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5. sideスカーレット

ロイ様に言われて店を出た私は、店の近くにあるベンチに腰掛ける。

ここは大きな大樹をぐるりと囲むようにベンチが備え付けられていて、大樹が天然の日除けとなっていた。陽射しが徐々に強くなってくるこの季節、大変ありがたい日陰だった。


私は涼みながら、店内にいるロイ様に目を向ける。

顎に手を当てながら品物を吟味し、最後には笑顔になっていた。納得のいく出来だったのだろう。包みを受け取っていたため、そろそろいらっしゃると思い、立ち上がる。

すると近くにいた男性に急に話しかけられた。


「君、ここらであまり見ない顔だけどすごく可愛いね。暇ならこれから僕と遊びにいかないかい?」


いきなり話しかけられた私は驚いた。

これが世に聞く、『ナンパ』というヤツか…と感心していると、尚も男は言い募ってくる。


「ねぇってば!こんな所でボーッとしてるなんてどうせ暇なんでしょ?僕は伯爵の息子だよ?一緒にいて損はないし、楽しませてあげるからさぁ」


そう言って、男は私の腕を掴んでくる。

私は嫌悪感を(あら)わにした。


「私は待ち合わせをしていますので!」


そう言って手を振りほどこうとする。


「そんな嘘つかなくてもいいよ。君みたいな子が、こんな所で一人なんてオカシイでしょ?」


尚も男の手に力が籠もった。

さすがにこれは強硬手段に出てもいいだろうと判断し、反撃に出ようとすると聞き慣れた美声が耳に入る。


「私の婚約者に何か用かな?」


そう言って、ロイ様が絡んできた男の手から私を引き寄せると、冷たい視線を投げかける。

抱き寄せられた瞬間、ロイ様の爽やかなムスクの香りが私を包んだ。と、同時にいつもの匂いに段々と心が落ち着いてくる。


「こ、これはウィラー公爵子息様!あなた様の婚約者とは知らず失礼しました!」


男はそう言って、青い顔をしながら慌ててその場を立ち去った。

腕の中からチラリとロイ様の顔を覗くと、物凄く険しい顔をして男が立ち去った方向を見ている…。

どうしましょう…。

あんな男も振り払えないなんて、失望されてしまったかしら…。

私が見つめている事に気付いたロイ様は、困ったような顔をする…。


「レティ…。レティはとても魅力的なんだから気をつけてね」


困らせてしまった…。

あんな男、本当は簡単に振りほどけたのに。

でも、将来の公爵夫人として、野蛮な力技に出るワケにもいかないし…。

力なく「はい…」と返事をすると、ロイ様は抱き締める力を強め、首筋に顔を埋めた。


「ロ、ロイ様っ!!」


私は恥ずかしさのあまり、ロイ様の胸を手で押し返そうとする。ここ、往来ですし!!


「ごめん。レティを怒ったわけじゃないんだ。俺の不甲斐なさに自己嫌悪してるだけだから。それに…、もう少しこのままで」


そう言って、更に力を強める。

私は、なされるがままにその場に直立した。


どれくらいそうしていただろうか…。

ロイ様が私から離れる。

短かったようにも、長かったようにも感じられた。

ロイ様は私から離れ際、「すん」と匂いをひと嗅ぎする。

私が不思議そうにしていると、


「上書きできたかな?」


と妖艶な笑みを零す。


「な、な、何をですか?」


私は真っ赤になりながら聞き返す。


「レティにあの男の匂いがついていたから。俺の匂いで上書きできたと思うけど、帰ったらすぐにお風呂に入ってね。俺、レティに関しては狭量だから」


いつにない甘い言葉に、私はいっぱいいっぱいになってしまった。厚かましくも、愛されている実感が湧いてくる。


「は、はい…。でも…」

「うん?」

「お風呂に入ってしまうと、ロイ様の匂いが消えてしまうので、ちょっと寂しいなぁ…と思いまして…」


ふとロイ様を見上げると、片手で口元を抑えている。

目元が少し赤い。

!!

私ったら何てことを!!

私の顔は逆に青くなっていくのを感じる。


「レティ…。熱烈だね」

「すみません!はしたなかったですよね!!」


呆れられたらどうしよう…。


「いや、すごく嬉しいよ…。世界で一番愛しい人が自分の匂いを纏ってくれただけでも嬉しいのに、それが消えてしまうのを寂しく思ってくれるなんて…。愛されている実感が湧いて、レティをまた抱きしめたくなる。レティは俺をどうしたいの!」


睨まれながら責められているのに全然怖くない。

こんなに感情に素直なロイ様、初めて見るかもしれない…。

私は自然と笑顔になる。


「ロイ様こそ、私をどうしたいんですか!素敵すぎて、心臓が爆発しそうです!私の方こそ『愛されてる』と自惚れてしまいますよ」

「自惚れてくれていい。俺は本当にレティを愛しているんだから」


そう言って、微笑んでくれた。

その笑顔に胸が高鳴る。

私はそんなロイ様の手を取ってデートの続きを楽しんだ。



ロイ様は優しい…。

私が普通の令嬢と違い剣を振り回しても、諫めるどころか剣筋がいいと褒めてくださる。

公爵夫人教育につまずいても、隣で根気強く待っていてくれる。

出来る事が増えると、穏やかな笑顔で「よく頑張ったね」と頭を撫でてくださる。


私は本当に、ロイ様が好きだ。

初めて会った時から、好きで好きで堪らない!

この想いは募るばかりだ。

貴方の隣に相応しい令嬢になりたい!

この場所を誰にも渡したくない!!


ロイ様の香りに包まれながら、私は立派な公爵夫人になることを心に誓った。

ロイド、頑張った!!


✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩


読んでみて面白かったなぁと思われた方は、よろしければブクマ評価もお願いしたいです!!

大変、励みになります(。>﹏<。)

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