なんで、?稲荷って、情報屋shrineでしょう?


 あれ?そういえば、白木さんって誰ですか?」

 咲真は息をするように演技(ウソ)をする。


「あぁ、俺の元上司だよ。どっかに異動になったっきり

 音沙汰なかったんだが、最近、、あぁ、アレだ。


 南家の事件の時に協力者派遣するとかなんとか言って

 たのがその人だ」


「へぇ、、ってなんで俺も呼ばれてるんですか?」

「それがわかれば苦労しない。



 なんかしたかもしれんって理由で嫌なのもあるが、

 根本的に苦手なんだよあの上司、!」


「あはは」

 咲真は苦笑いしながら、未来の上司が現在の上司にとても苦手に思われていることに少々複雑な気持ちに陥る。


「なんで、苦手なんですか?」


 咲真の問いに水本は、渋々右上に目線を逸らしながら言う。

「それは、だな、あの人は、

 悪い人では絶対ないんだが、、


 とにかく物事を楽観的に捉えすぎるところがあって

 つくづく俺と馬が合わないんだよ」



 楽観的な白木と、真面目な水本。なるほど、合わないわけだ。


 白木に会うのがよほど嫌なのか陰湿な空気を出しながら盛大なため息をつく水本。


「どうしよう、?、、」


「知りません。


 さ、さ、もう切り替えましょ。

 もう少しで他のみんなも来ちゃいますし、」


 そんな暗い空気を葵はへでもないような明るい声を出す。


「ドライだな、、佐々木、、」


「まぁ、呼ばれてませんしね〜」



「水本さん、とりあえず頑張りましょうか」


 この部屋には葵と水本と咲真しかいないわけだが、咲真はきちんとしっかり面と向かって話したかったため、少し心が痛むが、水本には今日一日頑張ってもらうことにした。






 仕事後、二人は指定された会議室へ向かっていた。



 が、いつもしっかりとして頼りになる水本がナヨナヨしている。


「いやだなぁ、行きたくない」

「またぶつぶつと、ほら、早く行きますよ」

「咲真、よく平気でいられるな、、」


「まぁ、何もしてませんしね」


 咲真がそう言った後に水本が軽くため息をした後、沈黙が時間を食うが、それも少しの間で終わり、水本は重々しく呟く。



「なぁ、咲真。佐々木と仲良かったよな?」



「まあ、はい」



「今日の佐々木、変じゃなかったか?」

「え?」





「俺の気のせいだといいんだが、、


 何か、空元気出してる風に見えてな、」

「言われてみれば、?」



「だから、明日にでも話聞いてやってくれないか?」



 “明日“、水本が何気なく言った言葉に咲真は酷く、申し訳ない気持ちになる。


(ごめんなさい、多分僕に捜査一課の刑事としての、

 明日は)


 そして、ぶっきらぼうだが、部下をよく見て、色々と気配りをする水本に




 ずっと吐き続けてきた演技(ウソ)を、



 今から言う異動(こと)が




 どういうことかを自覚し、咲真の心にに罪悪感という名で、重くのしかかる。

「はい、、」


「…………」



「ここか、


 あ、開けるぞ、!

 準備はいいな?」


 腰を低くしてまるで闘いに行くかのような体制をとる水本に咲真は思わず笑みがこぼれる。


「そんな臨戦態勢みたいになります?」

「戦いだぞ?


 だってあの上司が、ここに」



「それは俺のことかな〜?水本ぉ〜?」

「ぎゃあ!」


「何もそんな悲鳴あげなくてもいいだろー?


 俺傷ついちゃ〜う」



「お久しぶり、です、白木さん」

「……おう、


 って、この前電話しただろうが〜!」


 水本の顔が青い。今にも青信号の青、つまり青を超えて緑へいきそうだ。


「ま、入ろうか。もう一人は来てるはずだ」



 そう白木の案内で咲真と水本は部屋は入る。



 そこには、白と赤の狐面を被った少女がいた。






 少女に見えるが二十七歳の絆音だ。


「あなたが、稲荷?」





「えぇ、お久しぶりですね、水本さん」



 そう言いながら狐面を外すと、やはり、絆音であった。





「……………………………白木さんと稲荷のペアで、

 そうじゃないかとは、薄々思ったけど、


 やっぱり、稲荷だったのか、



 津城」



 絆音の顔に表情は出ないがとても満足そうな声色で淡々と告げる。

「改めて、自己紹介を、


 私、情報屋を生業にしております。




 津城絆音です。


 本日は重要なお話があってこの場を設けさせていただ

 きました」


「重要な話?」


 目をスッと細める水本。


 その目を気にもせず白木が軽い口調でなんでもないように、ズバッと本題を言う。


「おお、単刀直入に言うとだな、


 谷川咲真くんを、ウチに引き抜きたい」




「なっ!

 …はぁ、…………詳しく、話していただけますね?



 そもそも私は、あなたの今の所属すら知りません」

 流石に予想していなかったのか一瞬取り乱すが、すぐに平静を取り戻す。


「なぁ〜、そのかしこまるのやめろよ〜?



 というか、俺はただの飾りだから、

 話すのは津城だ」


 飾り(それ)でいいのか、白木よ。



 


「そんなとこだろうとは思いましたが、、



 あなたは、直接、話したいのでは?」


 そこで、咲真は、ずっと堪えていた言葉を、絆音に、月麦に、葵に、教えてもらったことを、吐き出す。



「水本さん、すみません。

 嘘、ついて、ました。


 ちゃんと、説明させてください」


「別に謝らなくていい。


 俺はちゃんと聞こう」


 水本は慈悲深い、優しい貫禄のある笑みを浮かべながらしっかりとした声で咲真に語りかける。

 


  *  *  *




 話を聞いた後に、眉間の皺をほぐしながら水本はため息をつく。


「なるほどな、咲真も最近元気そうじゃなかったのは

 異動(それ)が理由だったか、、


 それに、佐々木も、そりゃ空元気にもなるか、、」


「すみません、」


「いや謝らなくていい、それにこっちも踏み込めなくて

 すまなかった。

 部下の出世は喜ぶところだが、、




 まさか、公安とは、しかも、白木さんの部下、か」



「ここまでは咲真さんが公安になる経緯などを


 話させていただきましたが、



 次は、これからのことについて話させていただきたい

 と思います」




 水本は“まだあるのか“とばかりに一瞬天を仰いだが、すぐに正面を向いて呟く。

「……わかった、」



「まず、部下の方たちには、うまく言っといてほしい

 のですが、構いませんか?」

「ああ、それは任せてくれ。

 なんとかなると思う」



「ありがとうございます。


 それでは、今後咲真さんには、あまり詳しくは言えま

 せんが、咲真さんにはこれから危ない目に遭う可能性

 があります。



 その時もし、頼った時のサポートをお願いできます

 か?」



「それも構わん。

 惜しみなく協力することを約束しよう」



「ありがとうございます。


 公安の、しかも白木さんの係となれば、準備が必要に

 なって参りますので、おそらく明日から咲真さんが

 捜査一課に顔を出せなくなるかもしれません。



 ………報告が遅くなってしまって本当にすみません」



「いや、明日からってのは驚いたが、準備ってのは


 咲真が傷つかないようにするためのものだろ?」


「まあ、そうですね」

「ならいい。なんとかしよう。


 津城、咲真のこと、頼んだぞ。



 それと、白木さん、」


「ぅえ?」

 自分に言葉の矛先が向くとは思っていなかったためなんとも間抜けな声が出る。



「よろしくお願いしますよ?」



「おう!任せろ!」


「咲真、短い間だったが、一緒に働けて良かった。



 公安になることを自分で選んだんだろ?


 自分で選んだんなら、しっかりやれよ」


「はい!


 こちらこそ、ありがとう、ございました!」



 寂しそうに笑う咲真と水本だが、どちらも清々しく、笑顔でお互いを見送ることを固く決意していた。




 谷川咲真。


 明日付けで、警視庁捜査一課水本班より、





 警視庁公安部提携組織監視係へ異動。






(さて、明日からの訓練、咲真さん頑張ってくださいね


 尋常じゃないほど、疲れるので)



(明日からの訓練、辛かったら頼れよ、って、後で


 言おう。羽藤の時も、、アレだったし)





 絆音と白木は咲真の異動に嬉しく思いながらも、これから待ち受ける数多くの災難を、、



 


 まず、明日から始まる訓練を無事に乗り越えること





 それを願わずにはいられなかった。









 





































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