61.爵位の暴力
わぁお…。
俺には優秀な護衛が付いていたらしい。
…じゃなくて!
「レティ!落ち着いて!」
「ハッ!」
危ない危ない。あやうく一般人を殺める所だった。
狂戦士モードだったな、あれは…。
「な、何なのよ!あんた!」
女は、震えながら威勢のいい言葉を掛けてくる。
「私は、ロイ様の婚約者ですわ」
「嘘でしょ…。こんな野蛮な女が婚約者なワケ?」
目を丸くして、レティを指差す。
まったくもって、不快だ…。
「私の認識では君の方が野蛮だよ。見知らぬ男にベタベタと…。振る舞いが、躾のなっていない犬のようだな」
俺はレティを後ろに庇い、絶対零度の目線を向ける。
女は一瞬怯んだが、なおも食って掛かる。
「煩い!このあたしに逆らって、タダで済むと思ってんの!」
「知らん」
「ちょっと顔がいいからって…。泣いて詫びても知らないんだから!お父様に言いつけてやる!」
と、ちょうどその時、この女の名前を呼びながら丸々太った男と派手な装いの女が近づいてくる。
「ロミー!探したぞ。どうしたんだそんなに興奮して」
「ヤダわ、ロミー。ネイルが剥がれてしまっているじゃないの!」
「お父様!お母様!」
その途端、ロミーなる女が泣き真似を始める。
「あた、あたし…。この人たちに絡まれて…」
「何!!」
「ちょっと!うちのロミーに何てことしてくれてるの!」
二人がこちらを向いた途端、先程までの勢いはどうしたのか、男は青褪め、女は頬を赤く染める。
「ロ、ロイド様!」
男の口から俺の名前が出た。
コイツは…。
あぁ、確か騎士団がマークしてる黒い噂のある男爵か…。
何をしているのか知らないが、最近羽振りが良くなり、娘を連れた娼婦を後妻に迎えたヤツだったな。
前妻との間に一人、娘がいたはずだがここには姿が見えないな…。
「あなた!この方とお知り合いなの?」
「あ、あぁ…」
母親の方が、顔を赤くしながら誘うように声を掛けてくる。
娘ソックリだな…。
「主人のお知り合いとは知らず、申し訳ありませんでした。私、マッコー男爵の妻のローズと申しますわ」
狙うような微笑みが気持ち悪い。
そして、コイツもグイグイ来るな…。
「こ、これ!止めないか!!」
マッコー男爵は焦って止めようとする。
だろうな…。
貴族なら当然だ。
「あなた、何でよ?私たちは貴族なのよ?」
「そうよ、お父様!この人達ったら酷いんだから!」
「だから!」
だんだんとマッコー男爵が苛立ってきた。
「マッコー男爵」
「はい!ロイド様!」
「私はあなたに、ファーストネームを呼ぶ事を許した覚えはないんだが」
「も、申し訳ありませんでした!!ウィラー公爵子息様!」
「えっ?公爵…?」
「そうだ!この方は筆頭公爵家のウィラー家のご子息様だ!王家に次ぐ地位の方だぞ!宰相様のご子息でもある。私たちとは立場が違うんだよ!!」
「えぇ!!」
「嘘でしょ…」
母と娘は顔面蒼白だ。
「じゃ、じゃあ、その野蛮な女は?」
娘がまたもやレティを指差す。
本当に失礼なヤツだ。
マッコー男爵が視線をこちらに向け、再び慌てる。
「ミ、ミレン辺境伯ご令嬢様!!娘の失言、大変申し訳ありませんでした!娘は貴族になってまだ日が浅いため、どうかご容赦を!!」
マッコー男爵が、平伏して謝罪をする。
しかしそれを見ていながら、母娘には何も響いていなかった。
「辺境伯ぅ?」
「なんだ、田舎娘じゃないの。ビビって損したわ」
「馬鹿者!!」
マッコー男爵は妻と娘を怒鳴りつけた。
「辺境伯の地位は侯爵と同等だぞ!しかも、今代の王太子殿下は辺境伯家を重宝されている!それにミレン辺境伯家という事は、この国の英雄であるエドワード卿のご息女じゃないか!お前たちは、社交や家庭教師から何を学んでいるんだ!こんな失態を犯すために高い金を払ってるワケじゃないんだぞ!」
おぉ…。こっちが引くほど怒っている。
本心かは、わからんがな。
「マッコー男爵」
「はいっっ!!」
「お前の所には、もう一人娘がいなかったか?家族で来ているのに、姿が見えないようだが…」
「ル、ルシルは、体が弱くてですね…。今日は自宅で休んでおります!」
「そうか。詮索して悪かったな」
「い、いいえ…」
汗を拭きながら答える男爵に違和感を覚える。
何か隠しているな…。
「では私たちは行くが、ここでの事は…」
「見逃してくださるんですか!!」
マッコー男爵が期待を込めた目で見てくる。
「終生忘れないから、覚悟しておけよ」
「ヒイィィィっ!!」
マッコー男爵は青い顔をしてへたり込む。
「あっ、こちらお返ししますね」
そう言って、レティはつけ爪をマッコー男爵の頭にパラパラとふりかけた。
キーキー、何か喚いていたが、俺たちは振り返りもせずに次の店へと向かった。
「レティも、相当苛ついてた?」
「当たり前ですよ!ロイ様をナンパされて、すごく気分が悪かったです」
「最後のやつ、まるで悪女だったね」
「ロイ様だって、悪人でしたわ」
「悪人と悪女なんて、お似合いじゃないか?」
「フフフ。そうですわね」
そして、俺達はデートを再開した。
わかりやすい小物悪人の話でした。
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