忘却のプロローグ
作風を変えてみました。
朝の日の淡い光が乾ききった大地を照らす。
枯れかけて、緑から茶へと変わりかけている草花の上で、少女はもう何度読んだか分からない一冊の本を眺めていた。
それは彼女が幼い頃に愛読していた本だ。
だが、少女は溜め息をつき、乱暴に本を投げ捨てた。
少女は赤く腫れた目を腕で覆い、呟く。
「何よ……こんなの世界のどこにもないじゃない」
地面に叩きつけられた本のしおり代わりの四つ葉のクローバーが挟んであったページが自然と開く。
そのページには挿絵の他に一行だけ言葉が綴られていた。
“そして、皆仲良く幸せに暮らしました”
風が吹き、しおり代わりの四つ葉のクローバーが宙を舞う。
だけど、水分を吸って重くなった本のページは動かない。
◇◆◇
魔王、男はそう呼ばれていた。
別に自分から名乗った覚えはない。
ただ、確かに男は魔王であった。
魔法を使う者の王、初めはそういった意味だった。
しかし、時が経ち、科学と呼ばれるものが誕生し、発達した今、魔法は廃れ、忘れられていった。
原因は単純だ。
科学の発展と共に人々は夢を、愛を、平穏を忘れ、妖精が死に、この世から魔力が消え去った。
そして、魔法を使える人間はいなくなったのだ。
ただ一人、魔法の王であった彼を除いて。
魔法がなくなった、いや、不要になった世界では、彼もまた不要であった。
人々は新たな社会に順応できない彼を最初は哀れんでいたが、やがて疎ましがり、最後は避けるようになった。
彼の周りには魔力を体内で生成できる動物のみが残り、いつしか彼は魔物の王といった意味で魔王と呼ばれるようになった。
もし、神様というものが存在するのなら、それはとても残酷なものに違いない。
彼は、魔法が人々の間から消えたその日から年をとらなくなった。
彼が望んだことではないのに。
死すら叶わぬ夢となった彼に、『永遠の孤独』という言葉が重くのしかかった。
それでも彼は信じ続ける。
いつか、きっと、昔のように皆が彼を受け入れてくれると。
世界は無情に回り続け、やがて男は一人の少女とで会う。
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