38.強制力は厄介
「…という事で、不本意ですがレティをショウ王子の護衛に付けるのはどうでしょう?」
殿下以下、イスターク、クリストフ、ヨハンが口をポカンと開けている。
「殿下?」
「はっ!あまりにも衝撃が強すぎて意識を失っていた…。今の話は確かなのか?」
「ショウ王子が攫われる可能性は推測ですが、皇帝とその周囲が病に倒れているのは事実のようです。父もその情報を掴んでいたので、ヘイムダルとも情報を共有しました」
「俺の知らない内に…」
アレクシス殿下がギリギリと悔しそうにしている。
まぁ、即位前だからな。
ヘイムダルはまだ陛下の犬だから、アレクシス殿下に軽々しく情報は与えないんだろう…。
「それにしても、またレティか…」
イスタークが呆れたように言う。
「俺もそう思う。なぜこうも、レティを引き摺り出そうとするのか…」
俺はため息をつきながら首を振る。
「それがシナリオ強制力だからですよ!」
「うわっ!」
クリストフが飛び退いた。
「ユリア…。何でそんな所から?」
アレクシス殿下がそう言うのも無理は無い。
ユリアは窓から顔を出した。
ここは3階だぞ…。
「こっちの方が忍者っぽいじゃないですか!」
「いや、コイツらに忍者は通じないから…」
窓から俊敏に部屋に入ってくる。
なんかよくわからないが、ユリアは何を目指しているんだろう…。
「それより、強制力ですよ!強制力!」
「殿下とユリアが前に言っていたヤツですか?」
ヨハンが聞く。
「そうです!スカーレット様はどんな時でもショウ王子に関わる事になるんです!それがイベントですから!」
ユリアが熱弁する。
「具体的にはどうなるんだ?」
イスタークが聞く。
「はい!先日、ロイド様とショウ王子は対決しましたよね?」
「ああ」
「アレもイベントなんです。残念ながら好感度が足りず、ショウ王子が敗北してしまいましたが…」
「うん?では、ショウ王子の好感度が高かったら俺は負けていたのか?」
いやいや、あの実力差だぞ?負けるなんて有りえないだろう。
「いいえ、勝負自体が無くなります」
「勝負自体が無くなる?」
どういう事だ?
「一方的な展開に業を煮やしたスカーレット様が、乱入してショウ王子を庇うんですよ。そして、そのまま勝負は有耶無耶になります!」
「ほう…。その後は?」
「ロイド様、怖いです!」
ユリアが怯えているが俺は先を促す。
「その後は、ロイド様とスカーレット様の関係に亀裂が入ります。元々、政略結婚のお二人です。これがきっかけとなり、二人の関係がだんだんと壊れていきます…」
「…なるほど」
「ひぃぃいい!!」
なぜユリアはあんな悲鳴をあげているんだ?
思いのほか低い声が出てしまったが、俺は普通に対応しているだけなんだが…。
「ロイド!その殺気、抑えろ!コレは仮定の話であって、現実ではない!」
イスタークが叫ぶ。
「当たり前じゃないですか。私とレティの関係に…亀裂…が入るなんて…」
「だからソレを止めろって!お前とレティは仲良し!誰が見てもラブラブカップル!」
その言葉に気が緩む。
「えっ?そんな風に見えます?照れるな…」
「良かった…。元に戻った…」
みんながグッタリしている。
どうしたんだ?
「皆さん、お疲れのようですね?」
「誰のせいだと思っているんだ!お前、瞳孔開きっぱなしだったぞ!魔王かと思った…」
「えっ?」
何のことかわからずに首を傾げる。
アレクシス殿下が大きなため息をつく。
「今のでよくわかった…。ロイドとスカーレット嬢は絶対に切り離してはいけない…」
イスターク、クリストフ、ヨハン、ユリアがうんうんと頷く。
「自分の身を守るためにも、ロイド!絶対にスカーレット嬢を手元から離すなよ!」
「言われなくても、ですよ」
「しかし、ショウ王子の護衛をどうしたものか…。ユリア、ちなみに今回のケースのように、ショウ王子がイベントを失敗した場合の分岐はどうなる?」
「確か…。成功しても失敗しても、ロイド様の言う通りスカーレット様が護衛に付いたと思います。スカーレット様が自主的に護衛に付くのか、アレクシス殿下の命令で護衛に付くのかの違いですね。自主的の場合は、デートっぽい(ヒィッ!)護衛で、命令されてだとめちゃくちゃ扱いてました」
「どうしても関わっちゃうのか…」
アレクシス殿下が悩む。
「他に都合良く剣の腕がたつ人間はいないものかな…」
「それなら丁度いい人物がいますよ。なぁ、クリス」
「確かに…。後進の指導慣れしたベテランがいるッスね」
「誰なんだ?その人物は?」
イスタークとクリストフがニヤニヤしている。
…まさか!あの人を引っ張り出すのではないだろうな?
「俺達の親父ですよ。現・ミレン辺境伯のエドワード・ミレン」
「ッス。ショウ王子と顔合わせも済んでるし、あの時になにやらアドバイスめいた事も言ってたから丁度いいじゃないですか!」
「なっ!我が国の英雄だぞ!そんな簡単に…」
「殿下。親父はそんな大層なタマじゃないですよ」
「そうですよ。教えを請う者への指導は喜々としてやりますよ。まぁ、途中でショウ王子が脱落する可能性が高いですが…」
「どんな指導だよ…」
アレクシス殿下が胡乱な目で二人を見る。
「まぁ、ソコは他国王子だから御手柔らかにと殿下がお願いすれば大丈夫じゃないですか?仮にも王家に誓いを立てている一領主ですからね」
「イスタークがそう言うなら…。任せてみるか…」
「じゃあ、親父に伝えてきますね」
そう言って、クリストフが執務室を出ていった。
「これで少しでもシナリオを変えられればいいんだがな…」
アレクシス殿下がため息をつく。
「他に心配事でもあるんですか?」
「あぁ。さっきヨハンが言った強制力の話だよ。そんなに強くない強制力ならミレン辺境伯が引き受けるだろうけど、強い強制力なら何としてでもスカーレット嬢を護衛にすると思うぞ」
「厄介ですね」
ヨハンの呟きに一同が同意する。
「まぁ、他のプランも考えないとな。ロイド!」
「はい」
「めちゃくちゃスカーレット嬢を溺愛しろよ」
「もちろんですよ!」
魔王が降臨しましたね(笑)
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