19.一を知って十を知る
俺も含め、みんなの怒りボルテージMAXだ。
「冗談じゃねえ!そんなヤツにギャビーをやれるかよ!いや、やらんけど!!」
「抹殺…、抹殺…、滅殺…、焼却?」
「ヨハン怖っ!!でも激しく同意だわ。俺も加勢する!!イザベラを一目見る事なくこの世から葬り去りたい…」
「殺るしかないですね。裏工作なら任せてください。ダイス王国に公爵家から何人か送り込んでますから」
「いやいやいやいや!まだ未遂だからな」
「でも殿下。そんなに悠長にして、クロエが即攻略されたらどうします?」
「殺るしかないだろう!」
みんなの中に一体感が生まれた。
「皆さん、それで婚約者を蔑ろにしたら、本当にシナリオ通りになりますよ?」
ユリアの一声に一同がピタッと止まる。
「どういう事?」
アレクシス殿下が訊く。
「ですから!今回の話は、そもそも婚約者と仲良くいっていない所に付け込まれるんです。婚約者を溺愛して、隙を作らなければ攻略される事はありません!」
「でもアビゲイル嬢は?」
「妊娠中ですし、マタニティブルーだったんじゃないんですか?」
「あっ!!そっかぁ〜」
殿下が一人でウンウン頷いている。
はて?マタニティブルーって何だ?
「殿下、マタニティブルーとは?」
「マタニティブルーっていうのは、妊婦が陥る可能性のある精神状態の一つで、妊娠・出産やその後の育児に対する不安症の事を言うんだよ」
「なるほど…。アビゲイル嬢はその状態のために付け込まれてしまったと?」
「だと思います。でなければ、あのレオ王子からショウ王子に乗り換える理由がありません!」
「ユリア…、よだれ出てるぞ」
「あっ!しまった…。失礼しました」
アレクシス殿下の指摘で、ユリアが袖でよだれを拭う。
彼女の性格を考えると…、まぁきっとタイプだったのだろう。
俺は辺りを見回す。
やっぱり…。
「ユリア」
「はい、ロイド様!」
「ヘイムダルが見てるぞ」
「えっ?…ひぃっ!!」
「まぁ、身から出た錆だ。頑張れ…」
鬼の形相でヘイムダルがユリアを引っ張って行った。
何をされるかはわからんが、これからも仕事があるから無事に生還してほしい。
「ヘイムダル…。意外と熱い男だったんだな」
イスタークが驚いたように言う。
「みんな、惚れた女には執着したいんですよ」
「ロイドからそんな言葉が出るとは…」
「どういう意味です?」
「そのまんまの意味だよ。レティとフェイロン皇子の手合わせを承諾したこと、兄として俺は正直どうかと思っている」
イスタークが不機嫌そうな顔をしている。
やはり兄として、妹は可愛く、心配のようだ。
「それは…」
「本当に惚れているなら遠慮なんてするな。確かにレティは強いし、ミレン辺境伯家の血を間違いなく継いでいるが、それでも『お前を守ってやるから危険な事はするな!』という男気は見せてもらいたかったぞ、ロイド」
「イスターク…」
「そんな顔が出来るなら、後悔はしているということか…」
「えっ?」
イスタークが厳しい顔つきから表情を崩した。
俺は自分の顔に手をやる。
「まぁ、よく考えろ!父上は1週間後にこちらに到着するそうだ。お互い、血の呪いには抗えないからな」
そう言って、頭をポンポンと叩かれる。
…俺にこんな事ができるのはイスタークだけだな。
年長者とは、こうも頼りになるものなのか。
レティに誠実に向き合うために、俺はもう一度自分を見つめ直してみる事にした。
「みんな、そろそろ大広間に行くぞ」
『はい、アレクシス殿下』
俺達は、ティーダ国とダイス王国の謁見に立ち会うため、大広間へと向かった。
――――そんな二人のやり取りを物陰からそっと見ていた人物がいた…。
「ゆ、由々しき事態だわ…。イス×ロイですって!公式からこんな供給があるなんて思いもしなかったわ。さっそく部屋に戻って創作の続きをしなければ!!」
そう言って足早に部屋に戻っていったのは、転生者であり、オルフェル連邦国の王女であるエイダだ。
彼女は生粋の腐女子であった。
――――大広間にて
「レオンハルト・レオ・ティーダ、お祝い申し上げるため、ティーダ国より参上しました」
片膝をつき、レオ王子が陛下に挨拶をする。
「ありがたく頂戴する。楽にしてくれ」
陛下の言葉でレオ王子が立ち上がる。
「貴国とは思い違いもあったが、末永く良い隣人でありたい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
軽く礼をし、レオ王子がさがる。
他国といえど、さすがに王の前では真名を名乗るんだな。
ティーダの王族は、ファーストネームは『神』と『王』の前でしか名乗らない。それだけ神聖なものとして扱われるからだ。
そのため、通常はセカンドネーム以下を名乗っている。
それが他国でも適用となるのか見ものだったが、これは「我が国と友好的に在りたい」という意思をレオ王子が示したような形だな。
中々にレオ王子も切れ者のようだ。
続いてダイス王国のショウ王子だ。
「ダ、ダイス王国のショウ・ダイスです。この度は、大変おめでとうございます」
片膝をつき、陛下に挨拶をする。
本来、「おめでとう」はアレクシス殿下に言う言葉だ。
この謁見は、訪問の理由と到着したことを陛下に報告するための場である。
陛下にとっては退位が控えているため、おめでたい話ではないだろう。
大臣達も眉をひそめているが、そんな些細な事はどうでもいい。それよりも気になるのは自信の無さだ。
ショウ王子は今回、ダイス王国の代表だ。彼が堂々としていないと、ダイス王国までナメられてしまうことを彼は知らないのだろうか。
彼の側近達はいったい何をしている!
見てみろ。フェイロン皇子がヘビのように見ているぞ!
「ありがたく頂戴する。楽にしてくれ」
ホッとしたようにショウ王子が起立する。
「今回は他国も滞在する。貴国にとって実りあることを祈る」
「ありがとうございます」
そう言って、ショウ王子はさがった。
今の話だと、陛下はさっそくフェイロン皇子に懐柔されているな…。
ユファ王太后様の根回しの速さに戦慄した。
さすがは父の政治の師匠である。
ユリアが…(笑)
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