11.買い出し
今回の買い出しは一番移動距離が短くなるように森津木さんにお願いした。既に今日は結構疲れている。後の事を考えても早めに帰りたい。
早歩きで管理舎前まで戻り、管理舎から5分も歩けば、そこからが商店街だ。商店街を突っ切り、朱い橋が見えてきたらその下が川になる。橋までが商店街で、橋から三件目の服屋に入る。
「ごめんください」
この郷では、必ず店に入ったら声を掛けなければならない。声を掛けない者は泥棒とみなされるらしい。
「はい、いらっしゃい。今日は何をお探しで」
猿の面をつけた一見小さい男性が出てきた。
背が曲がっているというよりは前傾姿勢で、無理やり体を小さく見せようとしているかのようだ。背中が不自然に厚くぼこぼこしているのも気になる。猿の面も相まって不気味で仕方がない。さっさと用を済ませてしまおう。
「靴下のセットと部屋の中で羽織る半纏のようなものを探してるのですが」
「靴下の纏め売りなら、そこのワゴン、羽織はそうですなぁ、半纏なら丁度特価がありますよ。ワゴンの奥ですね」
「見せてもらってもいいですか?」
「どうぞご存分に」
ワゴンにはセットの靴下が山とあった。
管理舎の人たちは履くだろうし。需要はあるのだろう。三足千円。無難に黒の靴下だな。
靴下は手に取らず、袢纏コーナーにくる。特価分は地味な色ばかりだが、個人的には問題ない。深緑の半纏を手に取ってみる。
「羽織ってみても構いませんか」
「もちろんどうぞ」
森津木さんに鞄を持ってもらって羽織る。うん、こんなもんか。
羽織は特価で千五百円。すぐに脱いで羽織と靴下のセットを二セット、男性の所に持って行き、「これ下さい」と伝えた。
その場で会計をして商品を受け取る。流石に半纏は嵩張っていて紙袋が膨れているのでこれからの必需品の買い出しが心配になる。持ちきれる分量にしないと。お礼を言って服屋を出た。服屋の所要時間五分弱。
「即決、即行だったね」
森津木さんが苦笑している。
「駄目でしたか」
「いや、待たされるのが嫌いな者は多い。店に関していえば問題ないだろう。
じゃ次はここ。雑貨屋だから、生活雑貨を買いに行こう」
服屋の斜め向かいの建物に入る。
買うものはシャンプーとコンディショナーと洗剤だ。売店のセットの中の洗髪料は試供品なのでお試しパックだったのだ。因みに洗顔料は手作りっぽいものが入っていた。
それよりも、髭をそるときのジェルが欲しかったが、そんなものはこの郷に無いと森津木さんが一刀両断してくれた。
「ごめんください」
「はーい」
ここで、初めて人型以外にエンカウントした。
二足歩行の洋服を着た白い犬。幸い、怖いとか、不気味とかいう感情は無く、難易度低めで助かった。
「あ。森津木。久しぶり。今日管理舎にクッキー置いたでしょう。噂を聞いて店番放り出してすっ飛んでいたら、もう無かったよ。籠のにおいだけ嗅いで帰ったんだから」
森津木さんを見た途端、白い尻尾をはちきれんばかりに振りながら寄ってきた。鼻をスンスン鳴らしながら、嬉しそうに近寄ってくる。可愛い、かもしれない。
「それは残念だったね。早い者勝ちだから、次は間に合うと良いね」
「次を楽しみにしてるよう。ところで後ろの彼は迷い人かな。なら生活雑貨だね、ご要望は?」
「シャンプーとコンディショナー、洗濯洗剤に柔軟剤、台所洗剤が欲しいです」
「じゃあこっち。数種類あるから選んでね」
そういって三つの棚に案内してくれた。ほとんど即決でカゴに入れていく。
「あ、ちょっと待って下さい。あそこの小さな鉢はミントですか」
「あ?これ?そうだよ。あっという間に増えるから間違っても畑に捨てちゃ駄目なんだよ」
「そのミントも下さい」
台所と、増えたらトイレに置こう。
「毎度。合計で三千七百五十円だけど、おまけで三千七百円だ。
さらにおまけで展示品で少し日焼けしちゃったお弁当箱をつけちゃうよ。
また来てね。僕はシロって呼ばれてるよ。見ての通り犬族だから、人間が好きなんだ。よろしくね」
ニコニコ顔のシロは、まさしく犬。二足歩行で喋る犬。間違いない。可愛い。
「俺は岩木って呼び名です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
シャンプーとコンディショナー、洗剤類はそのままトートバックに入れて、ミントだけ小さな紙袋に入れてもらった。
今度会えた時は頭撫でて欲しいよー、一緒に散歩してくれるともっと嬉しいよー、と謎の見送りをしてもらい、森津木さんと二人苦笑しながら雑貨屋を後にした。
商店街の入り口に戻ってきた。入り口にある大きな食料品店が目的地だ。
「ごめんくださーい」
だんだんと慣れてきて、挨拶が緩くなってきた。はい、と奥から出てきたのは十代前半の女の子。額にも目が有る。少し釣り目でポニーテールのような髪形をしている。おお、この郷の人で初めて遭遇した少女だ。しかも釣り目。オレンジのエプロンが眩しい。
「何をお探しですか?って、あ、迷い人じゃない。初日にくるなんて珍しい」
「調味料一式と味噌とか、いろいろ見たいのですが」
「アンタ、自炊する気がちゃんとあるのね。見どころあるわ」
「有難うございます、そこで、申し訳ないのですが、見ての通り荷沢山でして。
見ている間、荷物を預かってもらうことはできませんか」
「良いわよ。でも、貴重品は持っていてね。って、森津木ちゃん!居たの。
今日、森津木ちゃんのクッキー貰ったわよ。美味しかったわぁ。ありがとね」
「気に入ってもらえて何よりです。今日は彼の付き添いで来ました」
「へえ。じゃ、案内頼んじゃっていい?私は荷物の守番してるから」
「はい」
カゴを持って森津木さんと店内を回る。塩、砂糖、コショウにごま油。醤油に味噌。
次々に籠に入れる。サラダ油にみりん、料理酒が入ったところで一気にカゴが重くなる。
これ以上は、持てないな。
「岩木、余計な出費になるけれど、日本酒を一瓶買った方が良い。
米も買うし、凄く重くなるのも承知で言うよ。日本酒を買った方が良い。僕も荷物持ちしてあげるから」
ためらいなく日本酒をカゴに入れる。俺が森津木さんを疑う理由は無い。少し期待はしていたけれど、森津木さんも荷物を持ってくれるとのことなので、森津木さんの厚意に甘えて、もう少し買っておこう。
結局、細切れの肉と鶏肉、常備野菜や牛乳、卵など籠に入れると、二つカゴが満杯になった。
顆粒の出汁が無かったので、煮干しや鰹節がやたらと嵩張ってしまっている。中にはケチャップなど、本当は欲しかったけど、諦めたものも少なくない。米はカゴに入れずに抱えている。
三つ目の女の子の所に戻って、会計をしてもらう。
「少しだけ、オマケしちゃいまして一万三千円になります」
「有難うございます」
やった、今日は散財してるから、嬉しい。既に支給額残金が二万を切っている。
支払いを済ませて、トートバックに入る分は入れてもらう。入らなかった分をお店の袋に入れてもらって、お米はそのまま。
俺が米と粉物のなどの入った袋、トートバック(酒類、油等イン)を持って、申し訳ないが森津木さんに半纏が入った袋(上からミントもねじ込んだ)と、煮干しや鰹節などの入った比較的軽い袋を持ってもらう。店番の少女は苦笑いして
「はぁ~。大荷物だねぇ。頑張って」
と食料品店から見送ってくれた。
食料店を出てすぐ、森津木さんが聞いてきた。
「現世とは価格が違って驚かなかったかい?」
「いえ、カップ麺の値段を聞いた時点で予想は付きましたから。
この郷で補給できない物は高くなる。その中でも利用者が少ないものは顕著な値段になるんですね」
「その通り。その分野菜とか、郷産のものは安いけどね」
ゴミの出し方を聞いていると管理舎の前まで来た。
さて。アパートまでの道のりが早歩きで約二十分。この大荷物だ、スピードは遅れるだろう。急いだとして約二十五分
この時点ですでに朝より格段に増えた視線。その中に恐怖を伴う視線もある。慣れなければ。森木津さんが隣にいる。
今日はとても恵まれた条件で歩けるのだから。




