4 . 集団から外れてしまう
いつの間にか縋り付く私を、抱きしめていた先輩だったが、生き残れるなら、セクハラ浮気野郎でも何にでも縋る。
私の脳裏に浮かぶのは、映画での拷問シーンである。
一撃で殺してほしいのに、あの殺人鬼は苦痛を与えるのを義務だと思っているようだった。
「防犯カメラに映らずに旧管理棟へ行く方法か…」
案内図をじっと見つめる先輩の思考が高速で駆け巡るのがわかる。
「テニスコート側から裏山に入れるな」
指を這わせながら語る。
「あのルートなら監視カメラはキャンプサイト正面のみ。死角になる」
さらに地図右端の湖畔遊歩道へ指を滑らせる。
「湖岸沿いに迂回すれば管理棟裏手へ出られる。そこから旧管理棟へ行けるはずだ」
その分析速度と的確さに思わず息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで、防犯カメラの位置がわかるですか?!」
「もちろん、下見してるからな」
泥棒の?
下見でカメラの位置の把握ってそんなに重要ポイント?
しかし今となっては、迷いのない先輩の言葉が頼もしい。
こ、これがリーダーとしての資質、圧倒的な頼れる男。
「さす先!かっこいい!そこに痺れる憧れる!」
これよこれ!これが金光先輩だよね!
浮気野郎とかじゃなく、私が憧れたのは、金光先輩のこういうかっこよさなんだよ!
「おいおい」
「やっぱり金光先輩は頼りになるぅ!ヒューヒュー!老若男女モテモテ男!」
「そんなことないけどな」
「謙遜しなくていいですよ!金光先輩はかっこよくて、頼りになって、頭もよくて、運動神経抜群で、世界で一番優しい光の陽キャなんです!女にはだらしないけど!」
「絢音、俺だって世界で一番絢音のこと…ん?最後なんだって?」
あとは問題の霧がキャンプ場を覆うまで、どれくらいかかるかが問題だ。
「湖はもう霧が立ち込めてたけど、今日は晴れてるから、霧が出るまで数時間はあるはず」
だから、殺人鬼が完全に動き回るまで猶予がある。
太陽はまだ高い。
「なあ、絢音?絢音は俺のこと」
「夕暮れ前に旧管理棟を確認して撤収しなきゃ。さっそくテニスコート側から旧管理棟へ行きましょう!…あ!」
私は美咲から着信があったことに気づく。
そういえば、何も言わずに金光先輩と行動してる。
他の人たちも心配するよね。
困った様子で携帯を見つめる私に、先輩も気付いたのか、少し考えて携帯を取り出した。
「おっ!山下!今絢音といるんだが、他の連中には薪集めしてると伝えてくれないか?…ああ、そういうことだ。悪いな、後で奢る」
金光先輩は電話を切りながら満足げに親指を立てた。
「山下に頼んでおいたから、怪しまれることはないだろう。俺たちが戻るまで上手く誤魔化してくれる」
私は安堵と罪悪感が入り混じる複雑な心境だった。
「すみません、金光先輩たちにも迷惑かけて」
「気にすんな!むしろ役割分担だ」
金光先輩はまるで冒険家のようにワクワクした表情だ。
「さあ行くぞ!まずはテニスコート横の裏山ルートから入る!」
キャンプサイトから離れると森の静寂が深まる。
鳥のさえずりだけが響く薄暗い小道を歩くと、森を抜けた先で道が二手に分かれていた。
「右側に獣道があるな。こっちの方が短いかもしれん」
「でも危険かも」
「大丈夫だ。野生動物の足跡は新しいし、人間の気配はない」
言うが早いか彼は躊躇なく獣道を突き進んだ。
しぇ、しぇんぱい!頼りになるぜ!
なんでそんな即決即断なの?
完全に私と頭の出来が違いすぎる。
頼もしい背中を追いかけるとやがて湖畔の小道に出た。
「あ!」
遠くにかすかな霧が漂い始めていた。
「時間がない!急ぎましょう」
→【右に行く】
【左に行く】




