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眠れる星の少女  作者: 今井まい
10/16

9 終わりの始まり

「どうして、狐面を絞り込めたんですか?」



小枝茜の部下、谷岡はふてぶてしく言った。

小枝は夜道を歩きながら、コンビニのコーヒーをチビチビと飲んでいた。

「谷岡、お前、狐面は野生動物の見間違えだとか何とか言ってたよね。教えてやらないよ。」

「え、いいじゃないすかそんな前のこと。お願いしますって」

「言い方」

「…教えてください。」

よし。小枝は嬉しそうに言った。

「狐面は全国で確認されているけど、唯一映像が取られたのは群馬県高崎市。その点から関東に絞って私は調査していたの。」

「え、あの狐面、伏見稲荷のお面って言っていませんでした?」谷岡が口をはさむ。

「…確かに前にその話をしたけど、伏見稲荷って全国誰でも行くでしょう?しかも関東の中学生は9割修学旅行で京都に行くし、京都で絞るのは全く現実的ではない。ちょっと黙りなさい」

「はい」谷岡はしょんぼりとした顔をした。

「そもそも狐面の目的は、人の救助であるようなのよ。時空波に間に合わずに道で寝てしまった人に毛布がかかっている事例が数多くある。…巷では妖怪だとか妖精の仕業だとか言われているけどね。実際に狐面の映像が撮られた周辺で毛布がかけられた老人が見つかったの。あとは道路で寝てしまったせいで足を擦りむいた少年に絆創膏を貼ったりね。」

「へえ~いいやつなんですね。それで?」

「緊急通報の履歴を見る事にしたのよ」

「緊急通報?」

小枝と谷岡は薄暗い階段を登り始めた。


「日本の警察は緊急通報に使われたスマートフォンの位置情報を取得することが出来る。もし時空波中に大怪我をしてしまった人がいたとしたら…狐面はどうする?心優しい狐はすぐに119番するんじゃないかと思った。まあ可能性として考えられるかなって。そして時空波庁の権限を使ってね、怪しい緊急通報の履歴を調べさせてもらうことが出来たの。」

「でも、関東全域の緊急通報を見たんですか?雲をつかむような話ですが」

「関東全域ではないわよ。ネットの掲示板を頼りに…それも噓か本当かわからないような情報までね。とりあえずその周辺を洗いざらい調べたのよ。…そして、神様は私に味方したのね。」

「それが、あの商店街の」

「そう、5月、あの商店街のどこかで119番が発信された。時空波が終わった直後に。眠りから目覚めた人間がすぐに電話できると思う?」

「…なるほど」

「時空波中に状況把握が出来る奴、つまり狐面の可能性が高いってことよ。そして、その時救急車に乗った人間、狐面に会っている可能性が高いのが…」

2人はマンションの一室の前に来た。



それは、松井瑠衣の部屋だった。



-------------------------------------------------


祭りから一週間が経ったある朝だった。猫がカリカリとベランダの網戸を引っ掻く音がする。ここの所毎日やってくる。やはり飼うしかないのかもしれない。

ベランダの網戸を開けようとすると、瑠衣さんから電話が来た。普段からメッセージしか送ることのない瑠衣さんがどうして電話なんてしてくるのだろう?


「おはようござ…」


「泉ちゃん、昨日ね、夜に変な人が来たの。それで前に時空波中に怪我をしませんでしたかって。誰に救急車呼んで貰ったの?って聞かれて…私、泉ちゃんのこと話したの。そしたら、ありがとうございましたってすぐに出て行っちゃって…泉ちゃん、なにかあったの!?」

「え、それ、一体誰が来たんですか?」

「それは…」



ピンポ――――――――――――――――――――――――――ン



玄関のチャイムが鳴る。


「時空波対策庁って言ってた」




「早朝にすみませーん、時空波対策庁の小枝茜と申します、ちょっとお話聞かせていただけませんか?」

この時の私は冷静な判断が出来なくなっていた。平然を装ってドアを開けるべきだろうか。でも何かしら特定してきたのだろう、防犯カメラか?モンスリを入れなかったせいか?それとも…

「いらっしゃいますよねー?」

ドンドンと扉をたたいてくる。頼むから叩かないでくれ。音のせいで混乱する。

逃げるにも裏口…なんてないし、ここは2階だから飛び下りて逃げるわけには…

あたりが騒がしくなって警戒したのだろうか、ご飯を食べていた猫が逃げていった。ベランダの手すりから屋根に飛び乗り、屋根をつたってブロック塀へ渡っていった。


これしかない。


玄関の靴を履いてから、ベランダの手すりをまたいで屋根に出る。ブロック塀まで30cmほどあったが、勢いよくジャンプしてなんとか飛び乗ることが出来た。


ガタンッッッッッッ


衝撃で雨どいが外れてしまった。なんだ、数年前リフォームしたって言ったのに!雨どいはオンボロだったのかよ!!

音で気づかれてしまった。時空波庁の人間が階段を下ってくる。

「待って!!!!!!!話がしたいだけなのよ!!!!」

後ろを見ると小枝ともう一人が追いかけてくる。横の男は足が早く、どんどん距離が迫ってきた。

私は裏路地を、知らない道をひたすらに走った、走った、生まれて初めてだ、こんなに必死に走るのは。





そしてこの時、とても奇妙なことが起きた。

時空波のカウントダウンのサイレンが鳴り始めたのだ。


奇跡だ


ウ~~~~~と鳴り始める音を聞き、慌てた人が急いで家に戻っていく。「今日時空波の予報なんてなかったじゃない!!」「今日の予定どうすんだふざけんなよ!!」罵詈騒音が聞こえてくる中、私はその人達をかきわけて進んでいく。この先どこに逃げればいいのかわからないのに。

時空波が起きれば私は間違いなく逃げられる。でも、今後間違いなく時空波対策庁に疑われるだろう。誰か、誰か助けて。


時空波まで、残り3分です。



「泉さん、こっち!!!!!」

曽根くんだ。何故曽根くんがいるのか全く理解不能だったが、今はそんなこと考えている場合ではない、曽根くんのバイクに乗る。




時空波まであと5秒。




では皆さん、良い夢を……




青い光があたりを包み込む。



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