12.剣姫スカーレット
憂鬱だ…。
何で好き好んで、レティとフェイロン皇子の手合わせの段取りをしなければならないのか…。
『他意は無い、シュブランに恋人がいる』、とは言っていたがどこまで信用できるのか。
だって対峙するのはあのレティだぞ!
女神の化身かと思われる美しさに、聖女のような慈愛、そして天女のような声音…。
絶対、惚れるに決まってる!!
フェイロン皇子は『強さ』にも拘っていたから、尚、危ない!
悶々としていたら、いつの間にか家についていた。
「っっっはぁ〜〜…」
馬車を降りた所で大きなため息をつく。
御者のライアンがビクッと大きく肩を揺らした。
「ロ、ロイド様。私、何か粗相でも致しましたでしょうか?」
おずおずと彼が聞いてくる。
「あぁ、すまん、別の考え事をしていた。ライアンが悪いワケではない。いつも通りスムーズな運行だったから、気を悪くしないでくれ。そうだ、これで帰りに一杯やるといい」
「いえいえ!そのお言葉だけで十分です!十分なお給金も頂いてますし!」
「いいから取っておいてくれ。良い仕事をする者には報いなければ」
そう言って俺はライアンの手に紙幣を握らせる。
「あ、ありがとうございます!本当にウィラー公爵家の方々には良くしていただいて…。帰りに家族にケーキでも買って帰りますよ」
「ライアンにと思ったんだが、いいのか?」
「いいんです。帰りに一人で一杯やるより、家族と笑って過ごした方が楽しいですから」
「そうか…。子ども達も喜ぶだろうな」
「はい。本当にありがとうございます」
そう言って満面の笑みのライアンと別れた。
家族か…。
俺もいつかレティと…。
レティによく似た、ブルネットに翠色の目の子どもを想像する…。ヤバい!超絶可愛い…。娘だったら絶対に嫁になんかやらない!
「お父様、大好き」とか言われたらもう…。
「…イド様。ロイド様!!」
「はっ!」
「お帰りなさいませロイド様。いつまでも玄関でニヤニヤしているのは、いくら顔の整ったロイド様といえど、流石に気持ち悪いですよ」
「ベイリー、本当に容赦が無いな…」
執事長のベイリーに指摘される。
この老獪な執事長には本当に敵わない。
ベイリーは俺が調子に乗ると、すぐに頭を冷やしてくれる。
恵まれた出自でも、驕ることなく成長できたのはひとえに彼のおかげであろう。
いつまでも長生きしてほしいものだ。
「それにしても、お早いお帰りでしたね」
「そうだった!」
二人の子どもを妄想して幸せな気分に浸っていたが、本来の目的を思い出して絶望する…。
「ベイリー。レティはどこにいる?」
「奥様とクロエ様と一緒にサロンにいらっしゃいますよ」
「わかった。ありがとう」
俺はサロンに向かった。
コンコン。
「どなたです?」
「ロイドです」
「入りなさい」
中から母の声が聞こえ、入室を許可される。
「失礼します。ただいま帰りました」
「お帰りなさい。今日は早いのね?」
「お帰りなさい、ロイ様。お疲れ様です」
はぁ…。レティ、癒やし…。
「…お兄様。何かあったのですか?」
クロエが顔を引き攣らせながら聞いてくる。
くっ、レティを堪能していたのに邪魔をされた。
仕方ない、本題を伝えよう。
「あぁ、シュブラン皇国のフェイロン皇子がレティと手合わせしたいそうだ。皇子は剣舞を嗜まれているが、剣術の腕も相当なものらしい。レティはこの国で剣姫と誉れ高いからな。腕試しがしたくなったそうだよ」
「そんな!それでレティが怪我をして、傷でも残ったらどうするんですか!!」
クロエの反論はもっともだ。
だが、大国の皇子の意向も無視できない。
相手はシュブラン皇国の皇帝になるかもしれない男なのだ。
俺はレティに聞いてみる。
「レティ。嫌なら断っても良い。フェイロン皇子の申し出を受けるか?」
「はい!是非!!」
「えっ!即答!?」
「正気ですの!?」
俺とクロエは驚いて目を丸くする。すると、笑い声が聞こえてきた。
「フフフ、フフッ…。ナディアの言った通りね」
「母上?」
「どういう事ですの?」
母上は何か知ってるらしい。
「レティのお母様のナディアが言っていたわ。レティも間違いなくミレン辺境伯家の一人よ、とね」
「ミレン辺境伯家の一人って…?」
俺は絶句したが、クロエがわからないという顔をしていたので俺がこっそり説明する。
「つまり…、危険第一の戦闘狂という事だ」
「えっ!!嘘でしょ?」
「じゃなきゃ、『剣姫』などと大層な二つ名を戴かないだろう?」
「それでもあのレティよ?見た目完璧なのに、ちょっと抜けてるあのレティよ?」
「剣の腕前はミレン辺境伯と互角らしいぞ。剣だけならイスタークよりも上のようだ。実際、俺もハンデ有りでもレティに剣では敵わない…。剣に関してはセンスが抜群に良いんだ」
「あの『戦場の死神』の異名を持つイスターク様より強いのですか?!」
「なんだその異名は…。どこで仕入れた?」
「近衛騎士が言ってましたわ」
「無駄口叩くなと、後でシバいておこう…」
そんな話をしていると母上の檄が飛ぶ。
「そこ!何をコソコソしているの!」
「すみません!!」
「まったく…。レティが戦の決意を固めているというのに情けない…」
「母上、戦ではありません。ただの手合わせです」
「黙らっしゃい!あなたには無事を祈ってレティを励ます気持ちはないのですか!」
「いえ、それはありますが…」
「それなら男らしく態度で示しなさい!」
そう言って、母上はクロエを連れて足早にサロンを出ていく。
扉を閉める前に親指を上げてニヤリとしていたのが気になった…。
うん?
クロエを連れて?
親指?
励ます?
!!!!!!
そういう事かァァァ!!
ロイド、ファイト!!(笑)
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