67.大ヒット!
「…という内容の本が原因のようです」
殿下以下、側近たちが口を開けたまま固まっている。
いち早く立ち直った殿下が、頭を抱えた。
そして、イスタークに視線を送る。
「イスターク、理由がわかって良かったな。…その、同情しかないが…」
「まさか、兄貴とロイドのそういう本が出回っているなんて…」
「クリストフ、語弊があります。私とイスタークは決してそのような仲ではありません!」
いや、マジでナイから!
「なるほど…。あの本にはそんな事が…」
「ヨハンは知っていたのですか?」
「タイトルは知っていましたが、中身は知りませんでした。あの本は厳重に管理されていて、今のところ女性しか買えないようになっているのです」
「えっ?そうなの!」
殿下がびっくりしている。
「しかも、シリーズ化されてますよ」
「えぇっ!」
「えーと…確か、『王子の恋〜黄金の煌めき〜』、『狙撃手の恋〜翡翠の獲物〜』『龍の恋〜黄金の宝玉〜』『奏でる恋〜黄金の旋律〜』という、恋シリーズだったかと…」
そんなに種類があるのか…。
しかし、黄金が付くサブタイトルが多いな。
殿下を見ると、天を仰ぎ見ている。
「あの人…、そんなに書き上げてるの?」
「ということは、やはりエイダ王女ですか…」
「間違い無いよ。しかも、モデルは俺たちかよ!」
『は?』
どういう事だ?
殿下はそのタイトルから何を読み取ったのだろうか?
確かにクロエが、描写が具体的でモデルが誰かはすぐに推察出来ると言っていたな。
「殿下はどれが誰だか、わかっているッスか?」
クリストフが聞く。
「むしろわかり易いぞ。ちなみにタイトルの方が攻めで、サブタイトルの方が受けだな」
「『攻め』と『受け』って何ッスか?」
「『攻め』は男役、『受け』は女役」
「えっ?『役』?」
「あぁ。この本の主人公とヒロインは男だぞ」
「えぇっ!」
クリストフ、大袈裟に驚いてくれてありがとう。
しかし、俺とイスタークは事前知識があるから驚きもしない。
ただただ、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「それで殿下。その本のモデルが俺達とは…」
今日、初めてのイスタークの発言だ。
少し時間が掛かったが、立ち直ってきたようだ。
「まず、『王子の恋』は俺とショウ王子だ。黄金は全てショウ王子を表しているんだろう。恐らく、瞳の色からきている」
「じゃ、じゃあ、翡翠はもしかして僕ですか…?」
ヨハンが恐る恐る聞く。
「間違い無い。そして、その相手はクリストフだ」
『はぁ!?』
二人がハモる。
「考えてみろ。狙撃手だぞ?この国一番の狙撃手と言えば?」
「あ〜〜〜…、俺ッスね…」
クリストフが謙遜もなく、返事をする。
自意識過剰のようだが、事実は事実だ。
この場の誰もが認めている。
「ヨハンが相手とか…、マジ無い…」
「僕だって不本意ですよ!しかも女役なんて…」
「まだ、ロイドの方がイケるか…?」
「止めろ、クリストフ」
コイツは、なんてことを言っているんだ…。
「じゃあ、『龍』と『奏でる』は?」
「フェイロン皇子とルドルフ王子だな」
「エイダ王女、兄までモデルにしてるんッスか?!」
「あの人はそういう人だ…」
「恐ろしい妹ッス…」
本当に…。
なぜ、そんな身近な対象で小説を書いているんだ。
しかも内容が恋愛に留まらず、行為にまで及んでいるなんて。
確かにエイダ王女の書いている本は、今までのミストラルには無い娯楽本だ。
クロエに聞いた所、貴族だけでなく平民にも爆発的に広まっているらしい。しかも年齢問わずだ。
理由は、嫉妬せずにいられるし、最高にドラマチックだからとの事。
男女がくっつく話なんて、飽きるほどありふれているし、何ならヒーローに恋しても絶対につまらない女に持っていかれる。
これが男同士だと、不思議と読んでても嫉妬心が起こらないらしい。それに同性であるという、最大の障害が立ち塞がるため、自然と二人の恋を応援してしまうそうだ。
我が国の女性達は、相当娯楽に飢えていたのか…。
「でも、ギャビーは何で小説を読んで俺とロイドを勘繰ったんだ?普通に考えれば、空想物語だとわかるだろうに」
「兄貴の愛が足りなかったんじゃないか?」
「そんなワケあるか!俺はいつでも全力投球だ!」
イスタークが喚く。
俺だって、レティに全力投球している。
疑われるなんて心外だ!
しかもイスタークと!!
レティには、今以上にわからせてやらねばな…。
「ロイドは、なぜ二人が信じ込んでしまったのかわかるか?」
殿下が聞いてくる。
「クロエが言うには、描写が生々しいそうです」
「描写が生々しい?」
「はい。まるでその情景を見ていたような書き方をされているようです。例えるなら、観察日記でしょうか?」
「観察日記って…。それ、もう事実じゃん」
クリストフが俺とイスタークに、疑惑の視線を寄越す。
…が、すぐにイスタークに殴られた。
「そんなワケあるか!」
「そうですよ。胸クソ悪い…」
殿下が苦笑いする。
「ふむ。観察日記か…」
「殿下?」
「その本を読んだ女性達が、小説までとは言わなくとも、イスタークとロイドのやり取りを見た事があったらどうなる?」
「関連付けそうですね…」
「しかも、噂好きの貴族令嬢達の事だ。今はどこへ行っても二人の話でもちきりだろう。ガブリエラ嬢は、次期辺境伯夫人として茶会も多い筈。最初はあり得ないと思っていても、何度も同じ話をされたら…」
「自分の認識を疑いそうですね」
しかも、尾ひれはひれが付いた話を聞かされていそうだ。
平民まで広まっているとなると、ハウスメイド達も同じ話をしているだろう。
数の暴力は恐ろしいからな…。
「でも、クロエが信じてなくて良かった…」
「あっ!殿下。言い忘れましたが、貴族に出回っているのは『死神の恋』だけですよ。その他のシリーズは、平民にしか販売されていません」
「何っ!」
「どうも、平民の反応を見てから貴族に販売されているようです。凄いですね。エイダ王女は市場調査をしてから、貴族に販売する本を選んでいるみたいなんですよ」
「こんな所で有能さを披露しなくても…。で、次に販売されるのはわかっているのか?」
「『王子の恋』です」
「ヨハン、差止めだ!」
殿下が叫んだ。
ズルい…。
ア)差止めだ!ヨハン!
ヨ)もう、明日には発売されるので無理です。
ア)くそぅ!
ロ・イ)ざまぁ…
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