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繋がりの果て-堕ちた聖女と断たれた聖女-  作者: 寡猫


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1話:繋がりが切れる音は聞こえない

 繋がりが切れる音は聞こえない。

 誰かが消えても、世界は変わらず続いていく。


 ヴェストリア国の辺境にある、小さな村。

 その村から少し離れた場所に、ひっそりと小さな家が建っている。

 その家に、ひとりの少女がいた。


 少女は金色の髪を後ろでひとつに結んでいる。

 伏せた瞳は蒼く、細い肩は、少し触れただけで折れてしまいそうに見える。


 小さな家は貧しく見え、遠目には小屋と呼んだ方が近いかもしれない。

 それなのに、身なりだけは違い、破れも修繕した跡もない。

 小屋の出入り口には、刺繍の入った外套が掛けられている。


 そんな場所で、不釣り合いに見える少女。

 少女は椅子に座り、机に置いた本を黙々と読んでいる。


 時刻は昼くらいだろうか、扉が叩かれる音が響いた。


「……どうぞ」


 少女が言うと、扉が開く。


「ご飯持ってきたよ」


 村の子供の手には籠があり、パンがいくつか入っている。


「ありがとう」


 少女はそれを受け取ると、懐から小瓶を取り出す。

 それを子供に渡すと、本へと目線を戻す。


「何読んでるの?」


 子供は、机から頭だけを出すように覗き込む。


「……手記」


 少女は言いながら、子供の頭を撫でる。


「しゅきってなに?」


 子供の問いに答えようとした時、再び、扉を叩く音がする。

 開いたままの扉の隙間から、初老の女性が顔を覗かせる。

 少女とは違い、その服には、古い布で繕った跡が何箇所も目立つ。


 女性は少女の前に立つと、深く頭を下げる。

 頭を下げたまま、大きく息を吐いてから告げる。


「リゼリア様、隣国エストリアで聖女の覚醒が確認されました」


 女性の言葉を聞き、ページを捲ろうとしていた、リゼリアと呼ばれた少女の手が止まる。

 そして、本を閉じると、女性の方を向いてから口を開く。


「……そう。ようやくなのね」


 リゼリアはゆっくりと立ち上がると、窓際に歩み寄る。

 窓に手を当てると、どこか遠くを見つめながら言う。


「どちらに転ぶかしら」


 窓の向こうには、いつもと変わらない景色が広がっている。

 それでもリゼリアは、遠くを見つめていた。


「リゼリアお姉ちゃん、何かあったの?」


 子供も窓際に歩み寄ると、リゼリアの袖を掴む。

 リゼリアは、その手を、そっと包むように手を重ねる。

 そして、しゃがむと、子供に目線を合わせてから言う。


「これから先のことよ」


 リゼリアの言葉に、子供は首を傾げると、窓の外を見る。

 少しして、何かを見つけると、目を輝かせる。


「お母さん!」


 そう大声で言うと、駆け出していく。

 その姿を、リゼリアは目で追うと、目を細めて微笑む。


「子供はいいものね」


「そうでございますね」


 女性はリゼリアと共に、親子を見守りながら、そう言った。


 親子の姿が見えなくなるまで見送ると、リゼリアは静かに椅子へ戻る。


「詳しく聞いてもいいかしら?」


 リゼリアは手記へ手を伸ばしながら言うと、女性へと目線を送る。

 手にした手記を開くと、返事を待った。


「覚醒したのは誰かですね?村出身の女性だそうです」


 女性の言葉に、リゼリアは手記から手を離す。

 下を向くと、大きなため息をつく。


「本家は何してるのよ。本当にエストリアは……」


 リゼリアは言うと、手記を叩くように閉じる。


「まぁいいわ。私の役割は監視でしかないもの」


 そう言うと、リゼリアは手記を手に取り、立ち上がる。


「私が動く必要がないのなら、それでいいわ」


 リゼリアの目線の先には、子供が開けたままにした扉。

 ゆっくりと一歩だけ踏み出すと、足を止める。

 そして、振り返って女性に言う。


「私も少し、出てくるわ」


「村へ行くのですか?」


「丘まで行ってくるわ」


 リゼリアは、白い外套を羽織ると、外へと出る。

 日差しの強さに、リゼリアは思わず目を瞑ると、手で影を作る。


「最近、国が騒がしいですので、お気をつけて」


 女性はリゼリアの後ろに立つと、忠告する。

 リゼリアは横目で女性を見ると、小さく息を吐く。


「ヴェストリアが騒がしいのは、いつものことよ」


 リゼリアはそう言うと、村がある方向に目線を送る。

 しばらく見続けると、隣に広がる森を見る。

 その先には、石畳の階段がずっと高くまで続いている。


「……そうですね。いってらっしゃいませ」


 女性は言うと、深く頭を下げる。


「いつも大袈裟なのよ」


 呆れた様にリゼリアは言うと、階段へと向かって歩き出す。

 女性は頭を上げると、その後ろ姿を見送る。

 そして、リゼリアに聞こえないように、小さな声で漏らす。


「それでも、リゼリア様は唯一無二なのです」


 リゼリアは、足を止めることなく、階段を登っていく。

 長く伸びる階段の先は遠く、きっと気が滅入るだろう。

 それでも、リゼリアは黙々と登る。


 途中、柵の向こうに広がる村を見ると、村人たちの姿が目に入る。


 走り回る子供たち。

 畑仕事をしている人たち。

 煙が上がる煙突。


 それを見たリゼリアは、足を止める。


「私がいられるのは、あと何年かしら」


 ぽつりと漏れた言葉は、風に流されていく。


「どんな終わりを迎えるかな……怖い」


 小さく息を吐くと、再び階段を登り始める。


 登り切ると、そこは小さな広場が広がる。

 柵の向こう、エストリアがある方角には、遠くからでも見える、大きな樹がある。

 柵に近づくと、その大樹を見つめる。


 リゼリアは、手記を開くと、何かを書き記す。


 これは聖女の血を継ぐ少女の物語。

 分かたれた血筋が向かう先は、別々へと向かう。


 数年後、エストリア方面から確認された光が、世界を包む。


 それは、白から黒へ。

 光から闇へ。


 静かに世界は壊れていった。

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