3.ピンチ!
読んでいただき、ありがとうございます!!
―――「四季恋」。
それは、一世を風靡した乙女ゲームである。
良質なストーリーと魅力的な攻略対象者、そして神声優に命を吹き込まれたそのゲームは、数多の女性を虜にした。
『2』ではエロ展開も加わり、『1』以上に美麗な攻略対象者に本当の恋愛を叩き込まれる。四季恋プレイヤーは爆発的に増え、社会現象までになった…。
そして『3』である。
『2』を制作していたスタッフは思った。
「これ、そのままギャルゲーにしたら男性ファンもゲットできるんじゃね?」と。
その想いは、『2』のおまけディスクに『体験版』として込められた。
「…以上が、『四季恋3』の発表経緯ですね。私がやったのは体験版までなので、正規版がどんな内容で、どれくらい人気が出たかわからないんですよ。気付いたらこの世界にいたので…」
ユリアが、纏めたレポートを提出しに来た。
そして、掻い摘んで『四季恋』を教えてくれる。
「やっぱり、あのゲームの運営はぶっ飛んでるな…」
殿下が頭を抱えた…。
「アレクシス殿下。私、一つ気になる事があります」
「何だ?」
「今回の主人公側にも、『転生者』っているんでしょうか?」
「それは、殿下やユリアのような知識を持った人間がまだいるかもしれない、という事ですか?」
「はいそうです、ロイド様。そうすると、私のように効率良く攻略を進める可能性が高くないですか?」
「確かに…。それは困りましたね」
俺は眉間にシワをよせ、顎に指を添えて考えこむ。
「はうっ!ロイド様の思案顔!!ヤバイ!尊い!!心のシャッター押しまくりだわ!」
ユリアのこの発作にもだんだんと慣れてきた。
害は無い為、最早みんな無視している。
「ねぇ、ユリア。『3』のメインヒロインって誰なの?」
殿下が聞き慣れない言葉を発した。
メインヒロインとは?
その様子にユリアが説明を加えてくれた。
「メインヒロインとは、物語の中で、他のヒロインより重要な役割を持っているヒロインの事です。他のヒロインとのフラグ…あ~接点ですかね、それが無くなった時に、自動的に結ばれたり、逆に全てのヒロインを攻略する事で攻略できるようになったりする女の子です。とにかく、他の子より扱いが大きいです。ちなみに『2』のメインはアレクシス殿下でした」
「と、なるとクロエがメインなのかな?」
殿下が嫉妬にまみれたドス黒いオーラを出している…。
「違いますよ」
「えっ?違うの?」
殿下は拍子抜けしたようだった。
「だって即位式に招待されているのに、その国の次期王の婚約者に手を出すなんて…、とんでもないヤラカシじゃないですか!」
「そ、そうだよね!良かったぁ〜」
「あっ、でもメインじゃないってだけですよ。体験版はメインヒロインしか攻略させてくれなかったので…。クロエ様も登場はしてましたし、宣伝用の動画にはバッチリ出てましたから」
「クソっ…、ピンチは変わらないのか。まぁ、ショウ王子との接点を無くせばいいか…。じゃあ、メインは誰なの?」
殿下が改まってユリアに訊く。
貴方の婚約者の時点で、他国王族との接点は無くせないがな…、と思いながら俺も耳を傾けた。
「『3』のメインヒロインは、スカーレット様ですよ」
「……は?」
一瞬、何を言われているのかわからず、反応が遅れてしまった。
「…ロイド。頑張れ」
殿下が憐れみを込めた目で見てくる。
イラッとするな…。
「ユリア、どういう事なんだ」
俺は厳しい視線をユリアに向けた。
ユリアは青い顔をしながら表情は喜ぶ、という器用なことをしながら答える。
「く、詳しくはそのレポートにも書いてありますが、ショウ王子は今の段階では、自分に自信が無いのです。それをスカーレット様に慰められたり、背中を押してもらったりして自信をつけていきます。スカーレット様、優しいうえに底抜けに明るくて前向きだから…。そして、ショウ王子は段々と自分の恋心に気付いていきます。あれ?もしかして俺、アイツの事が…的な展開です!王族として自信のついたショウ王子は手強いと思いますよ」
「うわ〜…、ベタな展開…。って、ロイド!!」
俺は悲壮感たっぷりに項垂れた。
そうなんだよ…。レティはめちゃくちゃ優しいうえにスーパーポジティブなんだよ…。
慰め、励ましている姿が容易に想像がつく。
そんなレティに口出ししようものなら、軽蔑されそうだ…。
詰んだ…。
俺は一縷の望みをかけて、ユリアに訊く。
「手強いって。それはこの俺の容姿でもって事か?」
情けないが、自分の容姿を引き合いに出してしまった。
今までこの容姿に群がる者共を忌避していたのに…。
「はっ!ロイド様の低音の『俺』呼び…、腰にクる。じゃなくて!スカーレット様は容姿で男性を選ぶような方なんですか?」
「違うな」
「そういう事です。容姿で評価されるなら圧倒的にロイド様の方が上ですよ?そのミルクティー色のサラサラの髪、鋭いエメラルドグリーンの瞳には知性を湛え、老若男女問わず見る者を魅了するその尊顔。身長も高く、均整の取れた体から発せられる色気…、完璧以外の言葉が見つからないですね。でも外見ではなく、努力している姿に好感を持つスカーレット様だからこそ、ショウ王子は手強いのです」
ユリア、めちゃくちゃレティの事わかってるな…。
「いったい俺は、どうすればいいんだ…」
「簡単ですよ」
「何っ!?」
「スカーレット様が、よそ見が出来ないくらい溺愛すればいいんです」
「そんな事で?」
俺は疑いの眼差しを向けてしまう。
「それが重要なんです!ロイド様の愛情って、スカーレット様にきちんと伝わっていますか?」
「そんなの伝わって…」
「いないよ」
「殿下!」
殿下が口を挟んでくる。
「たぶん、ロイドの思う10分の1くらいしか伝わっていないよ」
「えっ?」
「ロイド、嫉妬して拗ねた態度をとったり、寂しいという気持ちをスカーレット嬢に見せた事あるの?」
「そんな事、思っても態度には出せませんよ!」
「ロイド様、そこなんです!人は普段見せない態度にコロッといってしまうものです!それが自分の前でだけだと認識したら尚更です!スカーレット様の母性本能に訴えかけましょう!」
「そういうものなのか?」
「はい!いきなりだと難しいと思いますし、スカーレット様も警戒すると思いますので、少しずつ本心をさらけ出していってください」
「…わかった。努力する」
「ロイド、頑張れよ」
俺は、二人に大きく頷いた。
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