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第十四話

 天界の場所と行き方はレアちゃんが知っているらしい。

 良く考えれば当然のことで、元々はレアちゃんだって神々の一員として天界にいたのだ。

 でも、天界から下界へと降りるのと、下界から天界に昇るのとじゃ難度に違いがありそうなものだけれど、その辺りはレアちゃん大丈夫なのかな。


『何を言っている。飛び乗ればいい話だろうが』


 ……ちょっと、レアちゃんが何をいっているのかよく分からない。

 物理的に可能な問題なの!?


『空間が繋がってなくとも、無理やり繋げればよかろう』


 そんなことできるわけないでしょ!


『貴様ができないのは我の身体を使い慣れていないからだ。本来なら容易いことだぞ』


 ああ、忘れてた。

 俺が動かしていてもチートなんだから、本来の持ち主であるレアちゃんが動かせば一層チートになるのは自明の理じゃないか。

 よし。ろくでもない神様たちみたいだし、放置して変なところで横槍を入れられるのも困る。

 行けるのなら早めに対処しておくのいいかもしれない。

 ユキカちゃんとエリンちゃんを早速誘おう。

 ミリーちゃんはさすがに危険過ぎて連れてけないからお留守番だ。


「ユキカ、エリンよ。神々の元へ忘れ物を取りに行くぞ。共の準備をしろ」


 相変わらずの大魔王モードの俺の足は、「大魔王たる者いつも優雅に」というレアちゃんの主義を頑なに守り続けているので、いざ離れた場所で危機に陥られると助けに行けないからな。


「忘れ物? 私はいつでも行けるよ!」


「二百年前は大魔王としてしか知りませんでしたけど、そういえばあなたどうやって私たちのことを助けましたの?」


『お前たちを魔神の力で支配し、神から奪い取っただけだ。大したことはしていない』


 俺と話せて嬉しそうなユキカちゃんと、不思議そうな表情のエリンちゃんが対照的だ。

 ユキカちゃん男なのに、笑顔がエリンちゃんより可愛いのは何でだよ。

 レアちゃんの発言をそのまま復唱して伝える。


「お前たちを魔神の力で支配し、神から奪い取っただけだ。大したことはしていない」


 こういう時だけ一文字も改竄されずに正確に伝わるのな!

 チクショウ。


「へー。……ん? 魔神?」


 目を丸くして俺の、正確には俺を介したレアちゃんの話を聞いたユキカちゃんが始めて出た単語に食いつく。


「教会の聖書にはこう書いてありますわ。遥かな昔、神々に反逆して地上に落とされた神がいたと。その神は自ら犯した過ちによって邪悪な存在と化し、魔神として人間を支配しようとし、神々によって討ち滅ぼされたと」


 さすがに元聖女なだけだってエリンちゃんはルフスラグナ教の伝説に詳しく、記憶力も良くて当時見聞きした内容を今でもきちんと覚えていた。


『まあ、ほとんど出鱈目だな。我は反逆した咎で追放されたのではなく、神々に愛想を尽かして奴らをぶちのめして自ら去ったのだ。人間を支配しようとしたのも、人の魂を弄ぶ神々から守るためであり、そもそも我は神々に滅ぼされてなどおらぬ』


「お前たちの仲間を神々から取り返しに行く。共をせよ」


 ユキカちゃんとエリンちゃんの目が見開かれ、表情が真剣になる。


「……うん!」


「分かりましたわ!」


 弾んだ声の二人の顔には笑顔が浮かんでいる。

 仲間を助けられると知って、ユキカちゃんとエリンちゃんは嬉しそうだ。

 でも、どうやって天界まで行くの?

 肝心な方法を俺聞いてないんだけど。


『天界に行くには一時的に我が身体を操作する必要がある。貴様に我に身体を返す度胸があればだが』


 挑発するようなレアちゃんの言葉に、俺はちょっとムッとした。

 いいだろう。貸してあげようじゃないか。

 今回はやることが分かってるし、何か変なことしようとした時点で返してもらうからね。


「ふふ。やはり、自らの身体を動かすのはいいものだな」


「……レア? あれ?」


「変ですわね。同じなのに、どこか雰囲気が……」


 凄い。

 ユキカちゃんもエリンちゃんも、補正が掛かって俺が動かしても完全に大魔王レアになってるのに、俺とレアちゃんの違いが分かるのか。


「気にするな。我は何も変わらぬ」


『貴様もだ。前世の我よ。貴様と我は全く同じ存在。我と貴様の違いは、貴様の記憶の有無以外に無い。そして貴様の記憶を我も得た今となっては、真に一つの存在となった。どちらの自我が主導権を得るかなど些細な問題だ。忘れるな。もし我の自我が消えるようなことがあれば、貴様が我として生きるのだぞ』


 レアちゃん……。

 まさか、そんなことを思っていたなんて。

 頑張る。俺、頑張るよ!


『まあ、我は貴様として生きるなど死んでも御免だがな! ハハハハハハハ!』


 台無しだよ!

 俺の感動を返せ!



■ □ ■



 で、どうやって天界まで行くのレアちゃん。


「それはな、こう行くのだ」


 おもむろにガシッとユキカちゃんとエリンちゃんの首根っこを掴んだレアちゃんは、ぐぐぐっと両足に力篭める。

 ……うん?

 レアちゃんに身体の支配権を明け渡して意識の奥に引っ込んでいる俺が、不思議な行動に出たレアちゃんを見て、首を傾げた瞬間。

 まるで自分自身に落雷が降ってきたかのような耳をつんざく轟音が響き、レアちゃんの目を借りて見える視界が不可解な現象を引き起こした。

 いつの間にか俺は空中に飛ばされていて、眼下で大地が物凄い勢いで沈んでいくのだ。

 俺はその考えをすぐに打ち消す。

 違う。

 大地が沈んでいくのではない。俺自身がぐんぐん空へと上昇しているのだ。それも、まるでスペースシャトルのような速度で。


「うわああああああああ!?」


「きゃああああああああ!?」


 たまらないのは、首根っこを掴まれているユキカちゃんとエリンちゃんであり、英雄として遜色無い実力を持つ二人でなければ、既に気絶しているか、死んでもおかしくない衝撃に晒されている。


「何、死んでも蘇生してやる。心配するな」


 俺の心の声を読んだレアちゃんがくつくつと笑う声は、風圧に邪魔されることなく、何故かよく響いた。


「ひ、酷いいいいいいいいい!」


「そういう問題ではございませんわああああああああ!」


 あまりの勢いで飛んでいるため翼を使う余裕も無いらしく、風圧に翼が負けている。

 二人の悲鳴も途切れ途切れで、レアちゃんの耳を通じて俺に聞こえてくる音量も小さい。

 そして、俺の視界にレアちゃんのステータス画面が出た。



【名前】

レア


【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)

レベル:100

最大体力:∞/∞(測定不能)

マナ循環力:∞/∞(測定不能)

筋力:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

器用:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

敏捷:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)(非戦闘時は30で固定)

魔力:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

精神:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

運:1(+10000)(単独行動自+さらに15000)


【種族】

魔神族


【クラス】

大魔王


【スキル】

『威圧』『睥睨』『嘲笑』『強者の余裕』『重圧』『逃走妨害』『支配者』『慈悲』『絶対者の孤高』『オートリザレクション』


【ユニークスキル】

『魔神』『世界の終わりまであと○○日』



 何度でもいうけど、これはレアちゃんのお遊びだ。

 この世界にステータスなんてものはないし、これらのスキルも数値も、全てレアちゃんの知識で強さやできることを分かり易くスキルやステータスとして表したに過ぎない。

 だから、この世界の人間にスキルやステータスといっても通じない。

 記憶と身体を共有する俺とレアちゃんだからこそ通じる単語だ。



【システムメッセージ】

大魔王レアがユニークスキル『世界の終わりまで○○日』を発動しました。

大魔王レアはユニークスキル『ラストボス』を獲得しました。

大魔王レアはユニークスキル『魔神の息吹』を獲得しました。

これより、世界終末のカウントダウンが始まります。

カウントダウンがゼロになると神々対魔神の最終戦争が勃発し、世界が滅びます

『世界の終わりまで○○日』を発動するたびにカウントダウンが1減ります

現在のカウントは9です



 何かまたレアちゃんが危ないことしてるうううううううううう!?

 この『世界の終わりまで○○日』って、ユキカちゃんとエリンちゃんを助ける時に使ったスキルじゃないか!

 カウントが減っていくのにそこはかとなく恐怖をかんじるんですけど!?

 ゼロになると世界が滅ぶとか書いてあるんだけど、どういうことなのおおおおおおおおおおおお!?


「ちなみにカウントがゼロになると魔神として神々に戦争を吹っかけるぞ。(われ)が。結果として世界が荒廃して滅ぶのだ。良かったな」


 良くねーよ!

 まさかのレアちゃんの自作自演手動イベントでした!

 いや、実際はイベントなんていうシステムないから知ってたけどさ!

 空中でレアちゃんがユキカちゃんとエリンちゃんを掴む腕を思い切り振り上げる。

 背筋を逸らし、シャチホコみたいになったその体勢は、まさか。


「え」


「ちょ」


「──飛べ」


「「いやあああああああああああああ!?」」


 投げたあああああああああああああ!?

 何やってんの!?

 どうしてユキカちゃんとエリンちゃんを投げちゃってるの!?

 二人の悲鳴がドップラー効果で小さくなっていくよ!?

 このままじゃ二人ともお星様になっちゃうよ!


「開け。天界への扉よ」


 レアちゃんが厳かに呟くと同時に、空間が割れて黒い霞のような何かが噴き出て、ユキカちゃんとエリンちゃんの行き先の前で大きく円を作り、円の中の風景を覆い隠した。

 そのままユキカちゃんとエリンちゃんが黒い霞の中に消える。



【システムメッセージ】

大魔王レアが『魔神の息吹』を使用しました

空間が破壊され、一時的に天界が露出します

『魔神の息吹』によって天界の一部が汚染され、魔神の尖兵ユキカと魔神の尖兵エリンが建物を倒壊させました

神々が激怒しました

『神罰』が発動しましたが、『魔神の鉄槌』によって迎撃されました

『魔神の鉄槌』が神々に深刻な被害を与えました

神々が天使に号令をかけました

天使がこれより襲いに来ます



 また何か出てるううううううううううう!?


「さて、我も行くか」


 楽しげに笑みを浮かべたレアちゃんが、再び強く地面を蹴ってユキカちゃんとエリンちゃんの後を追って黒い霞の中に飛び込んだ。

 これから俺どうなっちゃうのおおおおおおおおおおおお!?

 誰か助けてえええええええええええ!


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