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眠れる星の少女  作者: 今井まい
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8 嵐の前の静けさ

7月、久しぶりに大学に行った。




卒業単位は3年生のうちに全て取りきってしまった為、4年生は1つしか授業を取っていなかった。しかもオンライン。今日は、最後のテストを対面で受けに来たのであった。資料持参可能のテストだった為、実に簡単だった。時間の半分で終わってしまったので、机に伏せて寝てしまった。

今日は午後にルイさんと合流し、商店街のお祭りに行かなくてはならない。体力温存しておかなければ。


「はい、時間になりました。後ろからテスト回してください〜」

今日初めて会った教授。実物はこんな感じなのかと少し感心した。オンライン授業の悪いところは人に関する情報が少量になってしまうところだろう。

テストが回収され、荷物をまとめて席を立とうとすると教授に「はい、ちょっと待ってくださいね」と言われ、慌てて椅子に座った。

「はい、このプリント大学から貰ってるので持ち帰ってよく読んでくださいね〜、アプリの連絡です」


アプリ?


配られた紙を見た。「モンスタースリープ」とデカデカと書かれ、可愛いキャラクターと共に大きなQRコードがある。

最近巷で大人気になった『モンスリ』。時空波中の眠りの波形を測定し、より快適な睡眠をしているとモンスターが育つアプリだ。

1ヶ月前からよくCMをやっているが、まさか大学から手紙がくるなんて。下の方に「内閣府、時空派対策庁推薦」と書いてある。そんなに素晴らしいものなのか?大袈裟だろうと思いプリントをカバンに突っこんだ。



お祭りに行くルイさんと合流するために急いで大学を後にすると、ルイさんは最寄り駅で待ってくれていた。

「早いねー、テスト後でご飯とかなかった?大丈夫?」

「いえいえ!!お気になさらず」

……本当は友達なんぞ居ないので誰にもご飯など誘われていない。心配をかけるのでルイさんには内緒にしておこう。

「待ってる間ね、これやってたのよ。泉ちゃん入れた?」


画面を見ると『モンスリ』だった。またお前か。

「なかなかモンスター強くならないのよ。早く時空波来ないかしら」

ふーんと素っ気なく答える。

私はそのアプリをやっていない。出来ないからだ。

時空波中の睡眠の波形を見られると、眠っていない事が1発でバレてしまう。


「モンスリのイベントが商店街のお祭り期間に開かれるんだけどさ。ねぇ、聞いてる?」

「聞いてます聞いてます」

「泉ちゃん興味無いの丸わかりだからね!?ごめん、今日は付き合って!お願い!!」


商店街に行くと、七夕飾りが沢山上から吊るされていた。商店街の各お店が作成したものらしく、楽器屋さんは音符モチーフの飾り、和服屋さんは華やかな和柄であった。お祭り自体は初めて来たが、色とりどりの飾りを見ていると明るい気分になった。道の端では屋台も出ており、とても香ばしい匂いがする。


ルイさんは七夕飾りを見て興奮していたが、モンスリの旗を見つけると好きなモンスターを語り始めて止まらなくなってしまっていた。私は軽く相槌を打ち、右から左へ受け流していた。


商店街の真ん中へ来るとモンスリのイベント会場があった。アプリを見せると特製ステッカーとアプリ内スペシャルアイテムが貰えるそうだ。(私はよく分からなかった)

横について行こうと思ったが、混雑防止の為なるべく1人で並ぶようにと書かれていたので、ウキウキで列並んでいるルイさんを見ながらテントの横で待つことになった。列のスピードから見て10分くらいはかかりそうだ。


テントの横でりんご飴を食べていると、イベントの女性スタッフが笑顔で近づいてきた。

「あの良かったら、こちらどうぞ」

女の人はモンスリの柄がついたうちわをくれた。ルイさんが好きなキャラクターもいたので後であげよう。

「お姉さんは、アプリお持ちではないんですか?」

はい……と言うと女性スタッフの顔が急に真剣になった。





「あの、理由をお聞かせ頂けますか?実はアプリの普及の為に、入れない理由も聞いているんですよ〜。現在モンスリアプリの普及は全キャリアのうち40%ほど、10〜20代に絞ると70%を超えました。通話アプリと簡単に連帯できるのが強みなんです。来月のアップデートで睡眠時間でポイントを貯めることが出来て、さらにそのポイントをお買い物でも使えるようになります。ぜひこれを機に入れてみませんか?本日ダウンロードしましたら500円分のポイントコードプレゼントしますよ」


……早口で急に説明され、少し怖くなった。ただのアプリにこんな熱心になるだろうか?怪しくはないだろうか??……いやいや、仕事だもの、必死になるのが普通だよね。自分を言い聞かせて落ち着かせた。


「あ……いや単に携帯のギガ数が……」

「あらそれなら!データが軽い簡易版もあるんですよ〜ご存知ではなかった!?どうですか?」

「いや、セキュリティがちょっと気になって……申し訳ないです」

圧に押されたが、ここは耐えなくてはならない。

「とにかく、入れません」

女性は少し悲しい顔をして、分かりました、御協力ありがとうございました。と言った。

「最後にちょっと小耳に……」

「なんですか」

「近く、全国の健康診断に睡眠波形が追加されるそうです。健康は睡眠から……だそうで。ぜひアプリ検討してくださいね」

では!と女性はテントに戻って行った。




血の気が引くとはこのことだろう。


これは、まずいかもしれない。



睡眠アプリの普及から睡眠波形が健康診断へ追加される?明らかに、社会から眠らない人間を炙り出そうとしていないだろうか。私と曽根くんの存在が、勘づかれてしまったということなんだろうか。


その後ルイさんと合流したが、何を話したのか全く覚えていない。見つかるという焦りと恐怖が現れ始めてしまい、食べかけのりんご飴が喉に通らなくなった。

段々と日常が離れていく気配がしてきた。いや、現在普通の生活が出来ているだけでも異常なのだ。

私と曽根くんが見つかるのも時間の問題かもしれない。






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お祭りから1週間経った。


夜10時、玄関の向こうでゴソゴソと聞こえる。

こんな夜中に一体誰が、と思い玄関のドアスコープを覗いた。女性と男性が立っており、まもなくチャイムを鳴らした。


「時空派対策庁のものですが」



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