失意のファーストコンタクト
小鳥達の囀りで魔王は目を覚ました。
これはいつもの習慣だ。
何故なら小鳥の鳴き声以外に朝、自分を起こしてくれる者などいないのだから。
もしも、街に住んでいたのなら人々が行き交う賑わいで目を覚ますのかもしれない。
だが、彼が住んでいるのは街の中ではなく森の中だ。
深い、深い森の中。
ここに人が訪れることなどほとんどない。
理由は単純明快だ。
人々はこの森を怖れて近づこうとしないのだから。
そんな森の中のちっぽけな木の小屋に魔王は住んでいる。
彼は自分の住むその小屋を多少の皮肉を込めて魔王城と呼んでいた。
深い森の中のちっぽけな魔王城、そこで彼は暮らしている。
「おはよう、テッド。ちょっと待ってて、今持ってくるから」
窓の側に止まっている小鳥に声をかけた。
何の意味もないのだろうが、小鳥はまるで返事をするかのように鳴き声を上げる。
棚から取り出したパンを細かく千切りながら魔王は微笑んだ。
それを木製の器に入れて、窓の側に置く。
「ほら、今日は多めだぞ」
小鳥がパンを啄むのを眺めながら、魔王は自分の食事の準備を始めた。
昨日摘んだ紅茶の茶葉を、金属でできた容器に入っている、小川から汲んできた水の中に入れて火で沸かす。
食事の用意をする分には魔法も便利だ。
と、言っても、街の方へ行けばもっと便利に火を使える道具もあるらしいのだが。
「今日こそお芋が取れるかな? 昨日見たときはあと少しって感じだったし」
ふと、窓の外の景色に目をやった時に彼は気づいた。
「森が、騒がしい?」
不審に思った魔王が外に出てみると、彼の畑のすぐ側に一人の人間の少女が倒れていた。
「人間っ!?」
驚いた彼は少女に駆け寄る。
その時、倒れている少女の体が動いた。
腕を掴まれ、バランスを失った魔王と少女の目が合う。
それは失意しか写っていない瞳だった。
この世に絶望しきった瞳だった。
少女の口が開く。
「あなたが、魔王?」
少女の問いに魔王は思わず目を逸らした。
だが、確かに答える。
「そうだよ。私が魔王だ」
その答えに少女は安堵したような溜め息をもらした。
「あなたには、私が見えるのね?」
その問いに魔王は疑問を持ったが、きちんと答える。
「もちろん、見えるよ」
「よかった。じゃあ、お願いがあるの」
少女の言葉はおかしい所が多かったが魔王にとってはそんなことどうだってよかった。
なんて言ったって、久しぶりの話相手なのだ。
「なんだい?」
だが、少女の口から出た言葉は魔王の想像を絶するものだった。
「私を殺して」
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