番外6. 春夏秋冬
春。郷の麓に梅が香り、次第に桜も色を付けて来た。この里は春霞の言葉が良く似合うのだと発見して小春と喜ぶ。
最近の俺の部屋はもう集会所の体をなしている。今日もアパートの皆で豚しゃぶを楽しみ終わって、一息入れたところだ。おもむろに森津木さんが予定伺いを切り出した。
「皆。今週の土曜の予定って空いているかな。天狗族のカケイに花見に誘ってもらって。良ければ皆もどうかなと、思ったのだけど」
「すみません。俺と小春は次の土曜、コダマさんの山に花見に誘われていて、既に返事しているんです。俺たちも、今日皆に声を掛けようとしていて」
「え。岩木君たち土曜先約有るのか。鬼族でも桜の宴をするから、招こうとおもっていたのだけど」
見事なブッキングである。俺たちは互いに顔を見合わせてから笑い出した。
「郷が花見一色だ」
「それなら岩木も皆も一緒に花見のご馳走作ろうよ。金曜の夜から用意するから、朱さんと基君は土曜の朝から参加しない?きっとそれぞれの花見の先で喜んでくれると思う。
どうかな。これも一つ変わった花見の思い出になると思うのだけれど」
森津木さんの提案にすぐに乗る。
「いいですね。花より団子と言いますし」
「団子なら、俺作れるよ!前日に作ると固くなるから、当日の朝に作るな」
「他は何作ろうか」
「あの。俺、花見の弁当作る気で、何品かに目星付けているんです。俺の場合人数が少ない予定なので、大人数の宴会などには不似合いかもしれませんが、レシピ見て見ませんか」
花見当日。それぞれにお重なり、弁当なりを持って出かける。
俺は肩からかけたトートの中に水筒やひざ掛け、小春用の食器など要領限界まで入れてある。手には大きめの紙袋。中には新しく買ったお重に敷き詰めた料理とバスケットに入った甘味と間食が有る。大荷物だ。
待ち合わせは管理舎前。午前十一時。十分前には着いたのに、俺と小春が最後だった。
「岩木君!凄い荷物だね。迎えに行けば良かったかな」
すぐにコダマさんが駆けだしてきてくれて、紙袋を持ってくれる。
「うわ、重い。キョウコク、持って」
「おう」
遠慮なく持ってもらう。なにせこれから少し山登りのはず。コダマさんの縄張りの山って聞いたけれど、どこだろう。
「よし、皆揃ったな。じゃあ、乗ってくれー」
ツバメの掛け声とともに雲が出てくる。何か、見覚え有るなこの雲。コダマさんがキョウコクさんに引っ付く。山登りは歩かないで済むようだ。
「僕だけだと、この雲乗れないからね」
コダマさんが教えてくれる。どうやらこの雲に乗るには何かコツが有るみたいだ。
「そうなんですか。俺は乗れるかな」
「お兄ちゃん。乗ってみよう。私も補助に入るから」
俺以外は全員雲の上に乗る。恐る恐る足を乗り上げると、ズポッと通り抜けた。
「ごめん。お兄ちゃん。荷物をツバメお兄ちゃんに持ってもらって、キョウコクお兄ちゃんに抱えてもらおう」
仕方ない。ちなみに既に俺は、抱えられることへの抵抗感は一切ない。一昨年から無かった。何せ死ぬか生きるかだったのだ。そんな些事、真っ先に投げ捨てた。
「え。俺が抱えても良いけど」
ツバメが不思議そうに言うが、小春に直ぐに窘められる。
「ツバメお兄ちゃん。ここにはセンジュお姉ちゃんもいるの。いい?ツバメお兄ちゃんが抱えるのはセンジュお姉ちゃん。
たとえセンジュお姉ちゃんが雲に乗れても、せめて隣に座るとか。間違っても目の前で他人を抱えるのは良くないの」
ツバメは不思議そうにセンジュさんに向いて聞く。
「そういうもんか?センジュ、抱えるか?」
だから、残念なんだよツバメ。ツバメがセンジュさんにデコピンされている横で俺はさっさとキョウコクさんに抱えてもらった。
今日の弁当は本当に豪華に仕上がったのだ。きっと楽しい一日になるに違いない。
夏。郷の夏は現世より大分涼しい。これもアスファルトの道が殆ど無く、緑が多いからだろう。とくに、早朝に森津木さんが水撒きをするので、午前中はそれなりに快適に過ごせる。
だが、この郷では俺にとっての致命的な弱点が有った。
夏といえばアイス。手ごろなカロリー補給。そのアイスが売られていないのだ。
考えればわかることだが、冷凍庫が使えるのは迷い人だけで。じゃあ、妖力で氷室なりなんなり作ればいいのだが、氷室を作れるものは自分の力で涼める。自分の力で涼めない者はアイスを保管できない。道理だ。
冷凍食品は取り扱いが有るからてっきりアイスもあるものだと思っていたのに。チトセ曰く、冷凍食品は購入したらすぐに食べていると思う、とのこと。なるほど。俺の考えが甘かった。
さて。俺が雁木玉に入れて反則的に持ち込んだ荷物の中にクーラーボックスが有る。冬は外に置いて第二の冷蔵庫になり、夏はそれこそ本来の目的で使われる。
「どうだ、小春。美味しいか?」
「あいっ」
小春が食べているのはバニラアイスだ。俺の冷凍庫に入っていた食材を基の冷凍庫に移させてもらって、一昨日から大量に作り始めたものがやっと完成したのだ。
大きいタッパー四つ。一つだけ自分たち用に冷凍庫に戻して、残りは保冷剤を敷き詰めて凍らしたペットボトルも入れているクーラーボックスに入れる。クーラーボックスを開けるとヒンヤリとした空気が流れて来たので大丈夫だろう。
バスケットには他の準備が整っている。小さめの浅い紙コップや紙のスプーン。上から少しかけても良いかなと、小さなブランデーの瓶もある。昨日焼いたクラッカーは細長い形にして、一枚添える予定だ。
時刻は午前十時。アイスを差し入れるには丁度良い時刻だ。先ずはアイスの良さを分かってもらうため真っ先にチトセに差し入れる。これで取り扱ってくれるようになれば万々歳だ。今はまだ良いが、八月、九月と暑い日々が続く。アイスが気軽に買いたい。その一念だ。俺は勇み足で出かけた。
商店街ではチトセ、シロさん、運良く起きていたカラクリさんに渡して回り、管理舎に行く。二階に上がり、舎長と銀さん、フミツキさんと渡し、ツクロイさん、薬屋さん。売店のお姉さん。皆好評だが、俺が思っていた反応と少し違う。ううん。
受け付けは染谷さんが居たので、渡してみると受け取ってくれた。最後に事務室だ。
「今日はー。岩木です。差し入れ持ってきたので、一休みどうですか」
入って声を掛ければすぐにツバメとコダマさんが来てくれた。
「差し入れ?何?初めてだね。岩木君が休憩を促してくるの」
「大荷物だな。何の差し入れだ?」
「アイスです。えっと、氷菓子?すぐに溶けちゃうから、手を止めて食べなくちゃいけないので、希望者で、手を止められる人だけでも、どうかなと思って」
「氷菓子!わあ。嬉しい。食べる」
「氷菓子?私も食べたいわ」
センジュさんも寄ってきてくれたのでここで出していいか許可を貰う。
先に紙コップとスプーン、クラッカーにブランデーを出す。コップにアイスを盛って素早くスプーンとクラッカーを刺して渡す。クラッカーはもち手の部分に紙を巻いてきた。
「こっちはブランデー。異国の酒です。少しだけアイスにかけると良いかなと思って。試したい人は自分でかけてください」
「うん、冷たくて甘くて美味しい。甘過ぎるのが苦手なら、お酒かけたら食べやすいかも」
コダマさんの感想を聞いて、他の事務員も興味が有るのか寄ってくる。ツバメは大盛にしたので黙々と食べているが、ペースが速いので多分お代わりもするのだろう。
来た人に次々と渡していたらあっという間にアイスは品切れだ。皆喜んでくれたようで何より。
「ね、岩木君。このアイス、夏の間にまた作ってほしい。ね、ね、お願いだよ」
コダマさんの言葉に他の事務員も一斉に頷く。ううん。ここでも何か違うんだよな。次もまた作って。になるのだ。俺は「約束はできませんが、気が向いて機会が有れば」と返事をして事務室を後にした。
帰り道。七月の午前中だというのに、空には立派な入道雲がある。空は高く、青く。蝉の声に包まれながら、住宅街を歩く。
「なあ、小春。俺の予定では、「アイスって美味しい。食料品店で買えたらいいのに」に持って行くつもりだったんだが、皆、買う気は無くて「また作って」になるのは、なんでだろうな」
「最初が供物のアイスだもの。そういうものって刷り込まれるんじゃないかなぁ」
小春の苦笑が小さく、風鈴の音色に重なった。
秋。実りの秋だ。森津木さんと干し椎茸を筆頭に保存食に色々手を出して、この一週間で雑貨屋のシリカゲルは全て買い漁り使い切った。
紅葉狩りよりきのこ狩り。食い気に邁進する俺たちに、ある日、舎長から青天の霹靂の話が持ちかけられた。
「引っ越し?」
「そうだ。通常迷い人はアパートか寮か選べるだろう?だが今はもうアパートは一杯で寮の五部屋だけ。五人以上来たら、収容人数を超える。
前回が七人。その前が五人。お前たちはずっとこの郷にいるだろう?それならいっそ、新しく居を構えてはどうかと思ってな。
ああ、そう難しい顔をするな。家はこちらで用意する。だが、朱や基は鬼族の御殿に行くかもしれん。小鳥だって離れが有るんだろう?森津木も各方面が引き抜きに来るだろう。岩木は、あー。何だ、一人になって行くところが無ければダイのが引き取っても良いと言っていたし、事務員からも引き留める輩が出てくるだろう。
お主たちがまた今のような暮らしをしたいなら、鬼族がアパートを立派に他所に建てると言っている。今なら建てる家にも注文が付けられる。例えば寮のようにとかな。ちょっと皆で話し合って年末までに答えを聞かせてくれ」
年末までということは、今年の迷い人は寮一択になるのだろう。期限は年末。
早速その夜から、俺たちは話し合いを始めた。
「私と基は、岩木君と離れたくないから、一緒の所に住みたいのだけど」
「済まんな。食事を今まで通り融通して欲しいのだ」
二人は開口一番そう宣言した。
「ああ。そうだよな。食事の必要が有るから、俺がダイジョウの世話になるのも無しだな」
何せ、ダイジョウとは郷に帰ってきてから逢っていないし、ダイジョウの屋敷に世話になると、自力で地上に降りられないから皆と会えなくなってしまう。
「うーん。正直、面倒くさいことになったね。明日からカケイとか五月蠅そうだ」
森津木さんがため息をつきながら零す。
「俺、皆と一緒が良い。新しいアパート建ててもらおうよ。な」
小鳥少年が必死に言い繕う。
「私は。お兄ちゃんと一緒。それは譲らない。それだけ。お兄ちゃんが皆と一緒にいるなら、私も一緒」
「俺としては、新しい建物を用意してもらって、この六人で一緒に住みたい」
森津木さんと小鳥少年が即座に頷く。朱さんと基も「岩木君と一緒ならそれで構わない」と頷いた。
「なら、土地の希望は聞いてくれるのかを明日、僕が確認してくる」
「それなら、平地が良いと思う。山が近いと虫も多いし蛇も多い。風が通りやすい平地が良い」
朱さんが平地を押してくる。
「川沿いは湿気が有るから、やっぱりこの辺が良いんじゃないか。十字路の管理舎とは反対側の道なら、空き地が多いだろう?頼みやすい」
基が提案をすると皆が頷いた。
「分かった。じゃあ、明日希望地として十字路の西側を候補に伝えてくるよ」
「建物の部屋、別々が良い。俺、部屋で仕事しているから、夜遅くに食事することもあるし、兄ちゃんたちはよく料理をするから、台所は喧嘩にならないように別々にした方が無難だと思う。
今思いつくだけでも、希望を書き出してみようぜ。こういうのって、早い方が意見の擦り合わせをしやすいって、いつも痴話げんかしてる兄ちゃんが言ってた」
それから、少し俺たちの周りが騒がしくなった。朱さんと基と小鳥少年は鬼族から、熱烈なアプローチを受けている。俺も炊飯係として銀さんに誘われはしたが、一度だけだ。
森津木さんの所は案の定、カケイさんが通い詰め、他にも見たことのない人たちが説得をしているようだった。
俺はなんと、コダマさんが声を掛けてくれた。縄張りの山とは別に、川沿いに広がる田んぼの中に家が有るらしい。それを丁重に断ると「困ったらいつでもおいで」と笑って流してくれる大人の余裕!見た目が今は中学生くらいだけど、そのギャップに家に戻ってから小春と「コダマさんは凄い」と言い合ったくらいだ。
結局、鬼族の助六さんがあっという間に立派な家を完成寸前まで建ててくれた。何故寸前かというと、配線の問題が有るからだ。迷い人の家を建てるに際して、一番苦労をするのはカラクリさんだ。水石、電石、火石で家電や風呂が全て使えるように配線を張り巡らせていく。この作業が、カラクリさんしかできないので、どうしても過労になってしまう。
俺たちに出来ることは差し入れくらいなので、せめてそれだけはキッチリさせてもらった。
「このお金、郷から出るんですよね。どう返していきましょうか」
恒例になった、晩御飯の後の相談会で、代金について切り出す。秋の夜長の借金相談。鈴虫の音をBGMに、毎夜開催されている。
「鬼族は対価を求めないそうだ。なんせ私たちが住むからね。むしろ、いかに立派に作るか鬼族の沽券に関わると言っている位だ。茨木も、当然と頷いていたので、悪いが黙って受け取ってくれ」
俺の疑問にすぐさま朱さんが答える。
「そうだな。あの勢いなら、材料費も受け取らないだろう。土地も、誰の物でもなかったらしいし。絡繰り屋には相応の礼が管理舎から払われる。管理舎に収めるなら、絡繰り屋に支払った報酬分と家財費用だな」
「家電は持って行けないから新しく買わないといけない。それも用意してくれるというから、多く見積もって三千万くらい見ておこうか。家電は、僕らが使えるように一部はカラクリさんの手が入るのと、運送費用を考えると少なくとも倍の値段はするからねぇ。月々いくら返していこうか」
「支払総額を茨木に聞いておこう」
「森兄ちゃん。月に一人一万ずつにしない?俺、それ位が精いっぱいだよ」
「小鳥は五千で良いと思うよ。僕らは月一万か二万でどうかな」
俺は、バイトの月収が平均二十万ある。管理舎から貰う支給金の五万までなら、なんとかなるだろう。
「私たちは月一万でお願いしたい。鬼の方に行くから、バイトは余りできてない」
「そうだな。何か、稼ぎを考えないといけないな」
「うん。分かった。じゃあ、僕たちは月一万。小鳥は五千で毎月管理舎に収めていこう。
支給金を受け取るときに代表で僕が収めるで良いかな」
「月に四万五千か。えっと、三千万と仮定して、返し終わるまでどれくらい?」
「約五十六年。詳しい数字は聞いてみないと分からないけど、気長に返していこう」
冬。畑に霜が張るようになった十一月。
俺たちは何と一か月で、新居に引っ越していた。カラクリさん曰く、「もう慣れたもんでさぁ」らしい。鬼族の助六さんを筆頭にした大工さんたちは、通常三日で建てられるそうだ。別世界である。
そんなこんなで、アパートに余分にあるカーペット類などの家具は持って行って良いとお達しがでたので遠慮なく使わせてもらっている。
家電製品は訳あり品を仕入れて一部はカラクリさんが改造したものを収めてくれた。そして俺と森津木さんの冷蔵庫が家族用の大きなものを充ててくれていた。大感謝である。
家電全般、今までの物よりグレードアップしているが、付き合い筋から型落ちと展示落ちの物を融通してもらったとのことで、家電の殆どが格安仕入れだそうだ。だが、人件費は相応にかかっているから、決して安くは無い。
そして何と言っても、家である。それはもう大層立派な二階建ての庭付き家が建っていた。
各部屋の広さはアパートとさして変わらない。だが、各部屋を繋ぐのは廊下だ。外に出なくても、各部屋に出入りできるようになっている。
いわゆる寮のグレートアップバージョンだ。各部屋に台所もついた寮。そして一階には倉庫も作られている。助六さん曰く、外にあるのが普通の倉庫。室内にあるのが食料品倉庫。少し圧力を感じたのは俺だけではないと信じている。
二階には多目的に使えそうな空間も有る。どの部屋にも属さない空間だ。運動不足のときはここで体操でもしろということかなと森津木さんと話していると、小鳥少年が笑顔で否定した。
「違うと思うぜ。だってこの空間、森兄ちゃんと岩兄ちゃんの部屋の扉に面しているだろ?
大量に料理をするときはドアを開け放って、ここで、練り物なり、皆で作れってことじゃない?だってあそこに水道が有る」
わあ。なるほど。森津木さんと顔を見合い、少しして皆で苦笑した。
「それも、楽しそうだね、お兄ちゃん」
「そうだな。それなら、この空間に蓋つきのゴミ箱設置しないとな」
「なら僕は、折りたためる作業台を強く推しておこうかな」
俺たちに返せるものは少しでも返していく。つまり、舎長から何か言われる前に、迷い人が来る前、十一月の中旬にはアパートの掃除に全員で戻った。いつでも入れるように、二号室以外を軽く掃除していく。
「僕は迷い人の案内人を今年も請け負う気でいるけれど、岩木はどうする?
本当は案内人をするには、滞在年数が足りないけれど、岩木暗記が得意だろう。
案内するだけなら、困らないと思う。まあ、後で絡まれることはあると思うけれど」
二つ返事で引き受ける。森津木さんから舎長に話が通り、俺は案内人をすることになる。
十二月。年の瀬は何かと忙しい。
一月前にした迷い人の案内は、なるほど。かなり精神的にしんどかった。でも、来年も立候補するつもりだ。何せ、この家と家電の利子は払ってない。別の形で返さないといけないのだ。
今年の餅は去年の二倍の量を用意した。庭にきちんと釜が有るあたり、鬼族の人も楽しみにしているのだろう。
早朝から始め、やっと昼に収めに行けたころには森津木さんと俺の腕と腰はすでに限界だった。鬼族や天狗族の分を取置いて、残りを管理舎に持って行く。その日は流石に動けずに、小鳥少年とカエデさんが市に買い出しに行ってくれていた。
今日一日休んだら、明日から森津木さんと御節を作る算段になっている。鬼の宴に呼ばれるだろうと見越して、手土産を今から仕込むのだ。俺は単純にあの二人に持たす御節が必要というのもある。
最近やっと、朱さんの隈が取れ始めた。げっそりしていた頬もふっくらとはしないまでも少しこけているくらいになったし、顔色も今は白くて具合悪そう程度になって来た。これは皆で喜んでいることの一つだ。
忙しい年末が過ぎていく。外は強い風が吹いているが、この家はアパートよりもしっかりしているので、そこまで風の音が気にならない。
いつものように、森津木さんと小鳥少年と小春と、まったりと蜜柑を剥いて、談笑をする大晦日の夜。
「今年ももう終わりだね。蕎麦も食べたし、良い年末だった」
「森兄ちゃんって食べる量はそこまでじゃないけど、食に対する執着は凄いよね」
「誉め言葉だね、ありがとう」
「そういえば、海神様(分霊)今年一年で大分大きくなったね。最初は小春よりも小さかったのに、今は同じくらいだ」
「海神様も安定してきたから。この部屋もだいぶ慣れてくれたよ。石を置く場所も気に入ったみたいだし」
「キッコウ柊も、そろそろ株分けしてあげたら?広間にでも置いたらいいよ。年明けにシロさんの所に行って鉢植え探してみたら」
「はい。そうします。あ、あと少しで年明けですね。森津木さん、小鳥少年今年もお世話になりました。小春も、有難うな」
「あい。お兄ちゃん。森津木さんと小鳥お兄ちゃんも。今年は忙しくて、でも楽しかったね。夢のような巡りをありがとう。また、来年もどうぞよろしくね」
これにて番外編終了です。お付き合いいただきまして有難うございました。




