36.皿の上の悪魔
「うっ…」
朝、目を覚ました時に感じた異変は、ひどい頭痛と強烈な酒臭さだった。
起き上がってベッド脇のサイドテーブルから水を取ろうとすると、隣に誰かいる…。
ギョッとしてよく見ると、レティがすやすやと寝入っていた。
一切の着衣の乱れなく。
自分の衣服も確認するが、やはり着衣の乱れは無い。
俺の理性はいい仕事をしたようだ。
レティを酒に任せて抱いてしまうという事が無くて、本当に良かった。
もう少し寝かせてあげればいいかと思い、そっとベッドから降りようとする。
すると、クンッと引っ張られる。振り返ると、レティが服の裾を掴んでいた。
「おはようございます、ロイ様」
「おはよう。レティ」
くすぐったい様な気持ちで朝の挨拶を交わす。
「レティ、大丈夫?気分悪くない?」
「頭がガンガンします…。もう少し横になっていたいです…」
「そのままでいいよ。お水飲む?」
「はい」
俺は水を取ろうと起き出した。すると、
「おはようございます!ロイド様!今日はずいぶんと遅いお目覚めですね」
と、メイド頭のイルダが大きな声を張り上げなら部屋に入ってくる。
その声に俺とレティは、頭を抱える。
イルダはベッドにいる俺達を見ると、
「まぁ!まぁぁぁ!!そういう事でしたのね!私ったら!」
と、これまたワントーン上の声で叫ぶ。
「イ、イルダ…。声を…」
小さくしてくれと言おうとしたら、その前にイルダにテーブルの上に乗りきらず床にまで転がった酒瓶を見られ、今度は般若の顔で睨まれる。
「坊ちゃま…。まさか、お酒を飲ませて酩酊したスカーレット様に無体を…?」
「違!っっ!!」
否定しようとして首を振ったら、また強烈な頭痛に襲われた。
ベッドの上でうずくまっていると、近くにイルダが来る。
素早く俺とレティの様子を確認し、何もないことを悟る。
イルダは我が家では古参のメイドで、俺とクロエが生まれる前から仕えてくれている。
イルダには父も頭が上がらない。
「何も無いようですね。はぁ…。安心半分、期待外れ半分の気持ちですわ」
俺はイルダを見る。期待外れって…。
「さっさと起きてくださいまし!これではメイド達の仕事が滞ります。スカーレット様、起きられますか?」
「は、はい」
イルダに手助けしてもらいながら、レティがノロノロと起き上がる。
「ダイニングまで行けるようでしたらそちらに朝食をご用意しますが、無理ならこちらに運びましょうか?」
「俺はダイニングに行くよ。レティは?」
「わ、私も行きます」
それはそうだろう。
ここにいると、強烈な酒の匂いで戻しそうだ…。
――――ダイニング
テーブルにつき、朝食の提供を待つ。
正直、食べる気持ちは一ミリも湧かない。
レティも同じようだった。
「ロイド様、スカーレット様。まずはこちらをお飲み下さい」
そう言って提供されたのは何の変哲もないトマトジュースだった。一口飲んでみる。
「…美味しい」
「こちらはトマトジュースに香辛料と貝のエキスが入っているものです。二日酔いに効くんですよ」
これなら食欲が無くても飲み切れそうだ。
レティも美味しそうにコクコクと飲んでいる。
「では、次はこちらをいただいて下さい」
そう言って給仕されたのは、バターとチョコソースのようなものが塗られているトーストだった。サラダやベーコン、スクランブルエッグも一緒にサーブされる。
先ほどのジュースで少しスッキリしてきたため、トーストを思いっきりかじった。
「!!!」
マッッッズ!!
吐き出すのもはばかられるため、涙目になりながら飲み込む。
果実水を口の中をすすぐように飲み、ベーコンを口の中に放り込む。たっぷり咀嚼し、口の中の味を変えた。
レティを見たら同じような状態だった。
「イルダ、このトーストは何だ?」
レティもコクコクと頷いている。
「これは塩と酵母で作ったジャムですね。旦那様も奥様も、飲みすぎた次の日はこのトーストを食べて、一発で回復しています」
「これ、一枚まるまる食べているのか?」
「はい。悶絶しながらお食べになってますよ」
俺は皿に乗った悪魔を見る。
しかし、一時の我慢でこの頭痛が治まるなら…、と思い覚悟を決める。
結果、効果は抜群だった。
昼前には体調は元通りになっていたからだ。
どちらの効果が良かったのかは謎だが、おそらくトーストの方だと思う…。
なんせ酒豪の両親が食しているのだからな…。
そして俺は誓った。
いくら調子に乗っても、飲みすぎないようにしようと。
レティも同じ誓いをたてていた。
――――イルダ(メイド頭)&ベイリー(執事長)
「はぁ、ロイド様には本当にがっかりですよ」
「どうしました?イルダ」
「ベイリー様、聞いて下さい!今朝、ロイド様とスカーレット様が同衾されていたので、これは!と思ったのですが、全くもって何も無かったんですよ」
「まぁ、ロイド坊ちゃまですから」
「私らのいる間に赤ちゃんは拝めるんですかねぇ」
「どうでしょうねぇ」
そう言って二人は大きなため息をついた。
ジャムはオーストラリアでポピュラーなヤツです。世界一まずいジャムとして有名らしいですが、二日酔いにはよく効くそうです(笑)
同じくトマトジュースはメキシコのものです。アサリ(クラム)とトマトが混ざっているのでその名がついたとか…。
まぁ、両方食した事はありませんが…(笑)
「二日酔い 世界」で検索するとイロイロ出てきて面白かったです。
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